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兄弟喧嘩と言うには爆発が派手すぎる(後編)

 

 ***

 

 替えとして頂いたドレスに一通り着替えてなんとなくそれを見回していると、着替え用に貸してもらった部屋のドアが叩かれた。


「カタギリさん、僕だけど」


 今この屋敷で私をその名前で呼ぶのはルカさんだけなので、声音と合わせてすぐに彼が来たのだとわかる。なのでとりあえず彼を部屋へ迎え入れることにした。


「どうぞ、入ってください」


 私が答えた一言にそっとドアが開く。それから彼は気配を感じさせない静かな足取りで部屋に入ってきた。

 この歩き方ばかりは職業病と言わざるを得ないだろう。戦場では足音を聞かれるとまずい場合もあるから。


「良かった、サイズが合っているみたいで」

「助かりました。本当に申し訳ありません…」


 借りたドレスはこのお屋敷の使用人さんの私物だそうで、古いものなので良ければそのまま貰っていいと言われた。正直めちゃくちゃありがたい。

 とはいえ、着慣れないドレスに一日で二回も袖を通すなんて変な感じだ。


「さっきのも愛らしいと思ったけど、落ち着いた雰囲気のものも似合っているね」

「え、そ、そうですか!? 慣れないので照れますね…」


 急な褒め言葉に少し顔が赤くなるのを感じる。

 着てる服が似合ってるかどうかなんて、高校の頃友達とふざけ合って以来だ。

 でも、ルカさんにそう言ってもらえるのは正直嬉しい。


「すまない、気を悪くしただろうか。従姉妹がよく言葉を強請ってくるから癖になってしまっているんだ」

「いえ、嬉しいです! ただ慣れてなくて」


 そこで訪れる沈黙。何かまずいことでも言っただろうかと思いつつ彼に視線を向けると、なにやら彼も顔を赤くして話題を探しているように見えた。


「…」


 この空間少し戸惑っている彼も綺麗だと思う。なんとも言えない愛らしさも合って、目が離せない。

 正直めちゃくちゃ可愛い、母性をくすぐられるというか、勇気があったら抱きしめてたかも。やっぱり天使か何かなんじゃないだろうかこの人は。


「…あまりじっと見ていても何も出ないけど」

「!」

「気づかないわけがないだろ、視線には常に気を配っている」

「え、それって…」


 彼から出た言葉に動揺する。

 それって大分まずいような、と。

 彼の発言から察するに、もしかしなくてもここまで隠し見てたのって全部バレてるんじゃ…?


「君がよく僕を見ていたことも知ってる。だから…いつだったかな、見返してやろうと思って目を合わせたら君の瞳が綺麗で…」

「!!」


 彼がそう言ったのはイザベラの瞳のことなのに、どうしてか自分のことのように思ってしまった。違う違う、私の前世は地味メガネだから関係ない…。

 ていうかやっぱり盗み見てたのバレてる。やばい。


「あ、いや…」

「いえ…私こそ申し訳ありません…」


 どうしてルカさんが慌ててるのかわかんないけど、それはそれとして盗み見がバレてたのは気まずいな…。


「前世の…」

「?」

「君の本当の姿は、どういった姿だったんだい?」

「私ですか…?」


 目の前に綺麗なイザベラがいるのに、どうして前世の私なんか知りたいんだろう?

