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04-005-01 俺君剣聖、俺君十二ヶ月冬、次の歩みを夢想中

 俺君、宿の部屋、スイートの中を走り回るようになってしばらく。俺君の平衡感覚の勝利! 弟子どもの陰謀により丸坊主にされると言う珍事はあったが、俺君はそんな逆境にも負けず、エルブンロイヤルゼリーやスラぶーのミルク、そしてルシアが時々取ってくるイノシシの赤みミンチ肉などを食って立派に成長しているようだ。猪肉について弟子どもが言うには、猪肉は脂が美味いそうだが、俺君がその脂を食べると瞬く間に下痢ピーになるらしい。俺様の心のメモ帳にもそう記されている。

 メモ帳、と言えば俺は字の練習をしても指が巧く動かずぐにグニグニなるわ、書き損じるわで貴重な紙を無駄に消費している。無駄になるたびに、ルシアが使い古した羊皮紙から再生紙を魔法で作ってくれているが……いくらたっても、巧くなるきっかけがつかめない。涙。弟子達が言うに、三歳でもかけない人物もいるので気にすることは無い、と言う事だった。

 でも俺君は、文字は三からよねー、一歳からなんて信じられない、そんなの人間業じゃないわよ、キャハハ! などと聞こえる雑音に、俺君の硝子のハートは少しずつ傷ついていたのだッ!

 そして気がつけば鉛筆の先を口に持っていくっては、鉛筆を取り上げられる毎日。


 ──うう、泣くぞ!


 もっとも、読書のほうは安定して読めるようになってきた。(自慢《じまーん!》)。ついこの間まで、三ページ、五ページとまとめてページを捲っていた俺君だったが、ようやく一ページごと読めるようになったのである。手が器用になったのだー! これも(自慢《じまーん!》) 

 おかげで魔力の集中、魔力の編み方、魔力の収束、魔力の発動、魔力の制御について学んだ。

 実施は未だだから、そのうち外に連れて行ってもらったときに、俺君魔法を弟子達に見せ付けてやりたいところである。


 メモを取れないが、ベッドの上や床に座り、魔法の使い方について赤本を読んで学習した。

 他にやることも無いものだから、走り回る他は、こうして魔力の鍛錬である。


 ◇


「ぶば、おりぇひゃま!(ビバ、俺様!)」


 俺はアリムルゥネに言い放つ。


「ご機嫌ですね、お師様。……旅立ちの日も近いかな? ルシアと話し合ってみないと。お師様は街中と旅、と、どちらが好みですか? やはり野宿の旅です?」

「おんひぇん!」


「お師様はアホですか? いえ、温泉狂でしたね。一度痛い目に合いながらも挫けないその姿勢、このわたしアリムルゥネは感動と共に尊敬致します」

「おんひぇんだー! だかりゃ、ちゃびぃだー!(この街に温泉は無い! 無いならば探すといい! だから旅だ!)」

「ならば西域の彼方、ジューンセドの果てしない草原を越えたどこかに、温泉が沸く場所があるそうです。そこへ参りましょうか」

「やったー!」


 そんな時、扉から部屋にルシアが入ってくる。


「ああルシア、ちょうど話したい事があったのだけど」

「なにアリムルゥネ、話があるって?」

「ルシア、暫く街に居つく? それとも旅に出る? ……お師様は温泉に行きたいんですって」

「この要塞都市を西に道を辿るとやがて異民族の土地になる。その向こうは乾いた大草原。人跡未踏の地だな。この地の常識は何も通じない世界が待っていると思うけど? のんびり交易商の真似でもしていれば、温泉の一つや二つ見つかるさ」


 二人押し黙り、アリムルゥネが先に口を開いた。


「交易品を山積みしよう。絨毯に岩塩、(リバイアタン)の油、イカやあわびの乾物、牛や豚の腸詰の燻製、オニキスやエメラルド、それにダイヤモンドの装身具なんてどうかな? ルシアにエンチャントをお願いして、家内完全、商売繁盛、恋愛成就、とかピチご利益を魔化してあげるの。それと、低級付加の掛かった武器防具類……+1相当で良いかと思いう。荷馬はロバのロシナン一匹じゃ辛いでしょうから、途中奇跡的にも良馬を扱う遊牧民と出会えたならば、幻の名馬と言われる汗血馬! もっと言えば汗蜜馬を一頭ずつ仕入れるのはどうだろ」

