会議の朝、買い物の昼、それと・・・ 中編
中編です
「はい、それではこの用紙に名前と年齢、滞在先、自分の神力片、あとは参加しているファミリーなんかを書いちゃってください。
あ、嘘は書かないでくださいね。あとで私が怒られちゃいますから。あ、神力片だけは嘘を書いても良いですよー。たとえばれても、あなた方が白い目で見られて協会から追放されるだけで、私には何の被害もありませんからー」
微妙に適当な受付嬢から用紙をもらい、6人分の名前と年齢を書く。苗字は書かずに名前だけだ。あだ名で書こうかとも思ったが、ややこしくなりそうなのでやめた。
「これで良いかな」
「えーと・・・・はい、たぶん大丈夫です!」
たぶんってなんだよ。
「それでは、タグを発行しますので銀貨を・・・・・皆さんの分なので6枚お願いしますー」
受付嬢に銀貨6枚支払うと、変わりに冊子のようなものを渡された。
「タグが出来るまで30分くらいかかりますので、それまでその冊子を熟読しておいてくださーい」
そう言って受付嬢は奥へと引っ込んでいく。
「・・・・・結構かかるな」
「ま、30分くらいなら待ちましょう?」
ノーカがそう言ってさっきの席へともう一度座った。
藪北霞奈夏――――北の夏、略してノーカ。それが彼女のあだ名だ。
身長175cmと背が高く、背中辺りまで伸びた髪を頭の上で団子にしているために余計に大きく見える。本人は身長よりもいささかスレンダーすぎる体型を気にしているらしく、彼女の前でその話題は禁物だ。向こうでは弓道部だったためなのか、彼女に与えられた神力片は”弓術”。
俺もハンターになったら弓を使おうと思っているが、彼女の”弓術”がどの程度の威力を発揮するかにより使用武器の変更もありえる。
「でーもなんか簡単に終わってよかったねぇ」
「終わっとらんわ。むしろこれからやん」
のんきにほわほわとした感じで言うのは漆山桜子。通称”うるしー”。
それに突っ込みを入れたのは藤見春芳。通称”フジハル”。
うるしーは田舎の中学から、少々遠いうちの学校にきたらしい。わりとのんびりとした性格だが、一度トリガーが入るとそのテンションはジョーに負けずとも劣らない程度まで上がる。陸上部だったためか、健康的に焼けた褐色肌がトレードマークだ。神力片は”韋駄天”。正直、何がどうなるのか分からない神力片なので実際に森に行くまではその力を使わないように言っている。
フジハルは大阪・・・・の外れ出身で、元々方言は然程ひどくないらしい。だが都会暮らしが長くなったせいか、関西弁が若干怪しいとは本人の弁だ。剣道部の主将を務めていた彼の神力片は”剣術”。それを聞いて『ちゃうんや・・・・!俺がやっとったのは剣道やし・・・・・!!剣術とちゃうし・・・・!!』と神様に向かって突っ込みを入れていたが、たぶん聞いてないと思うな。
因みにジョーの神力片は”格納”。謎の空間に物を収納できる力で、入れたものは中で時間が止まるとか。
ただし、生きているものは入れられないうえに、収納スペースは大体2畳分くらい。少々使いづらい能力だが、商人は喉から手が出るほどほしい能力だとクラウネが言っていた。
「まぁ実際フジハルの言うとおりだよなぁ。俺らまだ武器も防具も買ってないからな」
「しかも価格帯もいまだわからんっちゅー話や。こちとら早いとこタグもろて見に行きたいゆーのに」
フジハルはそういって受付嬢の消えたカウンターを睨む。
「時間はまだあるんだ。そう焦んなよ」
「そうはいうてもなぁ」
「せっかちな人は嫌われますよー」
「自分は焦らなすぎや!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人を眺めていると、ノーカがそういえばと話し出す。
「この国の初代勇者って日本人なのよね?」
「らしいけどな」
「・・・・・建築物を残してるくらいだし、和弓もあるって期待していいのかしら?」
「西洋のとじゃ使い勝手変わるもんな」
そこにチーフとジョーが加わる。
「軍曹は何を使う予定なんだ?」
「俺はコンパウンドボウなら使ったことあるから、ノーカと同じく弓で行こうかと思ってる。
ただ、俺には”怪力”の神力片があるからただの弓じゃなくて、特注品でロングボウベースのコンポジットボウを作ってもらおうかなと」
「Oh!ロングボウ!スコットランドだネ!」
