第126話 戦い終わって
仲間の元に戻り、ルディールは自分達の勝利を伝えた。
エアエデンの砲撃によって砂漠化した大地の上で、仲間達と抱き合いその結果を喜んだ。
「あーマジで疲れたわい。それはそうとバルケよ。お主の彼女もちゃんと元気じゃぞ」
その言葉にスナップは照れるがバルケはなんとも言えない顔でスナップを見ていた。
「ん?どうしたんじゃ?」
「いや、なんか……色くそ悪いなと……綺麗な黒だったよな?」
「瀕死の重傷から帰って来た自分の彼女に向かって言う初めての台詞がそれですの!」
「だっだって本当のことだろ!」
「バルケよ。今のスナップはわらわ並みに強いから嬉しいからといって煽らぬ方が良いぞ」
スナップが銃を取り出してバルケを追いかけ出したのでルディールは苦笑して放置する事にした。
城に戻って早く報告した方が良いのは分かっているが、祖父の言った事が本当なら黒い天使は消えているはずだ。
ルディールは泣きじゃくる娘をなだめるルディオントを眺めていた。
「ルミディナ。大きくなったな」
「お母様!お母様!」
困った様に笑う母親と助かった事と再会できた事を喜ぶ娘。そこにいたのは本当の家族だった。
その姿を見てルゼアが少し羨ましそうに「良いですね」と呟いたが、ルディールは言葉を返せなかった。
やがてルミディナが泣き止みルディオントが落ち着くと二つの扉が現れた。
ようやくルミディナが自分の世界へ帰還できる扉だ。
それを見てルディールは少し考えルデルに質問する。
「別の世界の扉に別人が入ったらどうなるんじゃ?」
「ん?普通にその世界に行けますよ。デメリットは元の世界に帰りにくくなるくらいですね。繋げるのが大変なので。つまり貴女があの扉に入れば、向こうの住人になるという事です」
「ほうほう」
その声が聞こえていたのかソールとルゼアがとても良い顔をする。
ルミディナは相変わらずぐずり、ルディオントをどうしても自分の世界へ連れて行こうとしていた。
ルディオントは困りながら、それはできないと言い続けている。
今のルディオントは魔王ではなく親だった。
だからこそできる事がある。
ルディールがソール、ルゼア、ルデルの顔を見ると、やはりどこかで繋がっているのか、全員が同じ考えに至った。
「後が怖いが……別の世界の娘というか友人の幸せの為じゃしな!四人でいけば潰せるじゃろ!シャドースティッチ!」
ルディオントを中心に全ての影が集まり拘束する。
意味の分からない行動にルディオントは驚く。
「おい、ルディール。どういう――」
言い終える前にルデルの拘束呪文が展開された。
「ドミニオン・ロック」
そして打ち合わせでもしていたかのような流れでソールが続く。
「デッドリーパラライズ」
無警戒の状態でまともに受けさすがのルディオントも意識が飛びかける。
最後にルゼアが懐へ飛び込み、一言だけ謝った。
「文句はルミディナにお願いします!」
本気の拳が腹部に突き刺さりルディオントは完全に意識を失った。
あまりの出来事にルミディナも周囲も呆然とするがルディールだけは冷静だった。
「ルミディナ!今のうちじゃ!起きたらシャレにならん!」
「えっ!?えっ!?」
「お主のもう一人の親、ミーナに会わせておけば何とかなる!だから行くんじゃ!」
せかされてルミディナは慌ててルディオントを担ぎ上げ、扉の前に立つ。
「その選択は間違っているかもしれんが……何かあったら祖父が文句を言いに来るじゃろ。気にせず行け!」
全員が強く頷いた。
あれほどの火力を見れば、誰でもやり返されたくない。
さすが魔王というべきか、すでに目を覚ましそうだったためルミディナは慌てて頭を下げる。
「皆さん……本当にありがとうございました。このお礼はいつか必ず。それとルゼア!私が姉ですからね!」
そう言って最後に深く礼をし扉の中へ消えていった。
同時にルディオントの扉も消失した。
「……だ、大丈夫なんですの?」
「冷静に考えなくてもやばいが……まぁええじゃろ」