「その二匹だけで大金が吹き飛びそうだ。今はライエン様のためにメチャクチャお金突っ込んでるからな」

「そっか、それもあるね。どうしようルシア」

「迷宮攻略はどうだ? 深く潜って活躍するなら大金も思うのままだ」

「お師様はどうするの?」

「それこそ人を雇って世話させるんだよ」

「Oh……その手があったか。でも、その人が悪い人で、お師様さらわれたらどうしよう」

強制(ギアス)の魔法をかけるつもり」

「うーん。どうも嫌な気がする。お師様を他の人に預けるなんて、とても出来ない」

「じゃあ決まりだ。ライエン様はアリムルゥネの背中決定。行き先は西の大草原ジューンセド。草の香りが懐かしいかも。温泉は後回し!」

「草原の国、ジューンセドにルシアは行った事があるの?」

「昔々、部族間で争った事が。相手は馬、こちらは徒歩なんで散々に蹴散らされて、魔法で誤魔化しつつ、やっとの事で私達が森に駆け込んだことがあるかな」


 弟子はあれこれ言っているが、迷うな俺。一箇所に留まって型どおりの稽古を続けるか、もはや尋常ではない高速の動きと魔法の力を伸ばすか。

 どちらにしても、既に俺の魔力は膨大で、剣を振るにしても右手の星々の腕輪で人様の二倍、左手の素早さの編み飾りを合わせると、人様の計四倍は早いことになる。だが、それでもルシアやアリムルゥネには掴まる。


 ──ドンだけ鍛えてるんだよ俺様の弟子! ……師匠失格ながら、弟子らの成長に俺は涙する。


「きぇん(剣)!」

「あー、早すぎます」アリムルゥネに俺の意思を伝えてみたが、あっさりと否定される。

「ぼくとー(木刀)!」

「ダメです。早すぎます」またである。

「ききょうぽう(気功法)」

「全然未だです。瞑想と深呼吸を繰り返してください。今のわたしから練気についてお師様に申し上げることができるのはこの二点です」


 ──うがー! あれもダメ、これもダメじゃないか!


「おにー(鬼)」

「鬼? 鬼に負けないような力をお求めなら、力だけに頼る事のございませんよう、精神を鍛えてください。自分を律する毎日の精進、連環にて自分自身と周りに福をもたらす功徳の積み方、世界を思う心をお持ちになりますよう」


 ──あのアリムルゥネに説教されてしまった。

 俺君ダメ、このままだと師匠失格! 俺君反省。そしてちょっとホヨヨな俺君である。


「それでも、最終的に世界に手が届くのはお師様です。私たち弟子は大業を成し遂げるはずのお師様の露払いだけ。わたしたちはお師様を信じます。お師様、どうか私たちをお導きになられますよう」


 ──ああ、観音様から後光が見える。アリムルゥネが菩薩眼で微笑む。ああ観音様観音様、ありがたや……。


「おりぇきゅん、いっしゃい!(俺君一才!)」


 ──自慢(じまーん)と、胸を張る。


「はいはい。お師様の誕生日はあの日の三月前という事でそろそろですね。ちょうど年賀の祭りと重なってます。鳥を照り焼きにしてパーティーをしましょう! あ、お師様は食べられないか。チキンスープで煮込んだお粥! 骨や手羽がトロトロになるまで煮込んでだしをとりましょう。それに卵を落としますか。うん決定!」


 アリムルゥネが俺の頭をナデナデしながらメニューを述べる。

 俺様は口の中に、たちまち涎が溜まった。

 そして辛抱できず、涎は俺君の口から『タラーーーリーーーー』である。

 アリムルゥネの頭ナデナデは止まらない。


「まだチクチクしますね、お師様。もう暫くすると、髪の毛は美しく柔らかく、綺麗な長髪になるでしょう。その日を待ちましょうね、お師様」


 ──そんなに待てるか! 剣も魔法も練気もぜーんぶ、修行するぞ! 

 自主練だ、自主練習! ……手早く柔軟体操みたいなのから始めるんだもん!!


 ──俺は頑張るぜ!


 と、俺は今日という日に自分と自分を支えてくれる弟子の期待にこたえるべく、弟子二人に誓った。


---


 ここで一句


 剣の道こそ 欲の道 念穿(うが)つ (ライエン)


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