第6話 鏡の部屋
◇◆◇
廃墟に着いた。
心臓が止まりそうだ。
いや、止まっているような…
廃墟となったホテルは、
街の外れにひっそりと佇んでいた。
窓ガラスは割れ、壁には落書きが刻まれ、
入り口の自動ドアは半ば崩れ落ちている。
蓮は息を殺しながら懐中電灯を掲げた。
誰もいないはずなのに、建物全体がこちらを睨みつけているような圧迫感があった。
床に散乱したガラス片が、
わずかな光を反射して血のように赤く瞬く。
噂によれば、
このホテルの一室――「鏡の部屋」が、
小説に書かれていた舞台だという。
階段を軋ませながら三階へ上がる。
薄暗い廊下の奥、
ひときわ重厚なドアの前で足が止まった。
取っ手に触れると、
冷たさが皮膚に突き刺さる。
ぎい……。
扉が開いた瞬間、蓮の息は凍りついた。
そこには――壁一面、
天井一面に鏡が貼り付けられた部屋が
広がっていた。
正面だけでなく、
左右、背後、床に至るまで。
どこを見ても、
自分の姿が無数に映し出されている。
だが、その“自分”たちは
同じ動きをしていなかった。
ひとりは笑っていた。
ひとりは泣いていた。
ひとりは首を傾げ、
ひとりは口をぱくぱくと動かしている。
声は聞こえないのに、
確かに何かを語りかけている。
「やめろ……」
蓮が後ずさると、
背後の鏡像が勝手に前へと歩み出した。
その顔は――“昨日、
赤い橋で笑っていた自分”と同じだった。
懐中電灯が手から滑り落ちる。
暗闇の中、無数の瞳がこちらを見つめ、
口が一斉に動く。
――「読んだ■■ろう?」
――「最後まで来■んだ■う?」
――「こ■が終わりだ。
……い■や、始まりだ」
頭が割れそうだ。
耳鳴りと共に、ポケットのスマホが震える。
取り出すと、画面には
リアルタイムのスレッドが表示されていた。
「佐■■蓮、鏡の■屋に到■」
「鏡像と■遇」
「次の段階に移■」
どの書き込みも、
数秒前の自■の■動を正確に記録し■■る。
最後のレスには、やはり――
#諸■■■
鏡の中の“笑う蓮”が、
こち■■■じり寄って■■。
ガ■■の向こうで■なく、
この部■の床■影を落と■■■ら。
頭がおかしくなってくる。
「あきまな■■め■ま■のて!!??」
――もう■ぐか。この物語の■末は……




