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08-010-01-02 俺君剣聖二才、続々・弟子君いいトコ見せたい!

 祭り極まる酒場の外。酒場にテーブルを出し、そのテーブルを囲んで路上で輪になりジョッキでビールを煽っている三人組みの酔いどれがいた。


「なに、最強の剣士? そんなの決まっている。魔王軍の大幹部と一対一で渡り合った剣聖様に決まってるだろ? 光の剣を装備した最強の男」緑の服の男は顎を擦りつつ。

「でもあの剣聖様は負けたじゃねぇか」赤い服の男がジョッキをあおる。

「ケチつけるんじゃねぇよ」緑服の男が唾を飛ばした。

「俺はあれだな。俺はの剣聖だ。いつも平常心を忘れない、いや、感情を嘆きの川(コキュートス)に置いてきたとしか思えない無駄を一切省いたスタイル」黄色いチョッキを着た男が視線を宙に浮かべ、夢見るように言った。

 ──と。


 男達の話題は盛り上がる。


 だが。


 ──どこまで行っても俺君の名前が出てこないのはどう言うことなんだよッ! 俺君泣くぞ!!

 そうなんです。俺君は彼らの『最強話』に耳を傾けていたんです。


 ──ぐぬぉおおお! 俺君耐えろ、耐えろ耐えろーーーー!!

 俺君の込め髪がピキピキ鳴った。


「はら、一人、落盤事故の起こった廃鉱山に消えたヤツがいなかったか?」とは緑服の男。酒臭いのは当たり前。この男、かなり顔が赤い。

「いたか? そんなの」赤服の男。

「温泉好きの爺さんのことか?」と、緑服の彼は続けた。


 ──そう! その通り! もっと思い出せ、俺君剣聖! 頼むお前さんの灰色の脳細胞! おおおおお、思い出してくれよぅ!!


「でも爺さん、連れて行った綺麗どころを二人の命をその廃鉱山で救って、自分は昇天したそうだぜ?」と、緑服。

「ああ、俺もそれは聞いた事がある。行きは三人ずれだったのに、弟子二人だけで廃鉱山を出てきたとかなんとか」黄色いチョッキの男。

「たしか百歳近くなかったか? ええと、名前が出てこないな。名前が出てこない、ってことはたいした活躍をいてない──」緑服の男はそこまで言って、突然喉に突きつけられたオゾンの異臭をバチバチと放つライトソードに目を剥いた。


「あ、あんた──『群狼の』……」緑服の男の声が震える。

「あんたまさか」

「あんたが噂の……」

「お師様を愚弄する人はこのわたしが許さない」


 ──三人の声がハモる。


「「「妖精騎士『群狼の』アリムルゥネ!」


 ──「その通り」


 アリムルゥネは声を落とした。

 おお、おおおおおお、アリムルゥネの背中のオーラがたなびく。さすが俺の弟子君、俺をかばってくれるとは。ううう、感動モノである。


「でも、わたしよりお師様のライエン様が強い」


 アリムルゥネの口からでたライエンの名に、酔客の三人は驚く。


「「「剣聖ライエン、爆炎の剣聖!」」」


 ──う、うううううぉおおおおおおおおおおおおお!

 ついに俺君の名前が出た! 俺君さすが、俺君最高、俺君最強! 俺君剣聖、爆炎の剣聖!

 俺君はアリムルゥネの背でバタバタ暴れた。


『そうだ、俺の偉業をたたえよ、世界に届け俺の名よ! 最強を目指し今も日夜を修行に費やす俺君剣聖ライエン──ん? 声が出ないぞ?』


 俺君は左右を見た。

 ──ルシアが笑っている。見ると、赤い糸が俺君の口をこれでもかと大げさに縫ってある。


「んが、んん、んがほ!」

 俺君は詰まる。

 ちくしょうルシア、せっかくの、いや。この上ない俺君アピールチャンスが!!

 んおおおお、おおおおお! 俺君、俺君に救いを!


「始めて見た、『群狼の』」「俺もだ。物凄い威圧感……」「凄い剣気だったな」

「『妖精騎士』あの圧倒感!」「

 三人の話題はアリムルゥネの事で一杯だ。


 ──それに引き換え……俺君、俺君は!? 俺君のことはそんなおまけのような扱いで良いの? ──いいや、良いはずがない!


「俺君剣聖ライエン!」お、声が出た! ルシアが遊んでくれた唇の戒めがなくなっている!

 ──今だ、俺君の名前を天下に知らしめるとき!


「俺様剣聖ライエン!」俺はアリムルゥネの背中で再び叫ぶ。

「ああ、坊やはライエンのファンなんだね」赤い服の男。

「ライエンはカッコ良かったと言うし、憧れるのも無理は無い」黄色のチョッキの男が純粋な憧れの視線を俺君に寄越す。

「坊や。立派に成長してライエンの名に一歩でも近づいてみることだ。君には可能性がある。がんばれよ! 未来の二代目ライエン!」緑服の男が俺君に応援の言葉を送ってくれた。


 ──それでも。俺はアリムルゥネの背中でさめざめと泣く。


 俺君剣聖、爆炎の剣聖ライエン。

 ──だがしかし、この二才の肉体がついこの間まで八十八の老体だったことを知る者は少なく、信じる者はもっと少ない。


 ──だぁああああああ! 俺君──……ぐおお、再びルシアの魔力糸! 俺に弁論の自由を!

 泣こうと叫ぼうと、いや、今の状態ではどちらも無理だが──この地方の人々に俺君ライエンの名が弟子アリムルゥネの二つ名よりも知られていないことは確かなようである。

 

 ぐぬぬ、いつか必ず返り咲いてみせる。

 絶対だ、絶対!


 ──もう寝る! 不貞寝(ふてね)だ不貞寝! アリムルゥネ、ルシア。それではお休みなさいだぜ!


---


 ここで一句。

  俺君は 昇る太陽 これからだ (ライエン)

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