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いつもどこかズレタセカイ ~人喰い  作者: 裃 左右
『非日常』は『日常的』から

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いつもどおりの朝

実際のところ、主人公、八賀谷コウは嫌な奴だと思います。かなり。

そして、変な奴だと思います。すごく。



第一話 『非日常』は『日常的』から


 目覚まし時計が鳴ったような気がして、反射的に手を伸ばしアラームのスイッチを止める。そのまま顔を伏せて俺はうずくまった。

 頭痛する。

 起き上がりたくない。


 出来ることならこのまま化石になってしまいたい。それで1万年後くらいに未来人だか宇宙人だかに発見されて「おお、これが当時地球を支配していたホモサピエンスの化石なのか!」などと騒がれて、宇宙国際博物館とかでそれはそれは厳重な警備を受けつつ展示をされて……それはいやだな。

 無駄なことを考えたせいで、頭の重量と鈍痛が増した気がする。

 気力を振り絞り、顔だけを上げ時計を見てみれば、6時半の少し前。

 アラームは6時半丁度に鳴るようにしてあるので、まだ鳴るはずはない。


 ……またか。

 鳴ってもいないはずのアラームを止めるのはこれが最初ではなかった。

 寝なおそうかとも思ったが、眠れるほどは眠くはないし、早くに家を出なければいけない諸事情があるのでそうもいかない。

 と言うか、数分寝た程度で収まる眠気ならそもそも寝なくていい。


 俺はベッドから手を伸ばし、床に綺麗にたたんで置いてある制服を掴もうとする。が、そのままベッドから転げ落ちた。

 床に倒れこんだ俺は、「このまま、ミイラか化石になって宇宙に思いをはせるのもいいかもしれない」という誘惑に駆られたが、やはり博物館で見世物にはなりたくないのでそれを振り切る。


 しかし、起き上がりたくない。

 意外に床の冷たさがだるい朝には心地いいものだ。

 そう言えば、こんな無粋な言葉があったな。「朝寝は一番高い時間の出費である」と。

 でも、考えて欲しい。朝寝なんて貧乏学生に出来る最大の贅沢じゃないですか。


 やっぱり、起き上がりたくない。

 そこで仕方なく寝たままで制服に着替えることにする。

 脱いだパジャマを意識もせずにたたんで、それをベットの上に置き、ワイシャツ、ズボン、ベルト、と目をつぶった状態で順序よく着ていく。

 ネクタイも寝たままで結び、ふと気が付けば残念なことに、あとは部屋から出るだけになっていた。


 あくまで俺は起き上がりたくないので、時間稼ぎに化石と化した俺を発見するであろう宇宙人(決定)の誕生の歴史を脳内で追う。

 光よりも早い超高速(物理的に無理)で永い時が経ち、とある宇宙にとても高度な文明の誕生を俺は予測した。そのとても遠い宇宙にある種族の共同体で大きな事件が起きた。

 種族の元首が他の種族の元首の奥さんと浮気をしたことで民族紛争が勃発し、それを切っ掛けとした複数の種族を巻き込んだ宇宙大戦争となった。それは『第一次宇・わき・宙戦争』と後世に呼ばれた。


 その宇宙戦争は激化に激化を重ね、ついには東の宇宙人。ゾダーク(仮名、70歳巳年:恋人募集中)が最終兵器『虚無』を開発。

 軍部の過激派がそれを持ち出し、ついにはそれ使用する。結局は俺を発見できずに無残にも、宇宙人たちが絶滅した頃には、自分がいつの間にか立ち上がっていたことに気付いた。

