65.聖女ちゃん磨かれる
「クレープ!!!わたしを卒業式になんかすっごく強そうに着飾って!!!」
先輩と別れた後に自室の扉を開けて叫べば、そこにはクレープとダリアンが呑気にお茶をしていたところだったらしく同時にわたしへと視線が注がれる。
「え!?ナタリー、もしかして誰かに誘われたの!?それ招待状?!見せて、見せて〜♡うわぁ、イーサック先輩からじゃないの!きゃーー!」
しまった来客中だったと思った時にはダリアンが勢いよくこちらへ来て、あっという間に招待状を取られて見られてしまった。
「あ、いや、その……これには事情があって」
「卒業式の招待の事情なんで1つじゃなぁ〜い♡大丈夫よナタリー、あたしとクレープで誰よりも可愛く、そりゃもうめいっっっぱい可愛〜〜くしてあげるからね!!」
「あ、いや、そのそうじゃなきてね?強く……」
「誰よりも美しく強くね!!そうよね!折角出るんだもん!!負けてられないわよね!!!」
「違……」
ダリアンの勢いに押されながらもなんとか首を振るが、その両頬をガシリと掴まれキラキラのメラメラの瞳を向けられて、
「よぉし!!!でしたら、このダリアン様に任せて頂戴!!!ナタリーは王都のお店詳しくないよね。だからうちのご贔屓のお店繋いであげる!だってこの卒業式前に受け付けてくれる店なんて殆どないからね!任せて!!そうだわ、それなら善は急げね。今から連絡してくるから、ナタリーは心配しないで!!安心して可愛さ磨いといてっっ!クレープご馳走様、またね!!!!」
そう言って嵐の様に出て行ってしまった………。
「……クレープゥ〜……」
「無理よぉ〜。どんな事情であれ、あの勢いのダリアン止められないわ。ふふ、覚悟して卒業式まで磨かれてね」
「違ぁう〜〜」
「違うって思ってるのはナタリーだけかもよぉ?」
そんなことはないという思いと、そして誰にも伝わらない私の決意は笑顔のクレープに運ばれたお茶と共に飲み込んだ。
*****
「……どういうこと?」
「さぁ?」
翌日、休み時間にダリアンにダンスホームに練習に連れて行く、いや……正確には引き摺られて行くわたし見て、アルフがジトっとした瞳を向けてくるが否定する間もなく連れられて、代わりにクレープが笑みを浮かべて返事を返している。
「さぁさぁ!!ナタリーの踏み込みダンス、このダリアン先生が当日までになんとかしてあげるわ!!」
「頼んでないし〜〜」
「遠慮しないの!!友達でしょ!!!」
ズルズルと連れられて行ったダンスホールには既に沢山の先客がいる。
「あら?ナタリーさんじゃありませんの」
「シャルティエ様!!」
中でも1番に声を変えてくれたそのお方に背筋を正せば、その瞳が細く疑う様に変わる。
「そういえば……たまたまお聞きしましたが、あの方が招待状を差し上げるとかなんとか……」
「ごごごごごごご誤解です!!!私は王子に招待状なんて頂いてませんから!!えぇ勿論です!!」
「そう?そうよね。ナタリーさんはいつもわたくしの味方よね?」
「えぇ!当然ですとも!」
王子狙いじゃない私にとって、シャルティエ様に誤解を受けるのは死活問題だとコクコクと大きく頷けば、満足そうに微笑んでくれた。良かった!!恋する乙女は魔獣より怖い!!
「それなら誰ですの?」
適当に濁そうと一瞬悩んだその隙に、何故かダリアンが堂々と胸を張って「イーサック先輩です」と言い放つ。
「「「え!?」」」
響いたのは会場にいた全員の声で、聞き耳を立てられていたのだとビクリとすればシャルティエ様が満面の笑みでわたしの手を掴む。
「いやいやいやいや誤解です。とある事情によりこれはある意味決闘的なやつなんです!!!」
「成る程!!舞踏会とは乙女の戦い。言い得て妙ですわねナタリーさん!」
「違ッ……!!?」
「ならばあの無表情で人のことも気にかけない、無礼千万だけども家柄と実力とあの顔で誰も文句も言えないあのイーサック様に一泡吹かせてやりましょう!」
さり気なく嫌いだったんだろうなっていうシャルティエ様から出た悪口に頷くわけにはいかないと固まれば、何故かそれを意を決した顔にでも取られたのか満足気に頷かれ、
「このシャルティエが責任を持って、ナタリーを当日までに磨き上げて差し上げましてよ!!!」
わたしの「違ぁぁぁう!!!」の叫びとダリアンの「それアタシがやりたかったことなのにぃぃ!!!」の嘆きは、歓声と拍手喝采のダンスホールで誰にも届かずに消えていった。