 不思議な人だな…。


「イザベラと違ってブサイクでしたよ。髪も目も黒くて、髪なんか天パ酷くてストパーかけてましたし」

「スト…?」

「あっえっと、癖毛がひどい人に使う技術で、髪質に一時的な矯正をかけるための機械があるんです」


 彼に疑問を抱きつつも、訊かれたことについ答えてしまう。

 にしてもストパーなんてこっちの世界にはないのに何気なく使ってしまった…よくない。

 けど、そう考えるとイザベラって何もしなくてもサラサラストレートヘアなんだよな。本人は「華がない」って嫌がってたけど。


「異世界にはそんな技術があるのか…驚いたな」

「こっちだと見ないですもんね、流石に…」

「そういったものはどのような原理で動いているんだい?」

「詳しくは知りませんが…電気で動いているのでタービンを使っているんだろうとしか」


 世の中の電化製品は全てタービンで成り立ってるって昔おじいちゃんが言ってたので、これは間違いない。


「タービン? また知らない単語だ。すごいな異世界は」

「ええと、まぁ向こうには魔法がないですし」

「魔法がない!? 信じられないな」

「魔法の代わりに科学が発展している世界なので、正直素人目には変わらないですよ」


 あはは、なんてつい小さく笑ってしまったら、彼も笑い返してくれた。なんだかこんなにも取り止めのない話をしたのは久しぶりな気がする。


「是非会ってみたかった、生まれ変わる前の君に」

「え!? それはダメです! ブスで地味なメガネ女ですから!」

「いいや、そんなことはないさ」


 そう言って、ふと彼が私に近づいてくる。私がそれに驚いていると、彼は迷うことなく私の手を取ってそっと甲にキスをした。


「!」

「君の魂は純粋で曲がりがない。きっと前世の君にあっても僕はわかると思う」


 驚きのあまり彼を見てしまっていたら、不意に彼と目が合う。

 長い前髪の奥にある新緑の瞳に惹きつけられて動けない。そしたらそのまま、彼の瞳が近づいて来て、惹きつけられるままに彼の唇が私の唇に触れた。

 重なったそれはとても柔らかくて、彼の香りを直に感じる。だけどそれはすぐに離れてしまって、どこかで惜しいと感じる自分がいた。


「「…」」


 唇が離れて、もう一度視界に映る新緑の瞳。

 垂れた目元に嵌められた彼の瞳は今日も美しいけど、よく考えたらこれ…ファーストキスだったような。


「…!」


 そう自覚してしまったら、加速度的に心臓が動き出した。後からくる緊張と恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。


「どうかしたか?」

「あの、その、キス…とか初めてで」

「そうなのか?」

「はい…」


 恋人いない歴=年齢の人間にキスなんて経験があるはずもなく。

 初めてのキスはレモンの味なんて聞いたことはあったけどそんなことはなかった。

 ただ柔らかくて、彼の香りに包まれているみたいで。思い出すとドキドキが加速する。


「!」


 なんて惚けていたら、今度は頬にキスをされた。私が驚いて背の高い彼を見上げると、彼はいたずらに微笑んでいる。


「それはいいことを聞いた。これからはたくさんしよう」

「えっ!?」

「愛らしい君がたくさん見れるというのは、素敵なことだ」


 そう言って彼は再び私の頬にキスをした。恥ずかしさのあまり逃げようと試みたけど、いつの間にか肩がしっかりホールドされていて叶いそうにない。

 あわやと震える私に向かって彼は一つ微笑み、流れるように私の右手に指を絡める。


「これから、二人の時は“セナ”と呼んでもいいかい?」

「それは、どういう…」

「僕が好きになったのはセナだ。だからセナの名前を呼びたいんだ」

「…っ!」


 ま、また恥ずかしいことを恥ずかしげもなく…!

 ルカさんってこんな人だっけ!?

 カトレアと話してる時だってこんな甘い顔見たことない。こんなに甘い声だって聞いたことないよ。

 こ、これが恋人ってこと…?

 こんなに甘くて痺れそうな時間をこれからも彼と、好きな人と過ごすの!?


「し、心臓がもたない…」

「…君はいつもそう言うと逃げてしまう。今日は逃がさないが」

「ほ、本当のことですので…! すすす好きな人と甘い時間なんて、嬉しいのも恥ずかしいのも諸々混ざって心臓が保ちません!」


 好きなんだよ、憧れなんかじゃないんだ。

 何度も貴方が欲しいと思って、何度も貴方に笑ってもらえたらと思って。


 その貴方が今、私の肩を抱きながら甘い言葉を囁いてくる。そんなの緊張しないわけがない、でも嬉しくないわけがない。

 もうどうしたらいいかわかんないよ。


「…」

「…?」

「今、この愛らしい君をどうしたら他人に見せないで済むか考えているところだ」

「!? 可愛くはないです!」


 これは挙動不審なのであって可愛くなんかないと思うけど!?

 何を言ってるんだこの人は!


