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陰洲鱒町と蛇轟秘密教団


 1


「海原君。まず、この町の名前がなぜ『陰洲鱒』なの分かるか?」

「んー。漁業で栄えている町だからですよね。それに、元々から呼ばれていた名前の発音に、海と魚に関係する文字を当てはめたのだと思います」

「なんだ、分かっているじゃないか。正解だぞ」

「いや、その、ありがとうございます」

「嬉しくなさそうだな」

「……」

 小馬鹿にされたような気がしないでもないが、次に話しを進めたいので、摩魚は有馬教授に催促をしてみた。

「で、その陰洲鱒町いんすますちょうと私の見る夢とになにか関わりがあるんですか?」

「“ある”と、断言しよう」

「……ほほう」

「まあまあ聞いてくれ」


「昔はな、陰洲鱒町のある島はごく普通に存在していたんだよ。この長崎には、幾つかの島があるだろ? 壱岐対馬に九十九島。しかし、それだけではなくてな、もうひとつ『名無しの島』があるんだよ。この島に、陰洲鱒町がある」

「未だに名前が無いんですか?」

「そう。我が輩は島である、名前はまだ無い。―――というわけだ」

「へえーー」

 漱石かよ。と、聞き流して、教授の次の言葉を待った。

「まあ、未だに名前が無いというのは可笑しな話しだが、問題はそれではないんだ。二百年前のある日、漁業で栄えていた町にふとした出来事が起こってから様変わりしたそうだ」

「どんな?」

「町一番の家でもあり町長と漁師である、摩周安兵衛ましゅう やすべえという人が、晴れた日に海岸線を歩いて波の具合を確かめていたときだった。数メートル先になんだか光る物を発見してね、拾って見てみたそれは、純金で出来た像だったんだよ。それも、頭は魚で身体は筋肉質な男のものといった組合せの奇妙な物。実はこれが変化のキッカケだったんだ。その前に、この像について言うと。名前は蛇轟ダゴンというらしい」

「ちょっと待ってください教授。ダゴンって聖書に出てくる、ペリシテ人の信じる半人半魚の神じゃないですか。どうしてそれが当時の日本にまで伝わっていたんです?」

「文献にも載っているのだが、そのせいもあって陰洲鱒は魚だけでなくて、あとひとつの大きな波がきて更に栄えるようになったんだな」

「それはまた……。どんな波ですか?」―聞けよ!――

 教授から、質問をスルーされてしまった。そして、男は摩魚に語りを続けていく。

「それは、純金なんだ」

「それってまさか……、なんの前触れもなく?」

「そうだ、海原君。話しが分かるなー、君は。―――なんの前触れもなく、その島に金鉱脈が出現したそうだよ。しかも、無尽蔵の。それからだったね、陰洲鱒町が一時的に繁栄したのは。鉱脈があれば、必然的に炭坑夫が要るだろ。それからというもの、陰洲鱒町には長崎県や市内を始めに、県外から男たちがたくさん働きに来てだな、同時に若い女たちも入ってきたんだ。町には次々と長屋が建っていって、そうして時代が経つと、そこには団地が幾つもできて島の人口も増えてきてな。栄に栄えたのだが、その後からきた衰退もその倍以上だった。―――その理由というのが、摩周安兵衛ましゅう やすべえが例の像を『蛇轟様』として崇めだしてね、『蛇轟秘密教団』なるものを設立してしまったんだよ。そりゃあまあ、崇めてしまう気持ちも解らないわけではないよ。なんたって蛇轟の像を拾ったその日から、突然として金鉱脈が現れたんだから。しかも、無尽蔵のときた。そして、教団が蛇轟の為にし始めた事があるんだが、それが何だか解るか?」

「生贄……? まさかーー」

「その通り、生贄だ」

「嗚呼…………」

「なんだね、海原君? そこまで頭を抱えるほどにショッキングだったか?―――最初のうちは若い男と若い女のペアーで捧げていたのだが、なんだか蛇轟の具合が悪かったらしくてな、どうもスッキリと我等を受け入れてくれないと目にうつったんだろう、教団の創始者である摩周安兵衛は悩んでいたそうだよ。それから数年ほど経ったある日、教団の幹部を務めている鰐蝶之助わに ちょうのすけという人が虹色に輝く鱗を持った娘を発見して、陰洲鱒町で通称“虹の鱗の娘”を安兵衛に知らせたそうだ。その娘がどこの誰だったかというと、安兵衛の姪っ子の摩周虹子ましゅう にじこだったというから、これはかなりな衝撃だったと思われるね。―――彼は悩みぬいた末に、姪っ子の虹子を蛇轟へと捧げることに腹を決めて、夏の終わりに実行したそうだ。するとどうしたわけか、その成果があったらしくてね、これまで以上に蛇轟との関係が円滑になったそうだ。この事をきっかけにしてからは、教団は夏と冬との終わりに“虹の鱗の娘”を生贄として捧げるようになったんだ。――――大して人口密度が高くもない町で、こうした儀式を続けていればどうなるか分かるよな。逆傘現象が起こるんだ。あとは、海原君の予想のつく通り、町には多数の高齢者が残り若い男女は激減していくと、必然的にさびれてくるんだよ。―――もうひとつ若い人口が減っていったケースがあってだな、付き合っていたり結婚を約束していたりしていた若い男女のペアーのうち、“鱗の娘”がいた場合、彼等が儀式から逃れる為にとった行動は、駆け落ち、逃亡。こうしたことだ。心中がひとつも無かったというのは、けっこうポジティブだったわけだ。まあ、今あげていった過程を経て、島の人口つまりは陰洲鱒町の住人の数が減っていった結果となるんだ。―――ここまで聞いていて、なにか質問はあるか? 海原君」

