会議の朝、買い物の昼、それと・・・ 前編
長くなったので3分割。
今回から一気に登場人物が増えますが、「こんな人がいるんだな」程度の認識でで大丈夫です。
でも、そのうち各個人のお話も書きたいと思います。
そのうちクラス名簿も上げる予定。
白い光が瞼を覆う。
ゆっくりと眼を明けると、見慣れない天井。
「・・・・・・ぁあー、そうか、異世界か」
むくりと体を起こすと、粗末な毛布が体からずり落ちる。
替えの下着は昨日手に入ったがそれ以外の着替えはまだ無いため、今は制服のスラックスとインナー姿で寝ている。この格好では寒いかとも思ったが、この世界は地球の日本よりも温暖な気候にあるらしく、毛布1枚でもそれほど寒いと感じなかった。
時計が無いので正確な時間は分からないが、空の白みかたから見て6時前くらいだろうか。
顔を洗いに行こうと、シャツを羽織ってあくびを噛み殺しながら部屋を出る。
と、部屋の前を二人の女子が通りがかったところだった。
「よう、おはよ」
「おはよー」
「おはよぉ・・・ぐんそー・・・」
――――耶南紅里と蘭原百々。あだ名はそれぞれ”メディ子”と”こもも”だ。
耶南紅里のあだ名の由来は単純で、彼女が保険委員だからだ。
身長は160cmほど。ショートヘアーで、前髪をいつもヘアピンで留めているが寝起きだからか今は着けていない様だった。あまり目立たないほうではあるが、よく気の利いた行動をする彼女はクラスでの信頼もあつい。
蘭原百々のあだ名の由来はもっと単純だ。
蘭原はとにかくちっちゃい。いいんちょが150cmほどの身長だが、百々は140cmくらい。だから”こもも”である。昔は『こももちゃん』と呼ぶと、サイドテールを揺らしながら『”こ”は余計だっ!』と怒られたものだが、最近は諦めたのか”こももちゃん”を受け入れているようだ。
「こももちゃん随分と眠そうじゃないか?」
「なんか枕替わると寝れないんだってー」
「う~~あ~~・・・・・・・」
ふらふらと壁に激突しそうになりながら歩くこももちゃんをメディ子が軌道修正しつつ、大浴場に併設された洗面所へと向かう。
大浴場は男湯と女湯に別れているので、俺はもちろん男湯の暖簾をくぐる。(ちなみに、暖簾にはセルベリークの文字で”男湯”と書かれている)
中に入ると先客がいた。
「おっはよ軍曹」
「Good morning!sgt!」
「おう、おはよう」
順番に、古島八平、ジョシュア・キャラバン、安西光輝である。
八平は『イワン』と言うあだ名が付いていたが、定着しなかったので皆『はっぺー』と呼んでいる。
なぜイワンなのかと言うと、彼が兄弟の中で一番の末っ子だからだ。ちなみに彼は8人兄弟だ。しかも全員男。末っ子の割には妙に面倒見がよく、なにかと頼りになる存在だ。
ジョシュアは生まれはオーストラリアで、5年前に日本に移住したらしい。あだ名は”ジョー”。
ジョージと若干かぶるが、皆大体ジョシュアを呼ぶときは『HEY!ジョー!』って感じに呼ぶので、間違えられることはほぼ無い。赤みの強い茶髪をしており、光が反射すると炎のように輝くのが眩しい。
光輝のあだ名は『ピザ』だ。決して悪口ではない。断じて違う。
確かに今の彼の体型はだいぶふくよかだが、昔からこうだったわけではない。始めて彼と会ったとき、彼は確かにやせていた。始めの自己紹介のとき、『俺は三度の飯よりピザが好きです!将来はピザ職人になります!』と言ったことが原因で”ピザ”というあだ名がつけられたのだが、ピザ職人になるために練習として自作したピザをすべて一人で片付けていたところ、いつの間にか所謂『ピザ』な体型になっていたそうな。
「皆朝早いな」
「いやね、軍曹。実は俺達寝てないのよ」
はっぺーが苦笑交じりに言う。よく見ると、全員目の下にうっすらと隈が出来ている。
「まぁ、いきなり環境変わったわけだしな。寝れなくてもしゃあないか」
「いや、まぁ、そういうのじゃないんだよな」
「?」
どうもはっきりしない。
そうしていると、ジョーが興奮した様子で言う。
「だってグンソウ!魔法だよ魔法!まルでゲームの世界に来たみたいダ!」
