勇者と料理人、街へ赴く
太陽が登り木々の間を光が通り抜ける時間帯。ルークは漏れてきた光を顔に受けて、顰め面で起き上がる。
「まっぶし。てことは朝か…」
起き上がると横には一見隙だらけな勇者が大口を開けて眠りこけている。
「ほんと勇者には見えないよな。こっちが勝手に想像してガッカリするのはおかしいんだけど」
ルークは昨日まで実際に勇者を目にしたことなどなかった。
もちろん話に聞くことはあったが、吟遊詩人によるものであったり、噂であったりなのでこの程度の乖離はあって当然なのだろう。
それにしても勇者っぽくないのには理由がある。
「髪色は珍しいとして、何故手ぶら…」
話を聞いてきたかぎりでは勇者は一振りの聖剣で戦っていたという。
だがこの男は聖剣どころか持ち物といったものを持っている様子がなく、今のところ名前が同じなのと強いという点しか分かっていない。
「うーん、怪しい」
ここでつい魔が差して寝ている顔面に1発入れて見たくなった。
しかしルークはこの考えは大きな間違いだったとすぐ知ることとなる。
「ぶぐっ!?」
ルークの拳がたどり着く前に、下から拳骨が飛んできてそのまま上に突き上げられてしまう。
「なんだぁ?つい反射でやっちまったけど」
ライトが寝ぼけている一方、ルークは生きている心地がしていない。
それもそのはず、森を上から見渡せるくらい突き上げられてしまった。
「や、やだー!しにたくないー!」
当然の如くそのまま落下していくため、ルークは恐怖に叫び出す。
「ん?あぁ悪い悪い」
上からの声に気づいたライトが落ちてくるルークに軽い謝罪を入れる。
「たすけてぇぇ!」
「わかったわかった」
ルークの命乞いともいえる悲鳴にライトはやれやれといった様子で応じる。
次の瞬間ライトは自身の足で高く跳びあがり、空中にいたルークをそのまま抱え込む。
「ほら、もう安心だ」
「なんでさっきよりも高いところに行っちゃうんだよ!」
ライトはルークを抱えた後、勢い止まらず先程ルークが飛ばされた位置から2倍近い高度まで飛んでしまった。
「大丈夫大丈夫、跳べたってことは着地もできるってことだ」
「そういう問題じゃああああぁ!?」
話している間に2人の体は落下運動に入り、森にはルークの悲鳴がこだましていく。
叫びながらルークは心に決める。
ライトが本当に勇者なのかはとりあえず置いておいて、下手に手を上げることはしないと。
無事に地上への帰還を果たしたルークは、昨日抱えたしまった借金に思いを馳せていた。
当然の如くお金は無い、その上昨日は家まで無くしてしまった。
まあそのせいで払えるはずもないのに飲みまくってしまったのだが。
これからのことを考えてルークは体が萎んでいく思いだった。
その様子を見ていたライトが声をかけてくる。
「お前はこれからどうするんだ」
「とりあえず街に戻ってお金を稼いで借金を返さないとって感じですかね」
「ま、街だと?」
街という単語にライトの様子が一変して、突然ルークの顔近くまで寄ってくる。
「ちょっ近」
「頼む!俺を街に連れて行ってくれ!」
「は?」
よく分からない頼みに素っ頓狂な返事をしてしまう。
「俺はもともとモードルードって街に行きたくてここまで来たんだ!」
「それなら昨日あんたが倒れていた場所がまさにモードルードだよ」
「は?」
今度はライトが素っ頓狂な返事をする。
しばしの間沈黙が流れる。
「いやはや、ゴール手前で力尽きちゃったのか」
ライトはケラケラと笑う姿を見てライトはやれやれといった気持ちになる。
2人の行き先が同じだったので、とりあえず街までは一緒に行こうという話になった。
「ここがモードルードですよ」
大した距離があったわけではなかったので、あっという間に目的地に到着する。
「うおお!昨日一瞬見た光景だ!」
「なんだか微妙な言い方ですね」
「これでも感動してるんだ。街に入るのなんて初めてだ」
「へー、へ?」
軽く流そうとしたら聞き逃せない一言に言葉が止まる。
「一度もって…」
「そんなに驚くことか?魔神討伐のときはずっと荒廃した大地を旅してたからな」
「でもそれから10年もたってて」
「まあそれは…色々あってな」
ライトは魔神を討伐したと言われている時から現在までの10年の話を露骨にそらす。
これ以上の追求はやめてほしいという思いを感じたルークはそこで口をつぐむ。
「そんなことはいいから飯だめし!」
「え、ちょっとー!」
ライトはルークの腕を掴みそのまま街へと駆け出していった。
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