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08-009-01 俺君剣聖二才、河でシジミ取り

 俺君達は街を左右に分ける川辺の海へと至る汽水域にいる。なにをしているって? 家畜の手入れと水遊びだ。ロバのロシナンとスポットスライムのスラぶーを連れてきて、川辺に入れて、綺麗に洗い、ブラッシングをしている途中なのである。もはやあらかた洗い終わり、もう直ぐ仕上げの魔法をルシアが掛けるといっている。ほら、いつものクリーニングの魔法だ。


 弟子二人は一生懸命に家畜の世話をしていたが、特に俺君はやることがないので川岸で蜆(シジミ)を取っていた。黒か紫っぽい二枚貝である。


 採り方は簡単。竹でかなり粗めに編んだ編みかごを使う。川辺の砂にグサリと刺して、水面へ──! 揺らす。すると小さい貝と一緒に砂が網の目から取れて……う、うお、かごよ水面へ──! う、うが、畜生! かごよ水面へーー!

 アッ、しまった俺君滑った!?


 ──瞬間、俺君の視界が反転した。


 どぼーん。……高々と上がる水柱。


「お師様?」

「ライエン様?」


 俺が立てた音が弟子二人の興味を引いた。

 俺は編みかごごと後ろにひっくり返りましたとさ。


「だーーーーーーーー!」全身びしょびしょである。ちなみに取れた蜆の数、零個。全部ひっくり返したとも言う。

 ううう、泣けてくるぜコノヤロウ!


「あー、ルシア。ロシナンたちと一緒にお師様にも綺麗になる魔法をお願い」

「ライエン様、ずいぶんと頑張ってるじゃねぇか──って、一個も取れて無いじゃん。あはは、何してるんだよ!」とルシアはニヤリ。そしてルシアが優しさを見せる。


「ま、待てってなライエン様」


 待てよ、といいつつ、ルシアは最優先で俺に洗浄乾燥魔法を掛けてくれた。同時に、ロシアンとスラぶーと共に魔法を行使してくれたようだ。赤い魔力の奔流が俺君と二体を包んでゆく。


 ロシナンがいななく。毛並みが輝いていた。

 スラぶーが軽くジャンプする。薄皮一枚取れたのか、やけに輝いている。

 そして俺君。

 俺君もぐっしょり濡れたお締めやローブと共に、体の隅々まで洗浄されて。


 ──ああ、気持ち良い……俺君感動モノである。


「ルシア、ありがとう」

「いやいや、たいした事ないってライエン様! ……それじゃ、お師様が失敗したシジミ取りの続きでもしますか!」


 ◇


 竹かごは……アリムルゥネが河岸の竹を切る。次いで「千切り!」との掛け声と共にアリムルゥネは細棒に次々加工してゆく。そうして作られた竹の棒は、ルシアの手で曲げて、編んで。これを繰り返す。──その途中、ずっと赤い魔力が凄まじい速度で竹部品を包んでいたのは言うまでも無い。そして、あっという間に完成。で、次も……と、二個の竹かごを瞬く間に作るのであった。


 アリムルゥネが河岸の砂に編みかごを突き刺し、砂を巻き上げるや、水の流れにさらす。


 ──すると。

 でるでるいるいる!

 黒い二枚貝が沢山いた。


「やりました! よし!」とアリムルゥネ。彼女は貝だけもう一つの竹かごに移す。


 そして彼女はもう一度、貝を掘る。そしてそんな事を繰り返す。するともう一つのかごの中一杯にシジミが取れたのである。


「──変だな?」


 ルシアが首を捻る。


「ん?」「何?」と俺とアリムルゥネ。

「これだけ取れるんなら金のシジミ取れてもいいのにと思ったんだ。金シジミ。シジミが大きく育ち、蛤(ハマグリ)の大きさを越えると金塊と化すはずなんだけどな……」


 ──なんだって!? 金塊!? 齢八十八であった俺様ですら初耳!


「どれも光ってないよ? 本当に金ピカ?」とアリムルゥネが収穫物を調べる。


 金ピカ。まるで幸運の神様ビ●ケン様のように!?


「うーん、誰か定期的に採っているのか、そもそも私の知るシジミ伝説に穴があるのか……あれれ?」とルシア。

「伝説? そんな話、俺君は好きだぞ?」

「わたしも聞いておきたいかな」とアリムルゥネ。

「そうか? では耳の穴をしっかり開けて聞くんだな」

「おう」ドキドキ。

「うん、お願い」ワクワク。

「ええと、昔昔の話。貧乏な家族で、女将さんが風邪を引いて、特効薬のシジミ汁でも、と思って河岸に出た息子が拳一つ分はあるであろう大きさの金塊を幾つも拾い、御医者様に女将さんを見せ、高価な薬も処方してもらった話。もちろんその後は、息子がシジミを採りに行くたび金塊を拾い、家族みんなで豊かに幸せに暮らしましたとさ、おしまい! ……と、なるんだけどな!」


 ──おおおおお、例えば俺君が病気になって、特効薬を弟子二人が苦労して見つけてくる、そして俺君は二人を褒める、そう言うことか!?


「わたし、その黄金のシジミ伝説、どの土地でも聞いた事が無いんだけど」

「遠く、古く、遥か東の土地の伝説さ。この西の土地では辺境の昔話に過ぎない、っと! まあ仕方が無い」


 太陽が東に傾いてきた。ルシアの両手が赤く魔力で膨れた。魔力の波は、みるみるシジミかごへ。ルシアがシジミかごに保存と軽量化の魔法を掛けたのだ。

 いつもルシアが使っている魔法の一つだ。もしかすると、俺君ももう使えるかもしれない。


 ──と、思って俺君も零れたシジミに保存と軽量化の術を掛ける。俺君の魔力が拳に伝わる、伝わった魔力が赤い糸となってシジミを包む。俺君は額に汗させる。


「ん? ライエン様?」

「お師様?」

「ライエン様、なにを──って、魔法か。対象はそこのシジミ……」ルシアが蜆を拾う。

「冷たッ! お、それに軽いな」

 ルシアが優しい瞳で俺君を見る。

「ライエン様、魔法成功だぜ! やったな、これでアリムルゥネを完全に追い越した」

 彼女は笑う。アリムルゥネが「えー」と口を尖らし残念な声。

「俺君やった! 俺君凄い! 俺君さすが! 俺君魔法を極めた!」

「極めた、は言いすぎかな。でもライエン様、おめでとう!」

「お師様に抜かれたー! うわーん!」

「あはは! アリムルゥネ、お前は魔力勝負でいつもいつもライエン様の後ろを走っていたじゃないか」

「ううう、わたし頑張るもん」

「ああ、まあ頑張りな!」

「そうだぞアリムルゥネ! 頑張れ! 俺君も最初は全く使えなかった!」


 そのアリムルゥネ、泣き顔。でも、その瞳には決意の光が見える。

 俺君はただ、そんなアリムルゥネを見て、おでこを何度かよしよしとしてやるのであった。


ーーー


 ここで一句。

 汽水域 浜辺の香り 丸シジミ (ライエン)

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