「ジョーさぁ、昨日の夜からずっとこんな感じなんだよな」
ピザが眠そうにぼやく。
「昨日の飯のときもテンション高かったしな」
「夜通しこのテンションにつき合わされるとは思ってなかったけどな」
修学旅行の夜みたいだ、と苦笑しながらはっぺーとピザは言う。
だが、彼らの態度を見るにいやいや付き合っていたわけではないようだ。
なんだかんだで、彼らもこの世界での生活を少しは楽しみにしているのかもしれない。
「ま、これから魔法とかを練習するのはかまわんが、それよりも俺らにはやることが山済みだがな」
「だよなぁ」
「その辺は朝食後に話し合おうと思うから、勝手に出かけたりしないでくれよ?特にそこのオーストラリア人」
「やっぱリ、魔法って言ったラ”ファイアボール”とカ?イや、サンダー系もイイなぁ・・・・」
まったく聞いちゃいねぇ。
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顔を洗って洗面所を出ると、ちょうどメディ子とこももちゃんも出てきたところだった。
朝にはつけていなかったヘアピンも付いている。
こももちゃんもきっちり眼が覚めたようだ。
「ぐんそー、寝起きの私、見た?」
素面になったこももちゃんが、顔をほんのり赤らめながら聞いてきた。
「見たも何も、廊下で挨拶したの忘れたのか?」
「うぁあああああ・・・・・・やっぱり見られてたぁあああ・・・・・」
どうも寝起きで記憶が曖昧だったらしい。
両手で顔を覆って不思議な踊りを踊るこももちゃんを尻目に、メディ子に話しかける。
「メディ子、そろそろ他の皆のことも起こしてやってくれないか」
「わかったー。朝ご飯は昨日の夜みたいに皆で作るの?」
「いや、ある程度は俺がこれから作り始めておくよ。眼を覚ました人で準備が整った人から順繰りに手伝ってもらうから、メディ子とこももちゃんも後でよろしく」
「おっけー。じゃ、行ってくるー」
「う~~~あ~~~~」
メディ子が不思議な踊りを踊り続けるこももちゃんを引きずって女子部屋のほうに歩いていった。
・・・・・・・こももちゃん、今も寝起きもやってること一緒じゃねーか。
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それから1時間後、簡素な朝食を食べ終わった俺たちは、そのまま食堂に残っていた。
「――――じゃぁ、これから今後の活動について話し合おうと思う」
「軍曹、待った!」
「はい、てっちんさん、意見をどうぞ」
「この会議の名前は?」
「・・・・・・・第1回『皆の生活を豊かにする会議』で」
「ネーミングセンスェ・・・・・・」
うるさいよ。
「ごほん・・・・ではまずは、まだこの世界に来て3日ってことでいろいろと分からないことが多いと思う。だから、まずは何から手をつけるべきか意見を聞きたい」
「はい、軍曹!」
「はい、ここのん」
元気よく手を上げたのは、鮎川心々乃。あだ名はここのん。
地球では定食屋の一人娘だった彼女は、昨日も今朝の朝食も率先して手伝いに来てくれた子だ。
肩まで伸ばした短めのポニーテールを揺らしながら彼女は立ち上がる。
「まずは身の回りを固めましょう!ってことで、食事当番と掃除当番を決めましょう!」
「うむ、一理ある。この中で料理できないやつは・・・・」
と、言いかけて思い出したが、うちのクラスで完全に料理が出来ないやつはハトケンとアニスの二人だけだった。と言うことは、ここにいる者は全員簡単な料理くらいは出来るわけだ。
「・・・・・・・居ないな。んじゃ、順番に男女二人ずつ、4人でローテーション組むか。掃除も同じ感じで。ただし、自分の部屋は自分で掃除すること」
意義なーしと答えが返ってきたところで、新たに手が上がる。
「俺もいいか、軍曹?」
「はい、チーフ」
チーフこと日暮涼は俺が『クラスの指揮官』だとすれば、彼は『クラスの軍師』だ。
実際かなりの切れ者で、ハトケンが起こした事件があまり大事になっていないのは彼が出した解決策にのっとって動いた結果であるといえる。
「さっき軍曹が言った通り、俺達はこの世界に来てまだ3日だ。
