64.聖女ちゃん逃げ回る
「仮面が……ズレてる……!??」
わたしが目覚めればそこは森の中の道具小屋で、一度ボンヤリと目覚めた後に勢いよく飛び起きた。
「あのアメンボ魔獣にやられて……、どう…したんだっけ……?」
甘い匂いを嗅いだ後の記憶が曖昧だと手のひらを見れば、なんとなく目に入る袖の……制服もサイズが違う気がする。
ヒュッと息を呑み、自分の身体を回せばなんか油でベトベトとしていることに気がついた。
「何が………」
朧げな記憶の中、自分が協力を仰がなかったことに後悔はしたが、それでも自分の身は守りたかったと最悪の事態を考えて身体を縮こませれば、横にメッセージが書かれた紙が落ちている。
『意識が戻ったなら帰るといいわ 偽聖女』
イーサック先輩が来たような記憶があるのものの、ここへ連れて来てくれたのは偽聖女だったのかとホッと胸を撫で下ろし、改めて見れば服の下は上下ともまだベタベタとするし、きっと風邪でもひかないように制服だけ変えてくれたのだとホッと胸を撫で下ろす。
「しかし、それなら偽聖女ちゃんはわたしの制服を着てったの?それとも別に準備があったのかな?」
気になることは多々あるが小さな窓から見えた空はもう真っ暗で、これは無断外出で寮長に怒られるやつだと、わたしは慌てて小屋を飛び出し、野生の感のそのままに寮があると思われる方向へと走って戻ることにした。
「……あれ?この制服………」
少し大きめだったその制服の小さな綻びが月明かりに照らされた。
*****
そしてその翌日からわたしは逃げた。
「この教室に……ナタリーは……」
そのイーサック先輩の声が聞こえる頃には、気配を察したわたしは教室のロッカーの中へ。
「……すまない……ナタリーは……いるか?」
食堂でクラスメイトが尋ねられた時には、すでにサンドイッチをお弁当にして廊下を走った。
「このあたりで……一年の……ナタリーという子を……」
その声がどこから聞こえれば窓から飛び出し……、正に飛ぶように逃げた。
「やっぱり……この前にイーサック先輩に正体がバレたんだ……!!」
それじゃなきゃこんな必要に追ってくるはずが無いと、今日も学園が終わると同時に女子寮へと走る。
「もう卒業式は明後日なのにずっと準備会サボってごめんなさい……!」
そんな罪悪感に囚われながら、森を抜けて女子寮へと走り込む直前だった。
わたしは横から勢いよくタックルをくらい、肩へ担がれ、そのままどこかへと連れて行かれる。
「おっ、降ろして下さい!」
「……降ろしたら…………逃げるだろう?」
「に、逃げませんよぉ〜?」
「……毎日、毎日、逃げておいて……よく言う……」
「ぴぎゃ……」
やはりバレていたかと口から出た言葉は謎の発声音。
帰ってくるのは呆れたような溜め息だけで、そしてたどり着いた先は寮の裏の東家。
「なななななんですか?わたくしは、ただ寮へと急いで帰って勉強しなきゃなぁ〜っと思ってたんですよ!?先輩はご存知ないかもですが、1.2年生は学年末テストっていう地獄みたいな最終日に1年間ぶっ通しのテストして、春休みの中旬に実家に成績表を届けられるって人でなしの方法を……」
「知っている……去年は、2年だった………」
「そ、そりゃそうでしたわね!ではこれで!!」
自分のオデコをペチンとしてそっと立ちあがろうとすれば、先輩はわたしの座ってる椅子の背へと矢を2本クロスして刺すことで、わたしのお腹を固定して立ち上がれないようにした。
「……ナタリー……今、改めて確信した……。やはりナタリーが聖女……なのか」
「……違いますけど?」
曖昧だったならこれ幸いと、眉尻を下げて誤魔化すように言ってみる。
「違わない」
視線を逸らすいつもと違い、イーサック先輩は珍しくも真っ直ぐとこちらを見て告げる言葉に、わたしは口元を歪める。
「それなら、もしそうだったら?……前に聖女へと言っていたように、無理矢理にでも聖女の力を手に入れますか?」
イベントに使われる四阿で拘束されている状況に、正直血反吐でも吐きたい気分だ。
多分顔色すらも最悪のわたしの前へと先輩が跪き、俯きながら小さく首を振る。
「悪い……ことを、言った」
「しかしあなたの本心でしょう?」
先輩は俯いたままその胸元に手を入れると何かを出して、わたしの膝の上へと置く。
「コレはなんですか?」
「卒業式パーティーの招待状だ……、聖女の正体は、誰にも……言ってない。だから……来てほしい……」
そう言うと背中を向けて去っていく。
「いや、待って、矢」
しかし見れば細くなっていく様子は、時間が立てば消えるのだろうと気がつき……、案の定先輩が見えなくなって少ししたところで消えてなくなる。
「……まだ、誰にも言ってないってことかな。バラされたくないなら来いと? それとも……この卒業式の場でバラすのか……」
膝の招待状を手に取って表面を見れば、
【 ナタリー・フォレスター様 】
そう丁寧に書かれた字に……、卒業式という最終イベントを逃げきれなかったと……、それならば火中の栗になってやろうじゃないかと、奥歯を噛み締め立ち上がり燃える闘魂を携えて、わたしは寮へと向かった。
※ 火中の栗は拾うものであって、なるものではありませんので、読者の皆様は真似しないでくださいね!