目の前に扉が現れてルディオントが出て来たらどうしようかと思ったが、今のところは大丈夫そうでルディールは少しほっとする。
次は誰が帰るのかと思っていると、ソールがソアレ達の方を向いた。
「私は特に用事も無いのでしばらく残ってそこの三人を鍛えます」
あまりの提案にソアレ、スティレ、カーディフが驚きの声を上げる。
「そんな嬉しそうな顔をしなくても大丈夫ですよ。今のルディールさんと同じくらいは無理なので……そうですね。ソアレが初めてルディールさんに会った時の強さくらいまでは鍛えてあげましょう」
「ソール。私は世界で二番目に強くなりたい訳ではないのですが?」
「大丈夫です。貴女が出会っていないだけで強者はいますよ。ですからまぁ……まずは三人で十位以内を目指しましょう。死ぬ寸前までいけば、あの世ガチャで強化されますし」
げんなりする三人をよそにソールはとても嬉しそうだった。
一度ソールの特訓を経験している三人からすれば、まったく笑えない話である。
「三人はともかく、ソールは嬉しそうじゃな。ルゼアはもう帰るのか?しばらく残って観光でもするか?」
軽い気持ちで聞いたルディールが振り返ると、ルゼアの目には涙が溜まっており、消えたルミディナの方をずっと見つめていた。
驚いたルディールが声をかけようとした瞬間、ルゼアは泣き出した。
「私だって……私だって!頑張っているのに!どうして……!」
言葉にならない声になり、ルゼアは子供の様に泣き始める。
その姿を見てルディールは驚いたが、よく考えてみればルゼアは強いだけで年相応の女の子だった。
ルゼアの世界のルディールは死んでおり、もう一人の親であるセニアとの会話も少ない。裕福ではあるはずだが、家庭環境が良いとは言えなかった。
だからルディールは優しくルゼアを抱きしめ頭を撫でた。
「うむ。今までよく頑張ってきたのう」
「わ、私だってルディールお母さんに会いたいんですよ。セニアお母様とは会話もありませんし……みんな優しくないんです!」
再び泣き出したルゼアをルディールは落ち着くまで抱きしめ続けた。
そして少し落ち着いてからルゼアは一つの決断を口にする。
自分はこの世界に残る、と。
ここにはルディールもいてソアレ達もいて友人と言って差し支えのない人達もいるからだと。
「……そういう訳で、これからよろしくお願いします。ルディールさんの事は姉と思うようにしますので」
素直にうむとは頷けなかった。
ルゼアの世界にも家族がいるからだ。
だがルディール自身も、元の世界に家族や恋人を残してきてしまった。
その人達の気持ちは今でも分からない。
だからこそ……そういう生き方もあるのだと思えた。
ルゼアが悩んで選んだ答えなら、ルディールは受け止めようと決める。
――だが。
話を聞いていたソアレが待ったをかけた。
「ルゼアさんが残ってくれた方が楽しそうですけど……物語はハッピーエンドが好きなんですよね」
皆が不思議そうな顔でソアレを見る。
ソアレは服の中を探り、縫い付けてあったのか何かをビリビリと破って取り出した。
それは握り拳より少し大きく、きらきらと輝いていた。
ルゼアやスティレ達には見覚えがない。
だがルディール、ソール、スナップ、ルデルにはすぐ分かった。
――主神の奇跡の欠片だった。
「お、お主!どこでそれを手に入れたんじゃ!?」
「はっはっはー。奥の手ですからね。ソールの時に使わなくてよかったですよ」
その言葉とソアレの性格でルディールは理解した。ゼストニオンが主神の奇跡をすぐに使えなかったのは、ソアレが細工をしていたからだ。
「少し触れる機会がありましたので、何かあった時のために中心を魔法で削っておいたんですよ。どうせ向こうが強者なので、話し合いができないのは分かっていましたからね」
「ソアレが味方でよかったわい。今回のMVPはソアレじゃろ」
「MVPが何かは分かりませんが……私だけではゼストニオンさんは倒せません。まぁ結果オーライですね。……さて、上手くいくかは分かりませんがやってみましょう。ルゼアさん。もしかしたら……今の強さは失うかもしれませんよ?」