 人類って偉大だ。

 って言うか駄目じゃん。俺、発見されてないじゃん。


 ドアを開け、階段を降りていく。

 どうも頭がはっきりとしない、最近はいつもこうだ。

 別に寝不足というわけではないはずだが。


 階段を降りてすぐのリビングから人の声が聞こえる、ドアがいつも開きっぱなしだからなおさらだ。

 俺はリビングにはまだ入らずに、そのまま洗面所へ行って顔を洗う。

 顔を洗って少し目が覚めた気はするが、鏡の中の自分はまだ眠そうだ。

 それでも目が覚めたせいか自分の服の乱れに気付く、鏡も見ずに自室で結んだネクタイは少々不恰好だった。

 服を直してすぐに歯を磨く。


 そうしていると、リビングから聞こえる人の声がテレビから流れているニュースキャスタの声であることに気付いた。


 「今度は20代前半の女性の遺体が公園で発見されました。被害者の遺体はまたもや複数の臓器が持ち去られており……」


 くだらない、朝から趣味の悪いことだ。

俺がテレビが嫌いなこと(特にニュースやワイドショウなどの他人の不幸や、どうでもいい私生活を覗き見るもの)を知っているクセに。


 ところでリビングというと、どうしてもゾンビを思い出してしまうのは何故なんだろうか。

 なんというか、おかげで爽やかな朝が望めない。

何故なんだろうか、と言いつつそのことに関して誰かから同意を得られたことは一度もない。

 リビングと言えばゾンビだろう?


 まぁ、朝食をリビング以外で摂れば一挙解決なんだが、それをすると家族としての最低限度のふれあいを失くすことになる。と親たちが言っていた。

 そんなの悪いテレビの見すぎだ、と俺は思う。

 二人とも朝なんか滅多に食事など摂らないくせに。


 リビングに入ってみると、美弦が朝食を食べる動作を途中で停止させたままテレビに熱中している。まだ制服もちゃんと着ていない。

 ……だらしないことだ。

 もしその格好で、人前(特に余所の男の前)にでれば大問題になること請け合いだ。


 ちら、とテーブルを見る。

 今日の朝食は、食パンに野菜スープ、サラダ、ハムエッグ。そして牛乳。

 まぁ、いつもどおりだな。たまにはご飯も食べたいがまあいいだろう。


 俺は席に右隣の座り、美弦の目の前にあったリモコンに手を伸ばす。

 美弦は僕の行動に気付きもしない。少し、ため息をつく。


「同一犯の犯行でしょうか、だとするとこれで3件目の事件となりま」

 

 リモコンでテレビの電源を消した。モニタが真っ黒に塗りつぶされる。 

 美弦は停止したままだったが、そのままの体制で目を大きく見開く。

 そして、鈍いとしか言いようのない動作でこちらに顔を向けた。

 そこまで来てようやく一言。


「……コウ?」


 何を驚いてるんだか。

 美弦はまだ何が起きたかわかっていない。

 どうやら美弦は俺と違ってねぼけているだけでなく、思考が凍り付いているようだ。ああ、凍るのは思考じゃなくて脳みその方か? むしろ、腐りきっていると評するべきか?

 

 ここまで来て美弦はようやく状況を理解したらしい。顔が真っ赤になっている。


「私が見てたのに何てことすんの、後から割って入ってきて。少しは常識ってモノをわきまえてよ!」


 突然耳元で怒鳴る。

 俺は耳を左手で押さえながらとりあえず言い返そうとする、が。


 「割って入る、の用法が違うんじゃないのか。それは人間同士の会話ないしは関係に割り込んだときに使うのが常識だ。朝食ぐらいすぐに食べたらどうだ、ノロマ。だいたい人間のクセにフリーズしてんじゃない、見苦しいぞ」


 そう心の中で呟くに留めておく。

 そういえば、最近俺のパソコン調子が悪いんだよな。誰かに見てもらおうか。


「だいたい、言いたいことがあるんなら、消す前にまず口で言えば良いじゃない」


 どうでもいいことを考えながら、食事に手を伸ばす。まずは野菜スープ。


「私の楽しみを何でそう邪魔するの。私に何か恨みでもあるの?」


 朝からヒステリックだな。

 問題をすり替える真似はよして欲しい、恨みがあっての嫌がらせ? 朝の俺はそこまで暇じゃない、嫌がらせは恨みがなくても暇ならするけど。

 まあ、仕方ないからそろそろ言っておくか。


「恨みなんてあるわけ無いだろ。早く食べないと遅れるぞ、お前の学校少し遠いんだから」


 俺の言葉に美弦はムッとする。


「とりあえず服をちゃんと着なさい、風邪を引いたら困る」


 美弦は少し膨れながらも服を直した。膨れるといっても、よく見ないと分からない程度だ。そんな風船みたいには膨れない。もし、そこまで膨れることが可能なら、その様をスケッチに描きとめ、かつレポートにまとめてみたい。って言うか、触りたい。心ゆくまで。


