25.聖女ちゃん狙われる
「………ドォッッリャッ!!!」
今宵も白銀になったポニーテールは月明かりに輝きながら、体の動きに合わせて渦を巻くのは回転した身体のせいで、そしてそこから蹴り出される脚によって、跳び追ってきた2.5メートル程度のカミキリムシ型の魔獣は勢いよく地上へと返され地面にめり込む。
音にならない悲鳴を上げ、ただそれによって現れた風圧に押されて、空を舞っていたわたしは近場の木を掴み一度身体を回転させる事で受け流し、改めてその木に着地をすると手を広げ、
「聖ッッ魔法!!!」
両手を広げれば魔力は光の大きな球に成り、手を合わせるに従い魔獣を囲い込み圧縮していく。
パンッッと手を合わせようとした瞬間、その光へと弓矢が飛び込み魔獣は改めて断末魔を上げて……塵となり消えていってしまった。
「………なんですか?せっかく魔を聖に変え、この地に安らぎを齎らすところでしたのに」
隠せない舌打ちが聖女さを打ち消したとは思うが仕方ない。こちらもカツカツの戦いなのだ。せめて邪魔はしないで貰いたいと、暗闇から現れた人物へと視線を向ければ睨むような眼が向けられていた。
「……本当に…お前は聖女…か?」
「認めて頂けないならそれでも結構ですわ。ただ…わたくしはこの地に蔓延る魔が」
「本当に…聖女か?」
くっ!!!イーサックめっ!数日かけて地味に考えてきた決め台詞カブられた!!!言葉数少ないならもう少し待って欲しかった…なんてのはわたしの都合だとグッと堪えて改めて顔を整え言い放つ。
「何故、そう思うのかしら?」
聞けば何故だか驚いた顔をして固まられてしまった。
「いや……他に、聖女……の、ような子だ…と思えた子が…」
結局お・ま・え・も・トウド狙いかーーーーーーー!!!!
縦に回転数を上げた回し蹴りをかましてやろうと思ったが、なんとかコッソリと足を摘んで怒りを分散させる。
何故なら昨日も結果共闘となったものの、どこぞの青いヤツが、
『聖女は2人と生まれるものなのか!?た、例えばだが女性でないことはあるのだろうか!?』
とか抜かしやがりましたからね!!!
今日の魔獣より幾分強くて、あのアオ頭ならぬアホ頭の魔法の力は確かに役には立ちましたが、魔獣より危険なヤツがうちの跡取り息子を狙っている可能性が急上昇中ですよ!!!
「あり得ないわ。聖女はわたくしただ一人。他の民を巻き込むことは許さないわ」
いや、正直知らんけど。多分聖女そんなポンポン生まれないだろうしね!!ゲームシステム的に……セカンドシーズンとかあったら知らないけど、時期は被らない…はず!!!!と、昨日と同じ言葉を繰り返す。
「なら…気は進まんが…協力しろ……」
「お断りだわ」
「そうか…なら…」
思わず困ったことになったと視線を逸らしてしまったのが悪かった。
気がついた時には弓がコチラへと向かっていて、反射的に避けたが脚とスカートを掠めて飛んでいく。
「……チッ」
その小さな音を拾いそちらを見れば、また弓を構えてコチラを見ている。
てゆーかちょっと待て、撃ってきた上に舌打ちしたわよねぇ!!?
思わず拳が握られるが、今関わるのは得策では無いと、木を蹴りその森の中を抜けて逃げの一手に転じる。
万一あの腕前で本当に足を射抜かれれば、回復魔法を使うしにろタイムラグが生じて、その間にまた撃たれたならたまったもんでは無い。
わたしから見たらアホみたいなゲームシステムから、
「痛みに堪えてる姿すら愛おしい…」とか異常性癖出られたらそれこそ正にたまったもんではない!!
何故だか追ってこないその姿にホッとしつつ、遠回りをしてコッソリとまた寮へと入り込んだ。
*****
「ナタリーさん御機嫌よう」
朝、寮を出た所でシャルティエ様にバッタリと会い…いや、待ち伏せをされていたらしく、挨拶をされれば先日の失礼極まりない対応が頭を過ぎる。
「その節は申し訳ありませんでした!」
「気にしないで頂戴」
少しつり目がちだがその紅い瞳は大きくて、こうして微笑めば金髪も相まってそれはそれは美しい。
「シャルティエ様は美人ですね」
当たり前のことを思わず呟けば、微笑んでいた顔は少し驚いてから恥ずかしそうに「有難う」と視線を逸らされる。
「言われ慣れているのかと思いました」
「…言われ慣れてるわ」
「ですよねぇ」
そう言って珍しく取り巻きさん達も居ない2人の登校は、あっという間に過ぎていく。
「学年も違いますしここまでですね。貴重なお時間を有難う御座いました」
特に喋ることもなかったけれど、待っていてくれたようだし、頭を下げてお礼を告げる。今日はクレープも日直で先に出てしまってたから一人登校の予定だったので、緊張はしたが刺々しい雰囲気もないし悪くない時間だったと笑みが溢れる。
「あなたは…よく笑うわね」
「そうですか?ならシャルティエ様ももっと笑ったらいいんですよ!笑顔はレディの武器ですよ」
ニコッと笑えばなんだか変な顔をされてしまった。あまり表情を崩さないように教育されているのだと気が付き、田舎育ちのわたしの意見なんてと慌てて謝れば、シャルティエ様はクスクスと初めて会った時のようにまた笑ってくれた。
「シャルティエ様、笑うと更にすっごく可愛いです。失礼だったらすみません!ではわたしはこれで!!」
昇降口から見える階段の先をアルフが歩いてるが見えて、失礼を承知で改めてお辞儀をしてから靴を履き替えてわたしは階段を目指した。
シャルティエ様が驚いた顔で頬を赤くしている事には気が付かないままに。
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