結果がどうなるかは誰にも分からない。
それでもソアレは主神の奇跡に祈った。
願いは――ルゼアの魂に結びついているルディールの魂の分離。そして足りない部分は奇跡が補い、ルディールの魂には肉体を与えること。
そんな都合よくいくものかと誰もが思った。
だが、削られた主神の奇跡は余裕と言わんばかりに光り輝いた。
そしてルゼアの体から剥がれ落ちるように、今のルディールより大人の姿をした裸のルディールが現れた。
その体はひどく痩せ細り、意識もないようだった。
バルケとスナップが見たら「その首へし折りますわ」と言いそうな状況だったが、それどころではない。
「上手くいったっぽいのう。流石は主神の奇跡といった所か」
「もう少し大きく削っていれば良かったんですが……こればかりは仕方ありませんね」
消えていく主神の奇跡を見つめながら、ソアレはルゼアの方を向く。
「魔眼で見る限り切り離しは成功です。ただ、かなり弱っています。早く連れて帰った方がいいでしょう。ルゼアさんも色々あると思いますが……世の中、まだ捨てたものではありませんよ」
「ソ、ソアレさん!」
その声と同時にルゼアの背後に扉が現れた。
それは、ルゼアが“戻る”という可能性を選んだ証だった。
「ルゼアよ。この世界に住むと言うなら止めはせぬが……また会う事もあるじゃろ。その時に改めて考えればええわい。ルミディナとは逆で、そのルディールをセニアに会わせれば少しは何か変わるじゃろ」
「ルディールさん……」
もっと話したかった。
だが腕の中のルディールが苦しそうに咳き込み始める。
ルデルに回復魔法をかけてもらい、ルゼアは皆にもう一度礼を言うと扉へと入っていった。
「……まぁ、あれで良かったでしょう。私の奥の手でしたが……遠い世界の姪っ子ですし」
消えた扉を見ていると、スティレとカーディフが声をかける。
「なぁ……ソアレ。奥の手は無かったと言ってなかったか?」
「私は貴女のことは信じないと言ったけど……流石に言いたい事は分かるわよね?」
「どう考えてもハッピーエンドでしょう!何をそんなに怒る事がありますか?」
その瞬間、カーディフがソアレの頭を掴む。
スティレが静かに告げた。
「私達の人生はまだ続く。戦いが終わっただけだ。ハッピーエンドなど存在しない。カーディフ、構わん。やれ」
「了解!」
カーディフの爪がソアレの頭に食い込む。
「痛い!いたい!本気で痛いですから!」
三人のやり取りを横目に、ルディールはルデルに向き直る。
「お主はどうするのじゃ?」
ルデルの元いた世界はもうない。帰る場所もない。
「この世界に残って、女神信仰や天使信仰系の宗教をまとめ上げるのもありですね。ルディールが死んだら、じっちゃん来るわけですし」
「それはやめろとしか言えぬのう。お主がやるとまともに人類と敵対しそうじゃ」
「ぶっちゃけ争わせて人類のレベルを上げる方が効率的ですよ。どうせ放っておいても争うんですから。こう……“人類種の天敵”とか呼ばれてみたいじゃないですか」
絶対に敵対する未来しか見えぬ、とルディールが思ったその時。
ルディールの金色の真なる王の指輪と、ルデルの灰白の真なる王の指輪が同時に光り、白い扉が出現した。
「……これは?」
「わらわが分かる訳なかろう」
ゆっくりと扉が開く。
誰かが出てくる気配はない。
むしろルデルを呼んでいるようだった。
「……まぁ。一度死んだ身ですし。元の世界にも帰れそうにありませんし……入ってみましょうか」
「お主は天使のくせに色々軽いのう」
「それは私もルディールですからね」
「お主はルデルじゃろ……」
「では……色々迷惑をかけましたが、またお会いしましょう」
謝ってから行けと言おうとしたが、ルデルは手を振り先の分からぬ扉へと消えた。
ようやく全てが終わる。
ルディールは「あーしんど」と呟き、その場に座り込んだ。
そして友人達と再会と勝利を喜び合い、ローレットへと帰還した。
明日の20:10頃に最終話更新予定です。