「まぁ、それは後で考えればいい。それよりも返事が欲しいんだけど」

「返事…?」

「名前、呼んでもいいだろう?」

「!」


 そうだった、最初は彼が私の名前を呼びたいって話で…でででもそんなことをされたら逐一心臓が。


「いやとは言わせない。君は僕を好きになったのだから」

「えっ」


 拒否権がないと言わんばかりの彼の言葉に私が驚いていると、私の手に指を絡めていた手は離れ、次にその手は私の頬を優しく撫でる。


「僕は君の名前を呼べることに幸せを感じるけれど、君は嫌かい?」

「…!」


 それを言われてしまったら、確かに拒否なんてできない。

 貴方が私の名前を呼ぶのが幸せだと言うのなら、そもそも私だって幸せに思うから内心では貴方の名前を呼んでいるわけだし。


「い、いやじゃないです…」


 だけど心臓は轟音を立てて痛いくらいに締め付けられてる。返事一つするために頭がおかしくなりそう。

 それなのに、ひどい有様の私を見てルカさんは少し楽しげに笑うのだ。


「ありがとうセナ、よかったら君も僕の名前を呼んでくれないか」

「いや、それは」

「あの時みたいに呼んで欲しいんだ。君に」


 あの時って、と記憶を掘り返す。

 確かに告白してもらった時、緊張せず彼の名前を呼んだような。普段は役職名で呼んでるし、正直それしか思いつかない。

 って言っても、あの時だって数えれるくらいしか彼の名前呼んでないし、まさか覚えられていたなんて。

 それを改めて言われると、果てしなくハードルが高い。


「それはその、私にはまだ早いといいますか」

「そんなことはない、そう僕が断言する。セナはいつも通りに僕を呼んでくれたらいい」

「いつもって!? 私いつ言ってたんですか!?」


 確かに独り言で呟いてた可能性はゼロじゃないけど、まさかそれを聞かれてたってこと!?

 しかし震える私に向かって彼は何も言わず微笑み続けている。その表情はなんとも意味深だ。


「…」


 あぁ、終わった…そう思うと顔面が青白くなっていく。

 そしてもしそんなことをしていたのならば、私に弁解の余地はない。


「…っ」


 こうなったらもうヤケだ。なので私は全ての羞恥をかなぐり捨てて、


「る、ルカさん!」


 そう叫んでみる。

 するとルカさんは一瞬驚いた顔をして、そこからくつくつと笑い始めた。


「なんですか、笑うなんて…頑張って名前呼んだのに」

「すまない、わかってはいるんだ。しかし君は僕を助けようとした時も…」


 不服さを感じる出来事に私が文句をつけようとしたらまさかの反論が返ってきて、同時にバン! と突然大きな音が聞こえた。


「「!?」」


 音に反応してドアの方に顔を向けると、そこにはドアを蹴破ったような姿で立っているレオの姿がある。


「遅いぞお前ら、俺の家でいちゃつこうなど百年早いわ」

「だ、団長いつからそこに…」

「それは今さっきだが、人が素直に支度をしてくればメイドがお前たちの甘い空気を邪魔できんなどと抜かしてな。優しいオレがこうして迎えに来てやったわけだ」

「「…!」」


 そんなに時間が経っていたのか、と思わず困惑する。そんなつもりではなかったのに。


「人様の家で堂々といちゃつく奴があるか。ルカ、お前は今や居候なんだぞ」


 レオは不機嫌を隠さない様子で部屋の入り口に立っている。

 しかし確かに、キャリントンの家督を継ぐのはレオなわけだし…そうでないルカさんは扱い的には居候になるのは間違いじゃない。

 しかしなぜだろう、ルカさんの手が私を抱いたまま離れないのは。


「これは失敬しました、兄上。しかしセナはうちに迎えるのですから、早く慣れてもらおうと」

「! る、ルカさん!?」


 なんでレオの前で本名呼ぶの!?

 怪しまれちゃうよ!


「セナ…? こいつの名前はイザベラだろう」

「二人だけの呼び名です。セナはこの呼び方がお気に入りですから」

「ルカさんストップ、ストップ!」

「どうしたんだいセナ、兄上の前では恥ずかしいかい?」

「そうではなくて!」


 ノワールがいない、つまり証拠を出せないのに私が異世界転生者だなんて話をしても誰も信じてくれるはずがない。

 そしたらありもしない絵空事を信じていると怪しまれてしまう。それにルカさんを巻き込むのは本当にまずいよ!


「なんだお前ら、随分と調子に乗っているじゃないか。まだそいつはオレの婚約者だがな」

「さっきの勝負は僕の勝ちなんですから、それはもう無効でしょう! 何を言い出すんだ貴方は」

「オレは負けてない。お前の思い過ごしだ」

「貴方って人は…!」

「ふん」


 ついさっきまで信じられないくらい甘い空気だったのに、レオが来てから一転して謎の兄弟喧嘩を見せつけられている。

 しかしレオが何をしたいのか、今だけは想像できなくもない。

 弟が取られて悔しいのだろう、彼は。呆れたブラコンである。


「あーもー! やめてくださいよ二人とも!」


 とはいえこのままではまんまとブラコン兄に私の大切な人を取られてしまうので、仲裁のフリをして私も参戦しよう。

 


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