「はい、教授」

 海原摩魚、挙手。

「なんだ?」

「あのーー、駆け落ちだの逃亡だのを促すって、やっぱりめちゃくちゃ怪しいのではありませんか。その蛇轟ダゴン秘密教団って……」

「怪しいに決まっているさ。島の見張り、教団の信者たちにその行動が見つかった場合なんかは、すぐさま捕らえられて拷問にかけられてしまうらしいからな。“鱗の娘”も男と同じ目に遭ったらしい。ただしこれは“虹の鱗の娘”がいた場合に限ってだ。その時期にいないとわかると、代理として“鱗の娘”が蛇轟へと捧げられたそうだ。―――ここで蛇轟へ捧げる生贄の基本を言っておくとだな、“鱗の娘”となる。中でも“虹の鱗の娘”に近い候補だったのが、白金プラチナ色の鱗だそうだ。まあ、そういうことだ。そのような特殊な娘さんたちは陰洲鱒町以外にいないし、その上年々減っているときたものだ。そうしたらどうなると思う? 普通は生贄をなにかで代用して儀式の継続をするんだが、この教団だけは違ったんだ。どう違ったかと言うとだな。日本各所に散った陰洲鱒町出身者を探しに出た事だ。そこで“鱗の娘”が見つかれば即帰郷させて、長期間に渡って町の空気に馴染ませるんだよ。なにせ相手は熱心な教団信者だ、返事ひとつで我が娘を差し出すに決まっている。私の“つて”から聞いた話しじゃな、信者のある家族の家にまで蛇轟を崇めている祭壇があったというらしいからな。信仰も徹底している」



 2


「まさかとは思っているはずだが、海原君の予想する通りに我が子にも物心ついたときから蛇轟秘密教団の教えを徹底的に入れ込むんだよ。―――ここまで聞いて、陰洲鱒町がだいたいどういったところかが分かっただろう」

「ええ。それとあの、教授。その町に行けるは、どういう経路を使えばよろしいのですか」

「ん? そりゃ君、島にはフェリーがつきものだろ。陰洲鱒町から長崎行き及び帰りの船が出るのはだなー、明朝と夕刻との二便のみだ。ああ、そうそう、実は長崎と陰洲鱒町とは大昔から馴染み深いんだ。明朝に漁をした新鮮な魚介類を競市に持って行って売りさばく。あとは、デパートの地下に並ぶ魚の切り身や、すり身、蒲鉾に一夜干し、カラスミなどひと通り町の工場で製造して出荷しているというくらいに、未だに意外にも島の経済面では安定しているんだ。漁業組合に陰洲鱒町は所属しているから、とれたての魚は常に新鮮で、それらの加工品は安心安全。それに、今まで業者からの駄目出しは一度も食らった事がないそうだ。まあ、宗教が無ければ実に良い町良い島なんだが……。―――そういえば、ひとつ大事なことというか、その町の住民に昔ながらの特徴がある。これは陰洲鱒町の基本と言ってもいい。ここから先は実際に私が証言をいただいた事だ。―――大波止にあるだろう、フェリー乗り場が。あそこの売店で働く従業員の二人から聞いた話し。製品出荷の際に、住民はいつもそこの売店に立ち寄ってくれるらしくてな、馴染みのお客さんだという。そうする度に見られる住民たちのある特徴が、まず鼻が無い、瞼が見当たらないから“まばたき”をしない、首には鰓のようなひだか皺の大きなたるみ、そして酷いときは、歩く毎に片方をガックンガックンと落としながら片足を引きずっていくそうだよ。陰洲鱒町の住民たちには悪いが、あんまり間近では見たくない顔だと売店のオバチャンとお姉さんたちはそう言っていたな。あと、なんとも言い難い生臭さが鼻を突くらしいぞ。それらの特徴を含めて、住民たちと関わっている人たちはこう呼ぶんだ。陰洲鱒面いんすますつらとな。―――そこで、またひとつあげるとだな。この陰洲鱒面になるには、やっぱり年を経てからで。早い時は二十代前半。遅い時は三十代から。まあ、十代半ば過ぎて“水掻き”を生やす住民も居るらしいからね」