「ただ、本来のロングボウ――――イチイの木の一本ものはこの世界じゃ手に入らない可能性もあるからなぁ。まぁ”怪力”の神力片があるから人間が普通引けないような弓でも扱えるって言う強みはあるが」
そもそも、この世界の動物やら植物やらが地球とまったく同じとは考えないほうが良いだろう。
さっきの”クロンコロンのジュース”からも分かる通り、俺らからすれば得体の知れない動植物があったりするくらいだ。
ただ一つ言えるのは、昨日と今日の食事の際に使った野菜は地球のものと酷似したものであったという前例があるので、すべてが完全に別物と言うわけではなさそうである。
唐突に、そういやさとチーフ。
「俺達の『神力片』で、1度でもまともに使ったのって軍曹だけだよな?」
「まともとは言えないが・・・・まぁ、たぶん俺だけだな」
「神力片ってどうやって使うんだ?」
そこで俺も含めた4人が黙り込む。
「・・・・どうやって使ったんだろうな?」
「無意識に発動したってことか?」
「そう、だと思う。いや、違うかもしれない」
あのゆがんだ教室の扉を蹴り破る瞬間、俺は強く蹴ろうとしたはずだ。
「ON・OFFで切り替えが聞くって事か?」
「そのはずだ。でなきゃ、今頃日常生活に支障が出てると思う」
「ってことは・・・・ふむ」
チーフがなにやら考え込む素振り。
そして徐に絶賛口げんか中のフジハルへと視線を向ける。
「だーかーらー!自分はもうちっとだけでも急ぐっちゅーことを――――ふおおおおおおおう!!!!!」
うるしーへと突っかかっていたフジハルが、いきなり奇声を上げてイスから転げ落ちた。
結構大きな音が鳴って、周りにいた人たちがなんだなんだと視線を向ける。
「いっつつ・・・・・あ、ありゃ?Gは?どないした?」
フジハルは周りをきょろきょろと見回し、自分が注目されていることに気がつくと、「お騒がせしましたー」と軽く頭を下げながらイスに座りなおした。それで周りも興味を失ったらしく、また自分達の話へと没頭していった。
「どうしたんだよいきなり?」
「い、いやな?うるしーの方からいきなし手のひら大のGが飛んできてな?吃驚してイスから転げ落ちて、そしたらGの影も形もあらへんのや」
「G?」
「黒光りする、アレや」
なるほど、手のひら大のアレが飛んできたらそら驚くわ。
「チーフ、なんかしたのか?」
「ちょっとフジハルに幻術を使ってみた」
「人で実験すんなや!」
だが、これで分かったことがある。それは、神力片は結構簡単に、しかも自分の思ったように発動する力であると言うことだ。
「・・・便利な力だよな」
「もしもこの力があっちでも使えてたらさ、『グアム事件』の時に軍曹が死に掛けることも無かったかもね」
ノーカが冗談めかして言う。
『グアム事件』とは、今から1年半ほど前――――高校2年の修学旅行で行ったグアムで、ハトケンが起こした事件である。
この事件で俺は死に掛け、そしていいんちょを――――本史麻紀を好きになったのだ。
この話はいつかしようと思う。
「どうだかね。咄嗟に防御力を強化できるような力があればできたかもしれないが」
「ま、結果生きてるわけだからいいけどね。もしも、あの事件で軍曹が死んでたら――――
――――私はハトケンを一生許せなかった」
ノーカはそう言ってフッっと笑った。
************************************
――――20分後、全員が冊子に目を通し終わったのを見計らって声をかけた。
「んじゃ、情報の確認をしようか。
まず、この国の――――いや、この都市の位置は国の中心から南側である。これはいいな?」
皆が頷く。
「この国にはあと3つの都市と、一つの廃都がある。そして、廃都を除いた4つの都市には、一人ずつ『大公』が君臨している。これもいいな?」
再度頷く。
「都市の場所はそれぞれ廃都を中心に東西南北に4つ。うち、アッセラ卿が治めるアッセラの都は南側だ。では他の都市名――――大公家の名は?」
「北の大公は『グルーブリング卿』、西の大公は『ジュレーヴァ卿』、
そして東の大公は・・・・・・・・」
「・・・・『ヤエヤマ卿』ね」
「偶然、てぇのもあるんかもしれん。せやけど、これは多分――――」
「――――『八重山』だよねぇ」
初代勇者ショウエモンは貴族の位に就いた時、すでに『ショウエモン・アッセラ』だったはずだ。
となると、はたまた別の勇者か、それとも・・・・。
