83.聖女ちゃん救う
「大丈夫。アルフくんもむこうで隠されていたから」
「クレープ……、なんでこんな場所に?」
笑顔でわたしを見るのは、ライトグリーンの髪を三つ編みにした大きめ眼鏡のクレープ。
そのクレープがわたしを引き摺り込んだのは、ダンスホールの下にあった隠し通路らしき場所。
「だってお祖父様はここの学園長だもの〜」
「そんなほんわかエピソードで誤魔化せると思う?」
じっとその目を見るとクレープはクスッと笑って、
「うちの一族は、聖女様を支援し、お守りする為にいるの」
「え?」
「魔の封じられた地に学園を作り、若者の活気と信仰心で魔を蘇らせぬように。それでも魔が溢れ聖女が現れた時には影となりとなり支援する。そんな使命」
驚き目を見開けば、クレープはその手を伸ばしわたしをギュッと抱きしめる。
「子供の頃は言われても影になるって意味がわからなかったけど……こうしてナタリーのお手伝い出来て良かった」
「もしかして同室なのも……」
「うん。入学式早々に魔獣が出たおかげですぐに誰だかわかったからね」
最初からクレープにバレていたことを思い出し、その目を見ればその瞳は嬉しそうに細くなり、
「ナタリーがいい子で良かった。毎日すっごく楽しかったの」
そう言われて……、それはクレープもわたしとは違うことで幼い頃から使命を押し付けられていたのだと知る。
「わたしも……、クレープがいてくれてよかった!」
お互い笑って手を取れば、わたしたちの上を何かの影がよぎり慌ててそちらを向くと、そこには覗き込むつぶらな瞳。
「兄弟!!……じゃ、ないけど兄弟!!」
『ぴっぴよぴ〜』
「わかった!!今すぐ行く!!」
こくりと頷いて勢いよく飛んで地下から抜け出せば、今更ながらにあれだけ弱っていた身体が回復していることに気がつく。
「ねぇナタリー、なんで今のでわかったの?」
『ぴぴぴよぴぴよぴよぴっぴ〜』
「うん、あなたもとっても可愛いね!」
地下から子カロッコウに引っ張り出してもらってるクレープは、会話の噛み合っていないないことに気が付かずに助けれてくれた子カロッコウを抱きしめて嬉しそうにしている。でも気をつけて!その子、捕まえて逃げ出させてくれなくなるよ!とか思うけど、クレープは兄弟に嫌そうにあっさり引き剥がされていた。
「お母さん!!!」
『 こちらに来なさい 』
聖獣と呼ばれるだけあるほど、慈愛に満ちた瞳でこちらを見るその下には……、
「アルフゥゥゥゥ!!!?」
『 隠し暖めておきました 』
「潰しておりますが!!?」
ドヤッと言わんばかりのお母さんに必死で嘆きを伝えればその身を退けてくれたので、そのままアルフの横へと座る。
「アルフ!?」
心なしか顔色は良くなっているが、まだ整わない息と脈が毒が抜けていないことを表していた。
「ど、どうしよう……」
『 大丈夫……あなたの愛しき子の生命力は上げておいたわ。だからもう一度あなたも…… 』
お母さんがそう告げるのは、わたしも先程倒れそうになったところで、お母さんに支えられてから回復したのは、聖獣と呼ばれるだけの力なのだと知る。
そしてお母さんが呼べば、わたしの周りに兄弟達が集まり肩を……いや、羽を組み円陣を組む!
『 いくわよ子供たち!! 』
「 ピヨピヨピーーーーー!!! 」
カロッコウ達が声を合わせた時、わたしの銀髪の髪の毛がフワリと上がるほどに、わたしの力がみるみる回復して、体の内から聖なる力が溢れ出る。
「今なら……出来る気がする!!!!」
カッと目を見開きアルフを見ると、その胸へと手を当てて聖なる力を使い、全身全力でその身を巣食う毒を解き消すことに集中すれば、その瞼がピクリと動く。
まだ少しでも集中を切らすわけにいかないと、聖力を研ぎ澄ましてその身体へと入れていくが動く様子のないその身に、気合いと根性と聖力だけでは足りないのかと、まだ倒れたままのアルフを必死で見つめる。
「アルフ……目、覚まして」
「…………うん」
名前を呼べばその目をゆっくりと開き……、暫く虚空を見つめた後に少し掠れた声をあげる。
「僕を…………助けて……くれたの?」
「アル……!」
「カロッコウ」
ゆっくりと起き上がるその身に抱きつこうかと身を乗り出したが、アルフの視線がわたしではなくカロッコウ母を向いていたことにわたしは思わずそのまま突っ伏してしまった。