「お父さんじゃないんだからさ、そんな説教じみたこと言わないでよ」

「説教じみてるかな」


 食事をしながら俺は言葉を返す。

 このスープ、塩味効きすぎだ。欲を言えば薄味のほうが俺は好みだ。特に朝に関しては。

 次第に膨れるのにも飽きたのか、美弦はぼやき始める。


「結構説教じみてるよ。いつも、思うんだけどそんなに子ども扱いしないで欲しいんだけどな。1歳しか違わないんだし、正直な話いきなり兄貴面されても困るのよね」


 俺の経験から言うと、こうやってぼやいた時に人間は放っておかれると傷つくものだ。

 食事をやめて俺は美弦を真っ直ぐ見つめる。

 そのまま一息おいて、と。


「子ども扱いはしてないよ。美弦と俺との関係で兄貴面をする気も無いし、説教をする気もない。ただ、心配で口出ししただけ。迷惑ならやめるよ」


 少し声のトーンを落としつつ俺は言う。

 これは持論だけれど、人間の誠意とは態度と行動だと思っている。決してお金ではなく、あくまで態度と行動だ。

 ……決して自分に金が無いからそんなことを言うわけじゃない。あと、誠意に精神面を含めていないことには突っ込みを入れないで欲しい。


 まあ、そうするとおそらく俺の誠意が伝わったのだろう。美弦は文句を言わなかった。

 しかし、代わりになぜか美弦は少し目をそらした。


「うん、わかった。ごめんね、私が言いすぎた」


 そんな殊勝な態度にいきなりなられると、なんとか残っている良心的な部分が痛む。

 俺も目線を美弦から外し、下に落とした。


「いや、俺の言い方も悪かった。それに、口で言ってからテレビを消すべきだった」


 口で言ったからって美弦が素直にテレビを消すとも思えないけど、それはそれだ。

 二人とも黙って食事を始める。

 実際、こういうやり取りはいつものことだから、二人とも言い合いに慣れているところがある。


 それに、なんというかわざと言い合いをしているというか、少し極端に言えば演技を強いてる部分が互いにある。自分たちの繋がり保つをために。

 こうやってやりとりしている時が一番家族らしいというか、仲が良い気がしてそうせずにはいられないのかもしれない。


 手探りの作り物めいた家庭の雰囲気、こういうのも幸せというのだろうか。

 二人で居る時の静かさを嫌って俺は声をかける、本当は静かに一緒に居られたら理想なんだけど。

 沈黙のままで許される関係にあこがれるのは歪んでいるのだろうか?


「ここのところ、毎日同じニュースが流れているね」


 美弦は少し考えながら、頷く。


「うん、まぁ、そうかも。この町で起きた連続猟奇殺人って地元メディアが大騒ぎしてるから」


 地元メディアとは、あまり女子中学生の使わなそうな言葉だな。


「なんて言ったって1人目は女子高校生。2人目は今年入社したばかりのOL。3人目は20代前半の女性、と若い女性ばかり狙った事件だからさ。私も自然と目が行っちゃうんだよね」


 そう彼女は言うが、美弦の趣味はそういった殺人事件などの悪趣味な事件を調べることなので、仮に被害者が老人だろうが中年だろうなんだろうが興味は持つと思う。

 いや、彼女が興味を持っているのは事件ではなく、人の死……か。

 どちらにしても悪趣味だ。生きていようが死んでいようが、人間に関する情報を集めるのはだいたい悪趣味だ。

 まあ、となると、世の中の大半の人間は悪趣味だな。


「それにしても、すごい話だよね。内臓が半分以上も持っていかれたんだって?」


 俺はそう言いながら、食パンにイチゴジャムを塗る。

 美弦は顔をしかめた。


「やめてよ、食事中だからわざわざそういうこと言うの避けたのに。なんか気持ち悪くなるでしょ」


 お前がそんなことで気分を悪くするか。実際に見たわけでもあるまいし。

 恐らく、「普通の女の子ならそういう感覚なんだ」と言う思い込みがあって、それが彼女にそうさせてるのだと思う。


 でも、なんで汚物でもないのに人はそういったもので食欲を失くすのだろう。

 もしかしたら、潜在的に人は人の中身を汚い物だと認識しているのかもしれない。

 そう言われたら、確かに人間の中身ほど汚いものは無いとも思う。俺からすれば、人間以外の他の動物の中身でもほぼ同じだ。なるほど、そう考えれば生物はみな、汚物だろう。

 一番、遠ざけるべき感染源。健康を害する不衛生、病原菌の塊だ。


(人間であろうがなかろうが死体には変わりないしな、触って血がついたら手は洗うだろうし。俺はつかなくても洗うかな)