 その最後の水掻きの件を聞いた時に、摩魚は一瞬だけ虚空に目線をやって思い出していた。

 ―確かー、私が高二のときにすでに亜沙里の手に小さな膜が張っていたよね。今、どうしているのかなぁー、あの子。やっぱり、未だに海淵君と一緒なのかしら?―――勉強中毒者の私を遠ざけることなく構わずになついてきた子だったからなーー。オマケに、すんごい可愛かったし。―――そういえば“あの出来事”以来、私が亜沙里を遠ざけるようになったんだっけ。あの子に悪いことしたよね。今考えるとあれは、ただたんに、十代特有の若い過ち程度なのにね。私もまだまだガキだったんだなぁ……。――

 と、なんだか微笑ましくなってきたらしく。

「なにをニヤニヤしているんだ」

「え?」

 有馬教授からの指摘に、女は驚いて顔を向けた。

「いやあーー。十代の頃の酸っぱい思い出に浸っていただけですよ、教授」

 後ろ頭を掻く。

 これくらいで怒る有馬教授ではない。

「君はまだ酸っぱい思い出に浸る年齢でもないだろうが。……いや、勉強のし過ぎで精神的には老けたのか?」

「…………」

 ちょっとショック。

「海原君、そう落ち込むな。それにまだ、君には話さなければならないことがある。―――ここからが私が専門とするところに入るのだが。陰洲鱒町には古くから伝わる『深き民』と呼ばれている、その町の祖先がいるそうだ。信仰深い住民たちは、あの陰洲鱒町面という変化に、我々は蛇轟に近づいていると信じ込んでいるからな。恐れよりも異常な喜びが大きい。―――これは私が実際に陰洲鱒の血を引く人から聞いた話しんだが、その人の祖父が二十代前半で変化が始まったときに、大いに喜んだらしい。すると、その男は待ちきれず早々と海に飛び込んでいった。そして海から帰って来たころには、すっかり魚のような姿をしていたそうだよ。だが、言葉は話せるらしくてな、その人の祖父が語るには、自分が見てきた海の底で父なる蛇轟の影を見ただけでなく、その上に三代前の我が爺さんと会って話してきたそうだ。これが本当に本当だとしたら、年をとっても未だ海に還らずに漁業を続けている人がいるのかもしれないなぁ」



 3


「あとは、そうだなーー。陰洲鱒町は、漁業や生鮮食品の製造業の他に、ここ数年新しいこと始めたらしいんだよ」

「どんなですか?」

「あそこには無尽蔵の金鉱脈があると言っただろ。その純度の高い金を利用して、いろんな業者に商品の開発費として投資してだな、こういう物を売って新たな収入源にしているそうだよ」

 そう言いながら、有馬教授は身を屈めて机の引き出しからなにやらいろいろな物を取り出していき、机に並べて摩魚に見せた。

「その名も『だごん様』」

 言ってしまえば、キャラクター商品のシリーズである。

 スマホと携帯電話のストラップに始まり、面子にトランプ、双六すごろくにボードゲーム、パズル、タペストリー、湯煎餅、饅頭に飴菓子、指人形、ヴィネット、手拭い、タオルにハンケチ、フィギュア、ぬいぐるみ、筆箱に消しゴム、耳掻きに孫の手、ブロマイドが五枚ほど、などなど……。他にもまだまだありそうではあるが、有馬教授は集めても切りがないと判断しているようで、これ以上のグッズは所有していない。


「ぶっっ!!」


 摩魚が噴き出した。

 予想だにしなかったグッズの多さと、その種類の豊富さに。ただし、噴く瞬間に口元を手で隠していたという品の良さ。それはいいとして、摩魚はなんとか笑いを堪えつつ、それらのグッズを手にしてマジマジと見ていた。

「これは……」

 漏れる感嘆。

 それらに半分呆れて半分感心した女が、溜め息混じりに言葉を吐いていく。

「商魂、逞しいですね」―うわぁー。バージョン違い、色違いまである……。――

「だろ」

 相槌を打つ教授。

 そうして、摩魚がなんとなく手にした五枚のブロマイドに目を通していった中で、うち一枚に動きを止めて、思わず声をあげてしまった。

「ひ、曾お婆ちゃん!?」

「なんだと? その中に海原君の曾祖母がいたのか」

 有馬教授が珍しく驚きを見せたのちに、座り直して呟く。

「そのブロマイドはな、例の“虹の鱗の娘”たちなんだ。しかも決まったように飛びきりの別嬪べっぴんさんぞろいときているのも、その娘さんたちの特徴だ」

「え……?」

 摩魚が有馬教授の言葉を受けてちょっと冷静になってみて、改めて五枚のブロマイドへとよく目を通していくと、再び衝撃に声をあげた。

「こ、これは……!!」

 先ほどまでは我が曾祖母に気を取らて全体を見ていなかったが、今気づいたそのときに、写真の娘たちのレベルの高さに感嘆してしまう。

 それぞれの写真には、まさに容姿端麗と言える女や、少しばかり日本人離れした魅力を持つ女に、純日本といた清楚な女。そしてその中でも、摩魚が我が曾祖母と呼んだ一枚は、そう言われてみればこの女とそっくりである。唯一の相違点をあげるとするならば、摩魚の瞳よりも僅かに細いといった点か。そこ以外は、実に瓜二つと呼べるはずであろう。