「まぁ、この話はちょっと置いとこう。次の話だ。
魔獣の森に住む者、その生態は?」
「普通の動物が6割、魔物が2割、で残った2割は先住民だ」
「当たりだ。俺達狩人の仕事は?」
「基本は動物を狩ってその素材や肉などを納品すること。
そして、3級ハンターからは魔物の討伐を任せられる。それは森の中だけではなく、街道や遺跡から湧き出したモノも対象に含まれる」
「その通り。
では、俺達の知ってる所謂”狩人”とこの世界の”狩人”の違う点は分かるか?」
皆はちょっと考えた後、チーフが代表して言う。
「熊とか鹿だけが俺達の標的じゃない点だろうな。ここに来るまでにすれ違った人たちを見るに、弓とか罠だけじゃ対処しきれないヤツが居るんだろう。
――――剣を使う必要がある、もしくは剣で対処しなければならないほど接近してくるやつとかな」
「・・・・よし、大丈夫そうだな。
俺が懸念してるのはそこだ。実際に森に入ってみるまでどうなるか分からないけど、皆準備だけはしっかりして行こう」
皆かこっくりと頷いたのを確認し、それから受付カウンターの方を眺めてみる。
タグはもうしばらくかかりそうだった。
「じゃぁ、各々の使う予定の得物を確認しとこう。俺はさっきも言ったが弓の予定だ」
「私も弓かな」
これはノーカだ。
「俺は剣やな。どんなのがあるかわからんけど」
こちらはフジハル。
「私はまだちょっと決めかねてる。でも、実家でも山刀とか鉈を持つ機会はあったからそういうものかな」
と、うるしー。
「と、なるとだ」
俺は残った二人――――チーフとジョーを見る。
「俺は投擲術とか言うのがあるからな。一応フジハルに習いながら剣を使ってみるが、投げナイフとかがあれば使ってみるつもりだ」
チーフが言う。彼の戦闘スタイルはトリッキーなものになりそうだ。
で、問題の――――
「僕はライフルがイいな!」
「あるかンなもん!」
ジョーの武器はどうしようか。
***************************************
それからまた10分後。
全員が白帯の付いたタグをもらい、近くにある武器屋に来ていた。
ここで俺達はまたもや驚くことになる。
「グンソウ!在っタよ!ライフル!」
「いや、ライフルじゃないが・・・・でも、まぁ銃ではあるか」
そう――――この世界には銃が存在していた。
ただしそれは現代では骨董品になっている代物である。
「まさか火打ち石式・先込め銃とは・・・・」
「グンソウ!僕はこレを使イたいデス!」
この武器屋に来てからジョーのテンションが上がりっぱなしである。
武器屋には剣や斧なんかの接近武器、弓やボーガンなんかの遠距離武器、そして銃が置いてあった。
銃は先の火打石式の他にも、火縄式やおそらく鋼輪式と見られるものもあり、種類としては普通の物の他にも、拳銃、騎兵銃、散弾銃と種類が豊富だ。
「なんていうか、いかにもファンタジーな世界にいきなり銃が出てくると、洋ゲーでよくあるダークファンンタジー感出てくるよな」
「・・・・なんかわかるわ、その気持ち」
フジハルと話していると、店の店主らしいおっさんが近寄ってきた。
髭とモミアゲが繋がった、リンカーンをそのままゴツくしたようなオッサンは、俺とフジハルに話しかけてきた。
「おう、なんだおめぇら。見ねぇ顔だな」
「あ、どーも、わいら最近この辺に越してきたさかい、いろいろと町を見まわっとったんですわ。
ほんで、一発ハンターで儲けまっかーゆう話になったもんやから、そのための武器探しにきたんですわ」
フジハルがそうオッサンに話すが、おっさんはこちらをぐるっと見回したあと・・・・・・
「おめぇと」
俺を指差し、
「それとそこの細い女」
ノーカを見て、
「あとは・・・・おめぇか」
フジハルを見た。そして、
「それ以外のヤツは武器の使い方習ってから出直しな。おめぇらには俺の武器は売れねぇよ」
そう言って3人を店から追い出したのだった。
******************************************
「・・・随分と強引じゃないか?」
「ケッ、これでも優しくしといたんだぜ。
――――今居たやつらも含めて、実際に狩りをしたことがあるのはおめぇだけだな?」
――――正直、驚いた。クラウネでもそんな情報は分からないだろうということを言い当てられたのだ。
「・・・・なんで分かったんだ?」
「そりゃぁ分かるさ。
