04-004-01 俺君剣聖、満一歳冬、ここにあそこに部屋中うろつきまわる
「やーたー! おえくん、ぺいこーきゃんきゃくの、ちょうりー!(俺君平衡感覚の勝利!)」
よーよー、俺君つまづき石畳に転ぶまで、ギュンギュンと部屋の中を走り回っていたのだ! 今覚えば、歩きなんて一瞬だった。お座りから手をついて立ち上がり、俺君、頭を振りながら立ち上がる。そして何かに掴まっては、頭を固定する。
──すると俺君、直ぐにダッシュに移行したね!
俺君凄い!
──でも、そんな天才の俺君としても。
ちょっと前までは走って転んでは泣き、走って転んでは喚き。
繰り返し全身の力を使って部屋の中をダッシュしてまわったのである。
瞑想? 魔法の訓練? 練気? そんなものは持久走のついでに行えば良いんだよ! 腹式呼吸でスポーツ心臓、そして意識を高め、意識を内外の宇宙意識と繋げるイメージトレーニング! あの赤本、そこまで細かいことは書いていなかったけれど、行間を読めば分かるよね! ビバ俺様! 俺君って天才、俺君って賢い! そして弟子達よありがとう!
──そうさ。俺は弟子の力も借りて、俺様は今まで以上にもっと強くなるんだよ!
大猿の尻尾が生えた小僧がなんだ、偉大な先祖を持った勇者がどうした! 生涯六十戦無敗、俺はそんな武芸の先人達や達人達に負けるつもりは一切無い! 俺君は八十八歳と十二ヶ月。かつての剣聖はもういない。
これからは新たな俺君伝説が待つ!
──ふ。休憩にお座りをしながら頭の中で思索すると、俺様の明るい未来が見えてくる。
──ふふ。俺は強くなる、今まで以上に強くなって見せる!
ハイハイし、立ち、歩き。──そして走れるようになったからもう無敵! ただ、今まで以上に強烈に眠くなること数回。その度に弟子のアリムルゥネやルシアに心配されている。
でも、人生修行なのだッ! 俺は大天位、爆炎の剣聖ライエン! 俺の赤毛が逆立つのは、悪が一つ滅すとき!
──じまーん! 俺様赤毛がふさふさ。白髪と白髭を地面までたらしていたときとは全然違うのである! ヒヨコの産毛のように柔らか暖かだ!
──そして。俺は暫くダッシュする一人遊びを楽しんだ。
◇
──だが。
ルシアとアリムルゥネが部屋にやってくる。走り回るのを怒りに来たのか? もしかして。
「動くなよライエン様」ルシアの声が低くなる。ルシアの声が真剣そのものに。
「そうですよ、今ルシアが良く切れる剃刀を持っていますので、動くと──
ギャアァァァァ━━━━━━(|||゜Д゜)━━━━━━!!!!!!
──ですよ?」
え? ──なんだって!?
俺は背中に冷たいものが流れ落ちるのを感じる。いや、煌く剃刀……嘘、嘘、それって何ーーーーーー!
新手のドメスティックバイオレンスか!? それも突然現れて、二人かがりで俺様を痛いめに!?
──ルシアの剃刀がギラリと光る。その刃が血を吸わせろと輝き俺の目を焼く。
どうして俺に刃を見せ付けるッ! 怖いだろビビるだろ気絶するだろ!
──ああ、ああ、あぁあああああああ!
「ライエン様静かに!」 ──ボコゥ!! れ、レバーレバー……にルシアの拳が突き刺さる。ルシアの笑みが怖い。ああ、俺君の伝説はここで終わるの?
「はーい、動かないでくださいね?」俺は肝臓直撃、そして硬直。ピクリとも動かない。
いや、息を呑んで動けない。ぐぬぬ、ルシアめ暴力反対!
ルシアの刃が頭を撫でる。命の危険にまたも俺様硬直。
──ジョリ。ジョリ。ジョリ。
ああ、ルシアの動きと共に俺の長いふさふさ赤毛が。ん? なんだ、俺君の毛を剃るだけか。
そうか、ルシアよ、せっかくだから綺麗にセットしてくれ。
──安心俺君。すると色々な興味が湧いてくる。
はらはらと落ちてくる髪。こうして見ると、俺の髪って癖げなしのストレートなんだな。キューティクルも抜群のようだ。
実にサラサラ。
それに綺麗な赤色をしている。
などと思っていると、俺は瞼が重くなってきた。……お眠である。
「あ、ライエン様寝るな、手元が狂う。おいアリムルゥネ、ライエン様の頭、支えてくれよ」
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ここで一句。
冬銀河 弟子に任せて 丸坊主