「間違いありません。この女の人は、私の曾祖母です」

 この震えを含んだ声が意味するものはなにか? やがてそれは、ブロマイドを持つ手元にも顕れてきた。摩魚は、身体の芯から湧き上がってくるこの不可解な震えとは何であろうか。恐怖か怯えか喜びか。もはや誰の目から見ても分からず。ただし、摩魚だけは全てを直感的に悟っていたらしくて、自身で上手く説明はできないものの、先ほどから表れてくるこの感情を抑えきれないでいた。そして、我が曾祖母のブロマイドを持ちながら、己の肩をゆっくりと撫で下ろしていき、囁くように呟いた。

「……私、曾お婆ちゃんと一緒なんだね……」

 しばらくその様子を黙って見つめていた有馬教授が、なんだか安堵した感じで口を開く。

「なるほどな……。あとはもう、説明する必要がないらしい」

「ち、ちょっと待ってください教授! 私はまだまだ知らなければならない事がいろいろとあるんですよっ!!」

「なんだね? 君はその曾祖母のブロマイドを見て、全てを理解したのではなかったのかね」

 有馬教授が少しムッときた。

 珍しく焦る摩魚。

 身を乗り出して声を投げつけた。

「んなことがありますか! とんでもない事実を突き付けられて、私は混乱しているんですよ!! はいそうですね、ありがとうございました。ーーーっつって引き下がれるものですか!!」

「おおぉーーっとぉ……」

「おおぉーーっとぉ、じゃない! なんで教授が引く必要があるんですか!?」

 両手の平を顔の位置まで上げて驚いている有馬教授に、摩魚が力強く指をさして突っ込んだ。


 仕切り直して。

「で。海原君はその他になにを知りたいのかね?」

「はい。教授、陰洲鱒町はそのあとどうなっていったのですか?」

「そうだな……。ここ数十年はずっと、細々と地味に町を維持していると風の便りに聞いたな。あとは、金の採掘には最新機械を導入したおかげで、必然的に人件費削減になったとも聞いたぞ。まあ、元から人口はそれ程まで多くはなかったからなー、丁度良かったんじゃないのか」

 陰洲鱒町にもハイテク化という新たなる波が押し寄せてきたのね、と、教授の話しに頷きながら、摩魚はそう考えていた。ここで“ふと”思ったので、女は挙手をしたのちに有馬教授へと聞いて出る。

「そういえば教授」

「今度はなんだね」

「例の、蛇轟像を見せていただきたいと思いまして」

「ああー。あれは流石に無理だったな」

「そうですよね」

「まあまあ、そう肩を落とすな。変わりにだな、私が美術館に行った際に館内で蛇轟像の四面写真が展示してあってな、それをスケッチさせていただいたんだよ。今日は手元にあるから、こっちの方を君に見てもらいたい。―――コイツが『蛇轟様』とやらだ」

 そう言いつつ、おもむろに取り出したスケッチブックを開いて摩魚へと見せたそれに、女は思わず顔を赤くして叫んでいた。ただし、口元は指先で隠して。

「え! やだ! おチンチン!?」

 いいえ、蛇轟像です。

「いきなりなにを言っておるのだ、君は! これは正面図だよ」

 摩魚の容姿から出た思いがけない言葉に、有馬教授が力強く突っ込みを入れる。

「これは蛇轟が天空を仰いでいる姿をした像なんだよ! それを君、おチンチンとは! もうそんな風にしか見れないではないか!!」

「すすすすっ、すみません!!」

 顔から火を噴いた摩魚が頭を下げる。下げた拍子に教授の机へと額をヘッドバッド。「くっは!」と、視界にプラズマがチカチカと弾けるのが視えた。置いている小物が少し浮いて着地。

「なにをやっておるんだ。君は」

「も、申し訳ございません」



 摩魚が先ほどそう口走ったのも無理はない。筋骨隆々な躰で仰け反り、魚の頭で天を仰ぐその像の姿は男の物を連想させるのに充分だった。いったい何処が充分だったのかというと、鰓にあたる部分からくびにかけて繋がる正面図である。