何をするにしても、まずこの世界に対する情報が足りない」
「そりゃそうだな」
「だから何人かで情報収集をしたい。初日の夜に軍曹が言ってたこともあるしな」
俺が言っていたこととは、おそらく『ハンターになろうと思っている』という事だろうか。
「俺は狩人協会に加入するための条件、一般的なハンターの装備とその価格が知りたい。
それに、ハンター以外の働き口も探したい。今のところ、皆何かしらの職に付こうと思ってるんだろ?」
チーフの言葉に、皆一様に頷く。
「というか、チーフもしかして・・・・」
「そうだ、軍曹。俺もハンターになろうと思ってな。俺の神力片は”幻術”と”投擲術”だ。役に立ちそうだろ?」
「チーフも二個持ちか」
「これでも現役ハンドボール選手だからな。肩は強いほうだと思ってたが、神力片をもらえるとはね」
チーフはこれで大学への推薦が決まっていたほどのつわものだ。神の力が宿ったら、投げるボールはどんな威力になるんだろうか。あまり考えたくはない。
「んじゃぁ、昼過ぎから情報収集に町に出ようと思う。一応何か有ると悪いから、留守番組と外出組みで分けようか」
今度も意義なーしと返ってきた。
「よし、他になにか意見は――――」
結局俺達は午前中いっぱいを使って会議をしていた。
ここでの生活についてのルールは、だいぶ細かいところまで決まったと思う。
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「――――じゃ、行って来るよ」
「行ってらっしゃい、小林君。夕飯前には帰ってきてくださいね」
「いいんちょ、なんかそれ新婚っぽい」
メディ子がいいんちょをからかって、真っ赤に染まる頬を見ながら俺は苦笑する。
「まぁ、あまり遅くなる前に帰ってくるよ」
「ふぁ、はい・・・う~・・・・」
顔を真っ赤にして、それでもこちらに小さく手を振るいいんちょはすごく可愛かった。
小走りで先に出たメンバーと合流する。
今回情報収集に出たメンバーは27人中13人。更にここから2つのグループに分けて、協会と武器屋に向かうグループと、市場を見回って情報収集+必要そうなものを買い揃えるグループで分けた。ただし、まだ物価がいまいち分かっていないので、一度全体を見てから買うようにいってある。それと。安すぎるものは買わないようにも。
服はまだ届いていないので皆学ランにブレザーのままであったが、そこは仕方ないと割り切っている。
始めにもらった金貨の中から、俺達第1班――協会へ向かうグループ――には金貨6枚、第2班――市場を見てまわるグループ――には金貨3枚をそれぞれ渡してある。これも、午前中の会議で決まった配分であった。俺達の方が手持ちが多いのは、協会で登録費を取られる可能性があるのと、それが幾らになるかが不明であるためだ。おそらくはこんなに使わないだろうが、あるに越したことはない。一応、スリ対策として第1班の6名に一人ひとりに分けて金貨を渡している。
ちなみに1班のメンバーは、
俺――――小林猟兵
日暮涼
藤見春芳
ジョシュア
藪北霞奈夏
漆山桜子
の6人である。
町の東、商業区をいろいろ見てまわっていると、1班のメンバーの一人――――藪北霞奈夏が一つの建物を指差した。
「軍曹、あれじゃない?狩人協会って」
「ノーカ、どれだ?」
「あの緑の旗が立ってるデカイ建物」
霞奈夏が指差す先には、たしかに他よりも一回り大きな建物がある。
近づいて入り口を見てみると、正面の扉のうえにアーチ状の看板があり、セルベリークの文字で『狩人協会 アッセラ支部』と書かれている。
「ここが首都なのに本部じゃないんだな」
「本部は他の国にあるのかもね」
「ヨし!サッソク入ってみようカ!」
ジョーがテンション高く狩人協会の扉を開ける。
「おいジョー!ちょっと待て!」
俺達は急いでジョーの後に続くのだった。
中は意外と閑散としていた。
まぁ昼間だし、大体のヤツは今の時間に狩りに出ているだろうからな。
「受付は・・・・・あそこかね」
奥のほうにカウンターがいくつかある。おそらくはあそこが受付だろう。
早く行こうと急かすジョーの襟首を掴みつつ、チーフがこちらに寄ってきた。