 とりあえず、俺が犯人だったらそんな作業をするのは気が滅入るな。って、美弦の言うとおり確かにある意味で気分が悪くなってきたぞ。

 と言うか、朝からこんなことを考えてる時点で気が滅入るような。


「新しい学校にはもう慣れたの?」


 突然の美弦の声で俺は閉鎖的思考を止める。

誰にも解放しない、密閉された思考内容。


「どうだろうね。一応、友人は出来たし授業も大体一通りはやったけど。まだ、なんとも言えないかな」


 俺は今年高校に進学した。地元では優れた進学校として有名な公立校で、入るにもそれなりの学力を必要とした。

 実際問題、俺はそれほど学校の成績は低くなかった。

 テストの点数は平均よりマシかそれ以下だったが、授業態度は良いためなかなか高い評価を受けていた。


 それでも俺にはその高校に受かるのは難しいと言われていたのだが。

 そんな中、実際に受験してみると自分でも絶対に落ちると思っていたのに、演技バリバリの面接や嘘を書いた作文で乗り切ってしまった。

 俺はその時改めて、世の中外面が大事だと実感した。もしかしたら、試験官の目が腐ってたのかもしれない。


 ずっとこの学校を狙って、真面目に勉強していたのに落ちた奴には悪いと思う。でも、勉強が出来ない分を別の方向でカバーするのは、当然なことだし誰もがすることだ。いや、当然としてしなければならないことだ。

 問題は今後の授業において行かれずに済むか、ということだが。


 まぁ、それは置いといて、親父たちの都合というか、夢というか、その辺の大人独特の勝手さで、突然この家に引っ越すことになった時は驚いた。

 受験勉強真っ只中の当時の俺からすると、はなはだ迷惑ではあったが、偶然でも家が高校に近かったのは今になって考えると都合がいいと言える。


 ただ、美弦の中学校は前の家からは近かったのに、この家からは少し通学が大変になってしまった面もあるので一概に全部がよかったとは言えない。

 いや、そもそも全部がよくなる決断などこの世にないわけだが。

 ふと時間が気になって俺は部屋の時計を見上げる。7時過ぎぐらいか。



「もう時間じゃないか、美弦」


 俺はまだ1時間は余裕があるが美弦はそろそろ行かないと遅れる。


「あっ、本当だ。急がないと」


 美弦はそう言ってサラダを口に掻き込む。

 あまり品が言いとは言えない。

 

「ご馳走様でした。行ってきます」


 椅子の下に置いてあった鞄を持って立ち上がる美弦。そのままリビングを出て行く。

 俺は鞄とフキンを持って立ち上がる。


「待てよ」


 美弦は振り向いた。


「口汚れてる」


 俺は美弦の口をフキンで拭いた。まだ一度も使ってないから汚くは無い。

 少し戸惑って美弦は口を開く。


「やっぱり子ども扱いしてるじゃない」


 美弦はまた少し膨れた。そして、俺の持っている鞄を見る。


「なんでもう鞄持ってるの。こんなに朝早かったけ?」


 俺は首を振る。


「いや、駅まで送っていこうと思って。そのまま学校行けば丁度いいぐらいだろ」


 本当はまだそれでも早いぐらいだけど、そんなことは言わない。

 俺から完全に顔をそらす美弦。


「またなの?」

「嫌なのか?」

「……前から思ってたけど正反対でしょ、方向」

「かもな、でもそんなの関係ない」

「なら、顔ぐらい洗ってきたら。まだ眠そうよ、コウの顔」


 美弦は怒ったような声を出して言った、わざとだ。

 頷きもせず、素直に俺は洗面所に走って行く。

 これが俺にとってのいつもどおりの朝になる訳だ。



基本的に主人公の戯言たわごとで物語は進みます。視点がほかの人と変わることがありますが、主人公はほかの人物の視点と比べて、読むのが面倒です。

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