 まあ、見方によっては、そう見れないこともない。



 気を取り直して。

「でだな、こっちがチ…………蛇轟像の右側と左側で、そしてこちらが後ろ向きになる」

「なんか、凄い反り具合ですよね……」

「見事な反り具合だろーー」

 有馬教授の広げているスケッチブックを凝視している摩魚。食い入るように見る。そして、スキニーのポケットから携帯電話を取り出すと、撮影機能に設定をして構えた。

「教授。念の為、そのチ…………蛇轟像のスケッチを撮らせていただけませんか?」

「もう、構えているではないか。オッケーだぞ」

 気前が良い。

 そうして、蛇轟像のスケッチを四面撮り終えた摩魚が再びポケットへと収めていたさいちゅう。

「海原君。私が話せることはここまでだ。問題の摩周船長については、どうも壁に塞がれて調査が難しい。核心に触れる情報を与えられずに、申し訳ない」

「いえ、そのようなことはありません。おかげで私の曾祖母が何者かが分かりましたし。私のためにお付き合いいただき、ありがとうございました」



 4


 さあて、用件も済んだし帰ろうかとしていた、その矢先。

「と、言うのは今まで作られた陰洲鱒町の都市伝説的な作り話でな」

「…………は?」

 キャンパスの姫様、顔中に青筋が浮かぶ。

 無理もない。

 怒り任せにこの教授の殴り飛ばしてたって誰も文句は言わないだろう。たちまち眼に血走り、黒い瞳は光りを放ちはじめてきた。これを見た有馬哲司教授は血の気を引いていき、脂汗を吹き出してくる。目の前の若い娘に殺されるのは勘弁してほしい、と。

 ひとつ咳払いして、口を開いた。

「君の気持ちも分からんこともないが、インターネッツによって盛られるだけ盛られて作り上げられた嘘八百による被害はご存知だろう」

「インターネッツ?」

「インターネッツ」

「アイスコーヒーをアイスコーシーと言うタイプですか?」

「なんだね、それは?」

「こっちが聞きたいですよ」

 ムッとした表情を向けた。

「じゃあ、お聞きしますが。陰洲鱒町の本当のことだけを私に教えてください。去年と一昨年だけでも行方不明になったその町の女の子がいるんですよ。洒落や冗談では済まない場合だってあります」

 声も低い。しかし、頬は痙攣けいれんを起こしていなかった。

 これを聞いた有馬教授は、真顔になって無精髭の生えた顎を“ざりざり”と指で撫でたのちに、一枚のパンフレットを出した。摩魚がこれを手に取り、広げて見ていく。

「あ……。陰洲鱒町から市内の往復便が朝昼晩の十回以上ある」

「そうだ。それと、パンフレットの一番上を見てほしい」

螺鈿島らでんじま……?」

「濁らない、螺鈿島らでんしまだ。ちゃんとした立派な名前が昔からあるんだよ。本物の情報は、ちゃんと観光案内の検索をするか、一番いいのは長崎市に来ればこうして手に入るんだ。みんな、掲示板やテレビの御用学者に、これらを無責任に面白がって糞味噌くそみそにネタを拡散してきたメディアに踊らされすぎなんだ。それにだいたい、蛇轟秘密教団なんてものは七〇年代のオカルトブームに便乗して、不届きな連中が町に勝手に立ち上げたカルト集団にしかすぎない。地元の土着信仰なんぞそっちのけどころか、知ろうともせんだろ? そもそも陰洲鱒町にはね、その島の名前にあるように荒神の螺鈿様らでんさまという龍みたいな魚みたいな怪獣を山の神社でまつっているんだ」

「螺鈿様? まさか、全体が虹色の鱗ですか?」

「そう。君の見た夢に出てきた虹色の怪獣とそっくりだ」

「あ。じゃあ、島にきた蛇轟ダゴンって」

「文字通り島を荒らしにきたんじゃないのか?」

「神様どうしの喧嘩に、人間というか町の人たちが巻き込まれたとでも言うんですか?」

 姫様、歯を剥いた。

 有馬哲司の縁なし眼鏡のレンズが日に当たり白くなる。

「どうせ、そのあたりだろうな」

 教授も歯を剥いた。

 部屋に沈黙が続く。

 摩魚まなが空気を破る。

「教授、要点だけお願いします」

「要点?」

「さっきまで話してきたのが一方的に作られた陰洲鱒のことなら、本当のことの陰洲鱒のことを要点だけでも私に教えてください」

「いいだろう」

 縁なし眼鏡を指で正した。

「島の名前と島からのフェリーについては、そのパンフレットにある通りだ。陰洲鱒町の住民に関してだが、先祖代々から深き民と交配してきた結果というのは本当だ。なにせ、ダゴンに奉仕する海の種族だからな。黄金の蛇轟像とともによこしてきたんだろう。しかしだな海原くん、深き民とは別に、本流は陰洲鱒町の神社にある文献を見れば起源は不明であるが、土着の神である荒神螺鈿様が漁村の住民の男と交配したことから始まっているんだ」