「軍曹、ちょっと案があるんだが」
「聞こうか」
「受付に行く前に、ちょっと情報収集をしたい」
そういってチーフは、併設された酒場の方に視線を向ける。
閑散としているとは言っても、何人かは酒場で昼間から酒盛りしているようだ。
――――チーフのやりたいことに目処が付いた。
「OK、許可する。が、何か有ったらすぐ呼べよ」
「わかってら。桜子、ちょっと手伝ってくれ。一芝居打つ」
「あいさー、チーフ。まっかせてー!」
二人が酒盛りしている連中に近寄っていくのを見ながら、俺達残りの4人は壁際に寄る。
チーフは3人ほどで酒盛りしていた、男二人女一人のグループに話しかけた。
すかさず給仕を呼び、酒か何かを注文したようだった。
しばらくうるしーも交えて談笑していたチーフだったが、20分ほどでこちらに戻ってきた。
「どうだった?チーフ」
「俺を誰だと思ってる?――――上々だ。聞きたいことは大体聞けた」
そういって彼はニヒルな笑みを浮かべた。
俺達は近くの席に腰掛け、彼の話を聞く。一応、酒を頼むわけには行かないので、給仕にはメニューに載っていた”クロンコロンのジュース”なるものを6人分頼んでおいた。
「うるしーが田舎者っぽい雰囲気バリバリ出してたから話しやすかったぜ」
「どーゆー意味よそれ」
「で、だ。どっから話す?」
「無視か!」
「登録料は?」
「一人に付き銀貨1枚、それで狩人協会の会員証が作れる。実物はドックタグみたいなもんで、名前と現在のランク、入ってるならだが所属するファミリーの名前が打刻される。ちなみに再発行は大銀貨1枚かかるらしいから、無くさないようにな」
「ランク?」
「一番下が新人ハンターで、タグに白い帯がつけられる。コイツが取れるまでは初心者って事だ。
で、その上が4級ハンター、3級ハンター、準2級ハンター、2級ハンター、準1級ハンター、1級ハンター、最後に特級ハンターってのが居るらしいが、コイツは隣国の本部にしかいないらしい。
ちなみに俺達が話しかけたあの3人組は3級ハンターで、つい昨日まで魔獣の森で獲物を追ってたんだと」
「ランクアップするには?」
「簡単だ――――そのランクに見合った獲物を狩れば良い。
だが、気をつけるべきはただ狩るだけじゃダメだ。いかに綺麗に狩れるかってのも重要になってくる」
獲物によっちゃあ毛皮が必要だったり、肉が必要だったり、内蔵が必要だったりと必要な部分が変わってくる。それを、いかに綺麗に納品できるかどうかもランクアップには関わってくるということか。
「ファミリー・・・・・・は名前でなんとなく分かるからいいか。なんかマフィアみたいだな。
隣国ってのは?」
「魔獣の森の向こう側――――森の中央に引いてある『大街道』の先にある国だ。こっから馬車で2週間かかるところにあるらしいんだが・・・・・」
チーフはここで1回言葉を切ると、
「聞いて驚け、
その名も『キリダス共魔王国』。
ちなみに、現国主は200年前にこの世界に迷い込んだ『異世界人』らしいぞ」
衝撃の言葉を放った。
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「ああ、えっと・・・どこから突っ込めばいい?」
「いや、突っ込まなくてもいいぞ。これに関してはあまり詳しく聞いてきてないからな」
今はほかの事優先だ、とチーフ。
「ただ一応聞いたのは、共魔王国はこのセレイダ公国最大の友好国で、貿易も盛んで仲も国民レベルでかなり良いんだとよ。たまに共同軍事演習も兼ねて魔獣の森の奥地で増えすぎたモンスターの一斉掃討もやってるとか」
「・・・・・まぁ、今はそれだけ知れればいいか」
チーフはごほんとワザとらしく咳払いをする。
「とりあえずこの話は置いとこう。
――――で、あとは肝心の武器防具なんだが、この建物の3軒隣に協会で薦めてる武具店があるらしいから、登録だけしてそっちにいってみよう」
「そうだな・・・・・んじゃ、登録さっさと済ませちまうか」
俺達は席を立って受付へと向かった。
――――因みに、クロンコロンのジュースはあまりアンコールしたくない味だったとだけ。
続きは早めに




