75.聖女ちゃんは爆発したい
「ナタリィィィーー!!」
重なった二つの声は無意識に閉じてた瞳を開かせて……いや、声というより後頭部や背中を擦り切る痛みのせいかと目を開けた。
「ニセイジョちゃん!?」
「ここにきて……ゴホッ……新たな呼び名か……」
マスクの下の瞳は見えないけど、私を庇うように駆け込んでくれたのだろう。
抱きしめたまま呆れたように呟く声と、その背中に回していたわたしの手に着く赤い血を見て見て息が止まる。
「今、癒して……!!」
それはわたしをオオトカゲから守る為に出来た物だと手を当てるが、治そうにも切れかけた魔力と、先程の毒の周りが早くなるとユノの言葉を思い出し、その背中からそっと手を当てることしか出来ない。
「ナタリー………その偽物と共に逃げろ!!あとはこちらで……なんとか……するっっ!!」
「逃げるなナタリー」
オオトカゲの足を何本もの矢で射るイーサックの声と、真逆の偽聖女の声。
「ナタリー。誰になんと言われようとと……ゴフッ……君は聖女だろ?」
「…………なんで……」
咳き込み血を吐きながら、その手をわたしへと伸ばすその姿に、やだやだと首を降る。
「いいから。……ごめん……僕が死ぬのが………君が本当の聖女になる鍵だったんだろ?」
「やだっ、ヤダヤダヤダヤダよっ!!」
「やっぱ……バレてたか……」
困ったように笑うそのマスクの下の紺色の瞳と、力無く項垂れた時白銀のカツラが外れて、その紺色の髪が溢れる。
「ナタリー、幸せになりなよ。君は………君だ。……誰よりも、頑張ってきたの……ゴホッ……知ってる……よ」
「ニャタリー、そいつッ、お前の実家に行った時にもいたやつか!?」
マスクを外してその瞳を見れば、その焦点が合わなくなっていく。
「アルフッッッ!!!」
ボロボロと溢れる涙を拭いてくれることもなく、ゆっくりと閉じていく瞳を止めたくて、その唇を奪う。
「ニャタリー!こんな時に何を…………!?」
こんな時だからこそ、いつかされたキスで偽聖女ちゃんが力がついたことを思い出し、その口内へと舌を入れる。
「アル……フゥ………」
涙が頬を伝いその唇へと入っていけば、アルフの身体から光の様なものが溢れ出し、わたしの身体から出た光と混じり合う。
「ナタリー……!?」
「ニャタリー!?」
「お姉様!?」
口々に呼ばれる名前を無視していれば力無かったその手が伸ばされ胸ぐらを掴まれると、遠慮なしに口内を暴かれる。
「んっ……ん〜〜!?」
思わず真っ赤になって逆にその身体を押しのければ、外れかけたかつらを抑え、しかしスカートが捲れているのも気にせず立膝で座るアルフがコチラを見て笑う。
「ナタリー……ここ五年くらい言わなくなったけど、もしかしなくてもアレ変わってない?」
「言わなくなった?」
女装姿のくせにいつもより妙に異性の色気が出るアルフに、わたしは両頬を抑えたまま聞けば、伸ばされた手に、その指に、唇をそっと撫でられる。
「なななななんだっけ?」
「身を引く必要なかったか……僕みたいなモブでも、こんだけ力が出るんなら」
改めてその手が伸ばされ、わたしの後頭部に回されて引き寄せられて……唇を重ねられる。
「アアアアルフッ!?」
「言ってよ。昔みたいに。馬鹿みたいに。百万回でも二百万回でも」
濃い紺色の瞳に惹き込まれるように、いや吸い込まれないほど逆にわたしは息を吸うと、
「アルフ!!!大好き!!!!世界で一番大好き!!!アルフが居なきゃやだ!!!!大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き!!!アルフのお嫁さんになりたい!!お婿さんでもなんでもいいしずっとずっと……ずっとそばにいたい!!!」
隠してた思いを目一杯だして言えば、改めてわたしとアルフの周りに見たことのない光が溢れ出す。
「……え?」
「何をしている! 動きなさいっっ!! 可愛い私のオオトカゲ達!!!」
ぼんやりとその光を追っていれば、ユノの声で我に帰ったのはわたし達だけでなく、魔獣たちもだったらしい。
『ギユェェェェェェェェ!!!!!』
鳴き声と共にアルフの背からこちらに向かう魔獣に構うことなくアルフは、
「そうだ。言ってなかったね、ナタリー。僕も、君が好きだよ」
「それならもう! わたし、なんでも出来ちゃいそう!!」
馬鹿みたいに単純に、ただただ幸せを感じてしまえば、満ち足りるなんて言葉じゃ足りない程の魔力が身体中から溢れ出し、この場を、学園を、町を、世界を包んでいく。
「馬鹿な……!!そんな単純な!?」
「馬鹿はアナタね!! ユノ!! アナタの爬虫類への愛より、世界中の誰よりも、今、わたしは愛に満たされ……うへ、うへへへへへへへ〜〜」
指差し語ってやろうと思ったが耐えられない程に頬が歪み笑いが溢れる。
「ナタリー、気持ち悪い」
「んぐっ」
アルフの言葉にちょっと顔面の真ん中に寄った顔を直しながら、改めて両手を広げて光の魔力を纏め上げていく。
「三原色トリオ!!出番よ!!!」
「俺たちは兎も角、今そこで静かに凹んでるイーサックは優しくしてやれ!!」
「なんでよ!?」
たしかに魔力の矢と弓まで使い、オオトカゲの足を止めてくれていたらしいが、そんなことを言ってる場合ではないと一蹴して、
「ブルーノはトカゲが逃げないようにこの部屋全体に結界を!! イーサックは小トカゲ、フランツはオオトカゲを切って!!」
「しかしあんな奴どうやって!!?」
広げた両手を縮めながら光の魔力のを圧縮し、散り散りに撒かれた魔素を集めていきながら、力を使い瞳を開けばそのトカゲ達の中心に黒い塊が見える。
「今から魔核を暴いてやるわ!!大丈夫っ!今の聖女ナタリーに出来ないことなんてない気がする!!!」