 これに、やや吊り上がった切れ長な目を見開いて驚く摩魚。

「は? え? その荒神って、雌?」

「文献では、どちらにでもなれると記されていた」

「はーーー。なんつーーー」

 感心して言葉にならない。

「まあその荒神とご先祖が交配して、その血というか力を受け継いできたのが虹色の鱗の娘たちなんだよ。中には、出生が不明な女の人たちもいるが。ーーーそういうこともあってだな、陰洲鱒町には二つの流れを持っている住民たちなんだよ。そして、町の人たちは筋力と瞬発力が私たち常人の数倍も持っているんだ」

「凄いですね。じゃあ、漫画研究部のホタルさんは怪力なんですか?」

「それは分からん。陰洲鱒の人たちって力に関してはあまりみずから自慢することしないからなあ。かなり手加減して生活しているんだぞ、町の人たち」

「なんか、争いごとが嫌いな人たちなんですね」

「確かに、そうだ。私の嫁さんも」

「…………? なんですか?」

「あ、いや、こっちのことだ」

「その虹色の鱗の娘たちについてなんですが」

「そうそう。彼女たちはね、螺鈿の巫女と呼ばれていて螺鈿様を呼び出すことができる人たちなんだよ。パンフレットの写真にもあるように、島で一番大きい山の先端が欠けているかのようにも見えるだろ? 大昔、螺鈿の巫女たちが荒神を呼んで不届きな連中を尻尾で山ごと叩き飛ばしたそうだ。それ以降その山は尾叩き山と呼ばれていてだな、今では観光の名所になっている」

「この山がねえ。はえー、スッゴい」

 パンフレットの島の写真を凝視していく。

「あと、生贄なんだが」

「そうそう。そこそこ!」

 パンフレット片手に、有馬哲司を指さした。

 教授、動揺する。

「教団がおこなっていた虹色の鱗の娘たちをダゴンに捧げると称して、生贄にしていたことは本当だ」

「あ……? え?」

 姫様、再び顔に青筋が浮かぶ。

「連中に怒る気持ちは分かる。だが、聞いてくれ。ーーーそのカルト教団のおかげでね、虹色の鱗が尊いものから呪いのものに印象が変わってしまったんだよ。町長の摩周安兵衛だけでなく町民たちにも実に迷惑な話だ。それから、摩周安兵衛の姪の摩周虹子が生贄にされたこと、これも事実でね。しかしね、こんな目にあっても摩周安兵衛は町の女の人たちに鱗が出ても隠すことではないと言って、鱗を持つ娘たちの気持ちを優先させてきたんだよ」

「あー。確かに、鱗は気持ちしだいで現れてきますね」

「そう。だが、不快に思ったときは決して現れないし、消え失せる」

 これを聞いて、摩魚はトイレでの一件を思い出していた。

「それと、明確な意志を持って力を使うことを決めたときに、瞳が虹色に光って身体中に虹色の鱗が現れるんだ」

「それ、めったに見れなさそうですよね」

「確かに、しょっちゅう見れるものではないな」

「つがいでの生贄というのは、これも事実なんですか?」

「“つがい”は本当だ。ただし、雄雌の」

「教団とは関係なさそうですね」

 なんとなく元ネタが分かって、摩魚は微笑んだ。

 有馬教授は嬉しそうに語る。

「陰洲鱒町ではな、大昔から螺鈿様に海の豊かと山の豊かを願うために『虹色の大魚たいぎょ』といった鱒か鮭かの変異個体を年二回釣って奉納していたそうなんだが、いつの間にかその大魚の個体数も減ってきていてだな、釣って奉納するのも年に一度で雄のみと形式を変更したんだよ。それは今現在も続けている。その虹色の大魚の味なんだが、ひと言で言うとうまい!」

「へえ、美味しいんですか。どんな魚の味がするんです? やっぱり鱒か鮭ですか?」

「強いて言えば、そっち。だがしかし、似てはいるが全くの別物でもあるんだよ。まあでも、旨いからどうでもいいところかな、私には。あとだな、その大魚の肉の断面がキメの細かい綺麗な白身でな、脂がたっぷり乗っていて虹色に輝いているんだ。けれども、誰でも食べることができるわけじゃないんだぞ」

「関係者のみだけなんですか?」

「いいや。早い者勝ちだ」

「はあ?」

「奉納は二日間おこなわれて、大魚はそのあとさばかれる。それからは、山の神社に来たもの順にその白身魚の切り身を配るんだ。まあ、早い者勝ちにはかわりない」

 ちょっと嬉しそうに回想しているようにも伺えたため、摩魚は有馬教授に聞いてみた。

「あのー。ひょっとして、食べたことあります?」

「ある」

 断言。

「あるんですね」

 笑顔になる。

 腕を組んで、有馬教授は微笑んだ。

「君も町に行く機会ができたら、虹色の大魚を食べてみるといい。あれは忘れられない旨い魚だ。変異個体が絶滅することなく繁殖し続けているというのも、町の努力だろう。実に嬉しいことだよ」

