08-010-02 俺君剣聖二才、三人でナスをなす その一
酒場娘マドレスが、俺君達のテーブルの前に進み出て、さも独り言を装ってポツリと漏らす。
──無論、聞こえるようにだ!
「今年は茄子が不作で。揚げナスや焼きナス、それにシチューの具。茄子は大人気なのに出せないなんて。困った」
ウェーブの腰まである黒く長い髪が揺れ、目鼻立ちのしっかりした顔を飾り立てる緑の瞳。
彼女はもう一度、言った。
「だれか茄子を仕入れる猛者は……どこかに居ないかな? ほら、『群狼』程に強い方なら茄子など一撃に決まっているのに! 弱きを助け、悪を挫く。ねえ──」
「おいアリムルゥネ、茄子退治の兼、ご指名だぜ。私はこの季節のナス狩りなんて頼まれてもご免だけどな。だけどもしお前がその仕事を請けるなら手伝うぜ?」
ルシアがテーブルに最後に残ったリンゴを奪う。アリムルゥネから伸びた手が空を切った。
「わたしのリンゴ!」
「早い者勝ちだとも!」
ルシアは「あはは!」と笑いながら一口齧るも、アリムルゥネが涙を流してガチ泣きしてきたので、その一口を齧っただけでルシアはアリムルゥネに食べかけのリンゴを手渡した。
すかさずリンゴを奪い、噛み付く彼女。普段からは想像も出来ない獰猛さであった。
ルシア、冷や汗モノである。
「ねえ、『群狼』さん、茄子……」
マドレスの勧誘はまだ続いている。
そういうマドレスの気持ちもわかる。
今年は魚人間が活動を活発にしており、漁業の被害が大きいという。
そして、この季節、雨季に入った季節の雨はいつまでも降ってこない。つまり野菜も不作でよく取れないのだ。
茄子。夏、秋に重宝される紫色のフンワリ柔らか野菜である。
しかし、それを安全に収穫できるのは実がついて暫くの間のみ。
収穫期、実が余りに大きくなると、実が豆のように二つに割れて乱杭歯を覗かせる。しかしこの乱杭歯も煮るとやがて柔らかくなり、独特の歯ごたえを持つのだ。このことから、夏野菜ナスはお化けナスと呼ばれる珍味にかわる。ただし、ナスの歯を収穫するためには一面のお化けナス畑から一気に収穫しなければならない。一攫千金を狙って、農家に代わって戦士や魔法使いの出番となる。
──それでも。
毎年毎年、ナス農家には他の野菜農家と同じく犠牲者が出ているのだ!
「うぉおおおおおお、ナス!? 俺君の出番か!?」と俺君は大きく唸る。
「あー、ナスな。アリムルゥネは色々と鉄板仕様だから戦っても負けるわけが無い、挟まれても歯は欠ける。そしてライエン様は……たとえ食われても死ぬような柔じゃないってか」
「ナス? わたしの出番です?」と今頃にアリムルゥネ。
俺君とルシアが同時にうなづく。
「はい、わたしはナスの収穫をしようと思います!
「ありがと! ナス収穫、誰もやり手がなくて困ってたの!」
マドレスは感謝感謝となんども俺君達に頭を下げる。そして、ナス討伐は明日からだとその日は早く床についた。
◇
「ではお師様、ルシア。農家さんと、ナスを食卓にと心待ちにしている住人の方のために頑張って!」
地面に立つ俺君にアリムルゥネが一面の緑と紫の畑を前にして俺君達に「ファイト!」と自分の両手を口元に寄せる。
葉の緑は少ない……いや、ナスの実が大きすぎるのだ。一抱えはある。
「アリムルゥネも頑張るのだ!」
「えー、お師様のそのご期待は嬉しいのですが、ナスだなんて。こんなのルシアが魔法で一撃で……」
「私が手を下してどうなるんだよ。ナスが燃えるか切り刻まれるか即座に枯れるか池ができるか……いずれにしても碌なことにはならなねぇよ」
「むー、面倒な。一本づつ切り取るの?」アリムルゥネがルシアに聞いた。
「狙いは正確無比で、反撃も肉体鉄板で跳ね返すアリムルゥネの突進&実千切りが地味だけど一番かなぁ……」
「簡単に仕事請けちゃったからな。ああ、ナスは葉っぱより実のほうが重いんだ。ルシア、風の魔法を使った遠心力で、大竜巻を起こして実と、葉っぱや茎と分離できないかな?」
「あー、竜巻の中心に真空刃を混ぜよう。そして実を刈り取るんだ。実の向く方向は必ず外。ナスは頭にヘタではなく切り傷、もしくは禿げ頭になるかもしれないけれど、それで良いかライエン様?」
「良いと思う」当に収穫時期を過ぎた野菜である。その見てくれがどうあろうと、食えるならいいのだッ! 俺様自論を述べる。
「アリムルゥネはナスがリンクしたときに群れから大きく外れた個体を一つづつ、でもなるべく早く処理して回ってくれ!」
「はい、お師様」アリムルゥネが小鉄を抜いた。
──そう。収穫時期を過ぎたナスは隣の株と次々にリンクする。
一歩間違えば、ナスの圧力でジ・エンドだ。
アリムルゥネも納得したところで、俺君はルシアに促す。
「ルシア、やっちゃえ!」俺君は手をバタバタさせてナスの方角を指した。
「では、魔力を練るぜ、風の精だ。魔力タンクとして手伝ってくれライエン様!」
ルシアが魔力を練り始める。「邪気眼よ」と右目の眼帯を外す。
「久しぶりの難敵に、わたしの右目が疼くぜ!」ルシアの体の中に現れ、どんどん膨れ上がる赤い固まり赤い糸。俺君も両手に赤い魔力を集中、ルシアのお腹に俺君の魔力を注ぎ込む。俺の魔力と合わさったせいで、ルシアの魔力が眩しいほどに赤から白く発光する。
「風よ!」
ルシアの叫び。
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ここで一句。
天高しナスを追うもの刈られる実 (ライエン)




