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08-010-01 俺君剣聖二才、弟子君いいトコ見せたい!


 俺君らは橋を渡り、街のこちら側に出る。俺君達はこの街レンクールの広場に来ていた。『バー&イン 三本松』の酒場娘、レンクールの真珠マドレスに勧められたからである。なんでも、聖人の記念日だそうだ。お祭りである。大道芸人や詩人たちが、この古い開拓街へ一攫千金を夢見てやってきているとかいないとか。


『毎年凄いんです! この日ばかりは冴えない大公様の悪口を口にする者がいなくなるんです! 街の人も、街を守る衛視さんも、大公様のお抱え騎士もみんなお酒が入り、老いも若きも街を挙げてのお祭りになるんです!』


 火炎が鼻先を舞った。

 見れば、火噴き男である。たっぷりとした太鼓腹、手には強い酒が入ってると思しき大きな瓢箪(ひょうたん)をぶら下げている。男がひょうたんから液体を含むと、ブゥ! と炎を遠く長く吹き出した。群衆が目を見張り、騒ぎが一段と大きくなる。


「腕に自信のある人! この男に『参った』と言わせる事ができれば金貨十枚を差し上げようじゃないか!」

大男の周囲を回る髭の小男がぴょこぴょこ跳ねる。


 ──「どぉ、おおおおお」と男と客引きをぐるりと囲んだ民衆がわく。


「おいアリムルゥネ、稼いで来いよ」ルシアがニヤリと笑って肘で彼女の脇腹を突く。

「えー」アリムルゥネは良い顔をしない。

「アリムルゥネ、力試しだ」お、俺もルシアの意見に賛同する。


「お? そこの女戦士さん、腕に自信がありそうだね」


 客引きがルシアの言葉を耳に入れたようだ。


「行け! そして見事勝て!」俺君はアリムルゥネの肩に乗り──今日は肩車なのだッ! ──彼女の額を軽くペシペシ叩く。

「ううううう。えーお師様まで」

 と、本当に嫌そうな顔をしながらも、

「しかたがない、お師様の頼みだもの」


 と、アリムルゥネが自分の肩からルシアの肩へ俺君を移動させる。アリムルゥネの問いと同じく視界が広い! 何でも見える! 座り心地も柔らかくて気持ちいい!



「わたしが相手をします。木刀をお借りできますか?」


 観客がどよめいた。一歩前に出たアリムルゥネが本当に細腕のエルフだったからだ。


「ほいよ、麗しき挑戦者さん!」小男がアリムルゥネに木刀を投げる。彼女は音を立ててその木刀を受け取った。


 ──と、ここで小男が声を張り上げる。

 さぁ金貨銀貨をはったはった! 勝つのはこの炎使いの大男か、花一輪、細腕のエルフの剣士か!


「男に!」「姉ちゃんに!」「火男に!」「エルフに!」


 小男が黒板に白いチョークでどんどん賭けた人の名前と金額を記入してゆく。


 アリムルゥネが中段に構える。見物人の声が途絶える。


「いつでもいいぜ、挑戦者の姉ちゃん」と、巨男が軽く火を噴出した。


 群集がどよめく。


「では、参ります」アリムルゥネのとぼけた顔から表情が消える。そして脚で街路を踏みしめる!


 酒浴び男の火炎、なんと円にとぐろを吐いた!

 アリムルゥネもこれは予想外なのか、踏み出していた足はそのままに、剣を胴目指して突きかかる。アリムルゥネの剣にまとわりつきいつまでも迸る剣気、炎が割れる、そう、彼女の剣気が男の炎を二つに割った!

 

 観衆が沸き立つ、悲鳴が上がる。アリムルゥネはなおも前進、彼女は男の脚の甲を踏み、もう一歩彼女が出て膝の後ろを軽く押す。彼女は相手が転倒したところで、無様に仰向けに倒れた男の喉元に剣を突きつける! 

 

 アリムルゥネは一言。

 

「まだやる?」と、ホクホク顔で大男に尋ねる。


「しょ、勝負有り! ここまで、ここまで! お願い、この男に傷を付けないでくれ」


 冷や汗を流しアリムルゥネと大男の間に割って入り、アリムルゥネに懇願する小男。


「あんた、強いな本当に」


 と、大男。


「名を聞いていいか?」

「ええ。わたしはアリムルゥネ」

「ありむる……あんたまさか『群狼の』! あんたが『妖精騎士』アリムルゥネ!」

 大男はもちろん、そして小男もどよめく。二人はアリムルゥネが何者か知っていたようだ。そして観衆の中にも数名、『群狼の』の二つ名に反応した者がいる。


 ──アリムルゥネ、有名人説。

 そして俺君自慢(じまーん!)そのアリムルゥネ、コイツは俺君ライエンの弟子なのだ!


 俺様ハッピー知恵熱自慢自慢。バンザーイ!


 アリムルゥネが約束の金貨十枚を受け取っている。


「お師様、やりました!」と、えへへと笑みを零しつつアリムルゥネ。


 大男を囲む群集たちの間では、先の大男対アリムルゥネの賭けの精算が行われていた。大男、小男の二人の顔に悲しげな色は無い。

 小男が胴元である。小男がこうして賭けの元締めをやっている限り、たとえ大男が負けたとしても、この男たちがボロ負けすることは無いようである。


 アリムルゥネは銀貨を放ると、リンゴを幾つか買いルシアと俺君に渡してくる。そして彼女は一際赤いリンゴに噛り付いたのだった。



ーーー


 ここで一句。


 渡り鳥リンゴを齧り笑顔咲く (ライエン)

 

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