「本当に嬉しそうですね」

「ああ。私の嫁さんもあの魚は好きだったからな。会ったらまた一緒に食べたいと思っているよ」

「あらあら、おやまあ。意外と一途なんですね」ー教授が既婚者だったことが意外すぎたんだけど!ーー

「意外ととはなんだ。意外ととは」

「意外なものは意外ですよ」

「譲らんなあ」

「そうですね。なんか、似ていますね」

 唐突に出てきた摩魚のひと言に、有馬教授が目を見開く。

「まさか、気づいていたのか?」

「なにが、ですか?」

「あ、いや、こっちのことだ」

 安堵はしたが、悲しくもなる。

 そんな有馬教授を見ているうちに、なんだか微笑ましくなった摩魚まなは、ちょっとだけ話題を横道にれてみた。

「教授の奥さんって、どんな方なんですか?」

「む?ーーーそうだな。“漫画オタク”とだけ言っておこう」

「同人作家なんですか?」

「それも描いていて、コミックマーケットの常連さんだよ」

 陰洲鱒町の本当の情報と嫁さんを語るときは、笑顔を見せっぱなしの有馬哲司教授。海原摩魚が、嫌悪感のわかない不快にならない数少ない男たちのひとりであった。しかも、この無精髭面の茶色の三つ揃い中年男に親近感も感じていたりした。まるで他人の気がしない。そして、漫画なら私も読んでいる。歴史の研究に身を捧げているほどの勉強の虫の私でさえ、ハマっている漫画家がいて、単行本は現在の最新刊までそろえているほどだ。正直に一般向けとは言えない漫画で、性的描写がメインの女どうしの色恋沙汰の物語なのだが私は好きで読み買い続けている。過去に妹の“みなも”から作家の名前を知りたがられたことがあって、根負けして教えてみたら、可愛く赤面してしまったの。その作家のペンネームの意味を妹から教えてもらったとき、私まで赤面してしまったのは良い思い出だ。

 私の好きな漫画家のペンネームが知りたいの?

『おめしゃんGUYガイ』って言うんだよ。

 噂じゃ、女性が描いているらしいけど。

 あと、大事なことも確かめておかないと。

「ええと、駆け落ちの件と摩周安兵衛が教祖かどうか」

「え? か、駆け落ち……?」

 少しばかり頬が赤くなったか。

 椅子の向きを横に変えて摩魚から目線を外すかたちになり、無精髭の顎に軽く握った拳の人差し指をやってなにやら考え込み出した。数秒間の静寂な時が流れるあいだ、部屋の掛け時計の時を刻む音が唯一のBGMとなっていた。それから、決意をしたのか、クルッと椅子を回して再び摩魚と向き合う。

「駆け落ちは本当にあった。今から二三年前に。ちょうど海原くんが生まれたときだ。今のところ、唯一成功した駆け落ちなんだよ。ただし、生贄の虹色の鱗の娘と夫になる男だけではできなかった。島にいる百年近く生きている強くて美しい女の人たちの協力があって成功したんだ。このような素晴らしく素敵な人たちについては、誰も語ろうとも誰も取材しようとも誰も記録しようともいっさいしていないんだよ」

「良いですね。人のために自身を投げ出して活躍した陰洲鱒の人たちが知れて、良かったです。私も、一度でいいからそんな素敵な陰洲鱒の女の人たちに会ってみたいですね」

「もう会っているだろ?」

「はい?」

「一昨年に失踪したという扱いになっている、君と同学年の海淵真海君の母親だ。あとは、今いるのは二学年下の摩周ホタル君の姉だな」

「あら。やだ、うそ?」

 海淵家の母親も見たことあるぞ。

 高校生のときと大学のときと。

 高校のときは授業参観などの行事で。

 一昨年は大学の文化祭のときにきていたんだっけ。

 綺麗で艶っぽくて、私が見上げるほどの背の高い美しい人。

 真海ちゃんと同じ赤い瞳をしていたなあ。

 ホタルちゃんのお姉さんも見たことある。

 ときどき大学に彼女の送迎で来ていたよね。

 私より背の高い、艶っぽくて綺麗で美しい人だったなあ。

 あとは、全て鈍色に尖った歯がチャーミングだった。

「会ったことがありますけど、どちらも素敵な人たちですよね。でも、それについて語るということはしませんでした」

「自慢したがりではないからな。そして、ペラペラ喋ったら喋ったで、駆け落ちした人の居場所を知られてしまうからではないかと私は思っている」

「それもあるでしょうね。ーーーそれとあの、町長が教祖なのかどうかよろしくお願いします」

 もうひとつの質問に、有馬教授は椅子に背をあずけて語り出した。

「安兵衛さんは教団に勝手に登録されて勝手に教祖として名前を載せられているんだよ」

「はああ?」

 吊り上がった目とマット系のレッドを引いた唇を大きく開いた。

「そして、彼の妻の摩周ホオズキさんも勝手に教祖第一夫人にされているんだ」

「なななな、なんすかそれ!」

「な? 酷いことするだろ?ーーーだいいち、彼は今の嫁さんと連れ添って長いんだ。今までにも結婚してきたが、だいたいが前の嫁さんたちに先立たれてしまってな。現在のホオズキさんは丈夫な人だったおかげで、三人の娘に恵まれているんだよ」