そっちの嬢ちゃんはおそらく弓使いだろう?だが、ハンターのように動きながらは弓を使ってないはずだ。多分、動かない標的に向かって訓練したんだろう。ハンターならもっと違うところに筋肉が付く。
・・・それに、あまり一般的じゃない弓を使ってたみたいだな。バランスはいいが、その弓に特化しすぎている」
ノーカはそう言われて目を見開いた。俺も驚いている。
「そっちのお前は、剣、か?あまり見ない剣術だな。お前ら、全員この辺じゃ見ない顔立ちだから他国の生まれなんだろうが、俺は今まで生きてきてお前のような体移動をする剣術を見たことが無い。
・・・だが、一つ分かるのはそれは”対人用”の剣術だな?ハンターじゃ無くて傭兵になるって言われたほうがまだ納得できる」
フジハルも驚いていた。
二人とも、今まで自分がしてきたことを体を見ただけで言い当てられたのだ。そりゃぁ驚くさ。
「で、お前だが・・・・弓と・・・・銃を使えるな?それと、かんたんな格闘術の心得があるはずだ。おそらく、槍を使うんじゃないか?それに、お前の体はただ筋力を伸ばすのでは無く実戦を重ねてそれに見合うように鍛え上げた肉体だ。狩りも1度や2度ではなく何回か行っているはずだ。でないと、そのようには鍛えられん」
「・・・・・あたってるよ」
「これくらい出来なきゃ、武器屋にはなれねぇよ」
おっさんは顎鬚を撫でながら笑う。
確かに俺は弓を使えるし、サバゲーをやるから銃も使う。一応海外で実銃を撃った事もあるしな。
それに、元陸上自衛隊員の親戚から銃剣闘術を教えてもらったことがあり、それ以来独学で訓練をしているからそれなりに使えるはずだ。これがおそらく槍と言われたところだろう。
「ほ~・・・・その洞察はすごいが・・・なんやこわいなぁ」
「あの、ちょっとお聞きしたいのですが・・・」
ノーカがおっさんに話しかける。
「なんだい嬢ちゃん」
「和弓――――いえ、初代勇者ショウエモンが伝えた武器の中に弓ってありましたか?」
その質問におっさんは若干面食らったあと――――にやりと笑みを浮かべた。
「・・・・今まで初代勇者が使っていた『カタナ』を作ってくれといわれたことは在るが、『弓』があるか聞かれたのは初めてだ。嬢ちゃん、いや、お前さんがたは何者だい?」
「出来れば聞かないでくれると助かるよ。ま、気になるならそのうちぽろっと漏らすかもよ」
「言いたくないならきかねぇさ。誰でも秘密の一つはあらぁな。
・・・んで、さっきの質問だが――――あるぜ」
おっさんはそう言って店の奥に入っていく。
しばらくすると、布に包まれた2m近い湾曲したものを手にして戻ってきた。
「一応言っとくと、こいつはうちの店で作ったもんじゃねぇ。
森の先・・・キリダスから俺の親父が持ってきたもんだ」
「共魔王国から?」
そういっておっさんは布を広げる。
中には見慣れた和弓が包まれていた。
「なんでも、キリダスにしかない『タケ』とかいう素材で作った弓らしい。向こうの国じゃ一般的な弓なんだとよ。
初代勇者はこの国に、いやこの世界に3つの武器を伝えた。それが、『カタナ』『長湾弓』『鉄砲』だ」
カタナは言わずもがな、長湾弓というのは和弓のことだとして、一つ気になったことがあった。
「おっさん、いいか?」
「おっさんってなお前・・・・店先に『グルーズ武器店』って看板があっただろ」
「ああ、すまん。
で、グルーズさん、変なこと聞くが――――ショウエモンが伝えた『鉄砲』ってアレじゃないだろ?今店に置いてあるのは誰が伝えたんだ?」
そう、江戸時代が終わるまで日本で使われていたのは火縄式が主流だった。一応火打石式も伝えられてはいたが、あまり生産はされていない。
それにだ、このフリントロック銃の形状――――あまりにも有名なあの銃そっくりなのだ。
「・・・・まったく、お前らほんとに何者だよ。そんなこと聞かれたの初めてだぜ。
――――そっちの銃を伝えたのは2代目勇者だよ。彼は赤い服で戦場を駆け回り、その銃で数多の敵を打ち破ったと伝えられてる。それと、時の大公殿下は女性でな。なぜかその大公殿下に異常なほど忠誠を示したらしい。そのときの大公はジュレーヴァ卿だったんだが、そのせいで今もジュレーヴァ卿は女性が大公家を継ぐことになってるほどだ」
――――ブラウン・ベス。イギリス軍正式採用マスケット銃。
どうも勇者は日本人だけではないらしい。
次も早めに