「あ、あら……。町長さんも一途なんですね」

「まあ、陰洲鱒の町民は大病や大怪我などの致命傷にならない限りは、極度に老化することもないから必然的に長く生きられる。だから、好きなだけ仲良くいられるんだ。ちなみに、長女が生まれたのは百年以上前だけど、次女と末娘はここ二〇年前後という“最近”なんだよ」

「素敵ですよね」

 本当にそう心から微笑んだ。

 有馬教授も微笑み返して、眼鏡を指でただしたのちに言葉を続ける。

「その摩周安兵衛さんが二百年以上前に浜で拾ったという蛇轟ダゴン像は、本当だ。当初は島に金鉱脈をもたらしたとして、めでたい物として山の神社に奉納してまつっていたんだが」

「螺鈿様と仲良く祀られなかったんですか?」

「島に勝手に住み着き出した人魚から盗まれたんだ」

「人魚? 人魚って、そんな悪いことするんです?」ー高校生のときによく海水浴で保護者代理で連れて行ってくれていた、福ちゃんも人魚だったんだけど。彼女とは、また違うのかな?ーー

「人魚に限らず悪いことする奴もいる。しかし、像を盗んで教団を立ち上げたこの老婆の人魚に限っては別格でな。部下の人魚や信者たちを使って弱味を握って押さえたり、制裁をくわえたり、洗脳した鱗の娘たちを信者と人魚たちの“なぐさみもの”いわゆる性処理係にさせたり、実質、その老婆の人魚が教団と町を支配しているんだ」

「なんて酷いことを」

 青筋が浮かぶ。

「あとな、教団以外にも気をつけておいた方がいい人たちもいてな。観光客や営業などの訪問などとは全く別物で町の外からフラフラとやってくる不届きな連中がいてね。首から十字架のネックレスを下げているのが特徴なんだ」

「それって、キリスト教徒ですか?」

「その系統のカルト宗教の学会員だよ」

「あーー。院里いんり学会ですね」

「なんだ。説明しなくても良さそうな反応だな」

「ええ、まあ。ここの大学内にも“あっちこっち”いますし。私もホタルさんも真海さんも嫌がらせを受けました」

「とんでもない連中だな」

 歯を剥いた。

「その学会員だが、教団と協力して虹色の鱗の娘たちを発見してやり取りしているいわゆる連絡係なんだよ」

「ずいぶん教団と仲が良いんですね」

「信じられないくらいに仲良しなんだ。馬が合うのかな?」

「どーせ、教団から鱗の娘という“おこぼれ”をもらっているんでしょ? 男学会員なら、なおさら“反りが合う”はずですよね」

「あのさ、海原君さ。君という人はさ」

「なんですか? 在校生の学会員たちが陰洲鱒の出身の女たちに性的な嫌がらせをしてくるってのは、そういう可能性もあるでしょう? 私、ミドリさんが“そういう目に”あっていたところを止めに入りましたから」

「え? 止めに入った? 若い男の群れだろ?」

「はい。“止めに入りました”」

 この意味ありげな摩魚の言葉に、有馬教授は沈黙する。

 鼻で溜め息をしたあと、会話を再開していく。

「なるほどな。君は君なりの最善の対策をとったらしいな。だが、今後は海原君に的が集中してしまうことになるんだぞ。それはとても危険なことでもあるんだ」

「それは承知の上です。私はただ、好きな人を守っただけ」

 ほんの一秒から二秒空けて続けた。

「私が必要だと思ったときだけ、鞘から抜けばいいのです」

「ひとつ知りたいのだが。君の“師範”は誰だね?」

「なーいしょ」

 と、笑顔で言ったのちに。

「ただ、“素敵な人”とだけ言っておきます」

「なるほど。分からん」


 本当の話しが聞けたので、今度こそ帰ろうかとしていたとき。

 有馬哲司教授から一枚の新しいパンフレットを渡された。

 微笑みながら話してきた。

「陰洲鱒町の土産物の一覧だ。教団のグッズより遥かにこちらが良い」

「あ! 純米酒」

「海淵真海くんの実家のお酒もある。機会ができたら買ってあげると良い。その子の母親が喜ぶぞ」

「いっぱいあるんだ」

「気になった物はあるかな?」

「……? マスカキ酒……?」

ます ひれ ざけ




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