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骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第八章 崩れ落ちる虚構①

「叔父貴の計画の話なんすけど」


 パイプ椅子に座ったまま、ガラはスマホの相手と会話を続ける。


「開幕前に塵掃除しようと思ってたんすけど、少しややこしいことになりまして」


 ガラは苦笑いを浮かべた。


「まさかの刀歌ちゃんの登場っすよ。それと銀髪の子……確か情報ではエルナちゃんって名前だったっすか? その子もいますね」


「え?」


 不意に自分の名前を出されて、エルナは目を見張った。

 刀歌はもちろん、流石に銀城や圭吾、茉莉も異常な雰囲気を感じていた。


「……ガラ。あんた一体……」


 それはガラの仲間であるはずのカオリもそうだ。

 そもそもスマホが使えているという時点で異常事態なのだ。

 もはや敵も味方も関係なく、困惑と動揺をしていた。

 そんな中、ガラの会話は続く。


「え? いいすか? ここ限定なら? うす。あ、ついでに刀歌ちゃんをGETしてもいいすか? 出来ればエルナちゃんの方も欲しいっすね。桜華ちゃんじゃないのは残念っすけど代わりぐらいには。え? あ、そりゃあもちろん、茉莉ちゃんのGETは当然すよ」


 そこでガラはスマホを持ったまま、茉莉の肢体をまじまじと凝視した。


「残念なことに、どうも男を知っちまった後みたいなんすけど、まあ、コレクションとしては橘花と揃えておきたいんで」


「―――な」


 見知らぬ男から唐突に出された亡き姉の名前に、茉莉は唖然とした。

 が、その時点で険しい表情を浮かべる者たちがいた。

 エルナと刀歌。姿を消して潜んでいるかなたたち。そして圭吾だった。

 エルナたちの方はすでに危険な予感を抱いていた。

 エルナの名前まで知っているという事実。その上、ごく自然に桜華の名前まで出している。この男が桜華の名前を知っていたことは異常だった。少なくとも目の前の男が本当に《イーターズ》のガラという人物であるのならばあり得ないはずだ。


(まさか、こいつ……)


 エルナは強く警戒する。

 刀歌も同様だ。かなたたちも薄々その正体に気づいていた。

 そうしてそれは圭吾も同じことだった。

 彼もまた、その男とは面識があったからだ。


「……まさか」


 ギリと歯を軋ませて、圭吾はガラを睨みつけた。


「お前は――お前は、ジェイ(・・・)なのかッ!」


「おう。ご名答さ」


 ガラは通話を切ってニタリと嗤った。

 茉莉と銀城は目を見開いた。圭吾の仲間たちもざわつき始める。

 当然だった。悪逆極まるジェイの名を知らない者は圭吾の仲間にはいない。

 一方、まだ困惑しているカオリたちに、


「こいつは《覚醒者(ネクスト)》だ! ガラという男に化けているぞ!」


 茉莉と銀城を守りつつ、圭吾がこの場にいる全員に警告した。

 圭吾はすでに両足に機甲脚装(メタルブーツ)を装着していた。少し遅れて、険しい顔の茉莉が装着し、カオリたちもまた間合いを取って武装した。

 圭吾の仲間たちも、テイザーガンをガラに偽装したジェイへと一斉に構えた。

 エルナと刀歌も真剣な表情でジェイを見据えている。

 かなたたちは警戒してまだ潜んだままだ。


「はは、そんな警戒すんなよ」


 パイプ椅子に座ったまま、ジェイは気安い口調で語り始める。

 その声は、すでにガラのモノではなくなっていた。姿はそのままで、声だけがジェイのモノへと変わっていた。


「折角こうして顔見知りばかりが集まってんだ。ちょいと話をしようぜ。なにせ、対話すんのが人間なんだしな」


 そこでエルナと刀歌の方を見やり、ジェイは苦笑を浮かべた。


「まあ、俺が言っても説得力がねえか?」


「……そうだな」刀歌が不快そうに答えた。


「やはり貴様は私たちの知るジェイなのか?」


「おう。もちろんさ。刀歌ちゃん」ジェイはパチンと指を鳴らした。


 すると、体育館のフロアに無数の影が広がっていく。

 そこから這い出てくるのは死者の群れだった。その中には黒い花嫁の姿もある。


「お姉ちゃん!」


 茉莉が叫ぶ。それは茉莉の姉の橘花だった。


「待つんだ! 茉莉!」


 浮き足立って飛び出そうとした茉莉の手を、圭吾が強く掴んだ。

 それから圭吾はジェイを鋭い眼光で睨みつけ、


「……ジェイ。色々と聞きたいことがある。まさか、お前が体格さえも変えるほどの擬態能力を持っていたとはな。それに――」


 圭吾は、ちらりと刀歌たちを見やる。


「……お前、御影さんやフォスターさんと知り合いだったのか?」


「おうよ。まあ、一つずつ答えてやるよ。俺とお前の仲だしな」


 ジェイはクツクツと笑う。


「茉莉ちゃんを自分の女にしたんだろ? そんで橘花は俺の女だ。言ってみれば俺らは兄弟みたいなもんじゃないか」


「……黙れ」圭吾は歯を軋ませた。


「戯言は不要だ。答える気があるのならそれに答えろ」


「……あたしも知りたいね」


 カオリもまた険しい眼差しで問い質す。


「ガラに化けただって? 本物のあいつをどうしたんだい?」


「ん? ああ、あいつか?」


 ジェイはカオリの方を一瞥した。その姿は徐々に変化していた。大きな体は縮小し、入れ墨(タトゥー)は薄れていく。髪は金髪へと変わり、顔立ちは日本人とは違うモノになっていく。

 十秒も経った時には、そこには金髪碧眼の青年の姿があった。


「塵は塵箱行きに決まってんだろ。ちゃんと殺したさ。まあ、便利そうだから、その前にルビィちゃんがコピーはしてたけどさ」


「……そうかい」カオリは感慨もなく呟く。


「案の定、あのクズはロクでもない死に方をしたみたいだね」


 そう告げて、片手を上げた。


「《イーターズ》は今日からあたしのチームだ。いいね。あんたら」


「……うす」「しゃあねえな」「……了解っす」


 少し渋る声もあるが、《イーターズ》の男たちが次々と承諾する。

 ともあれ、今は死体どもを従える《覚醒者》をどうにかしなければならない。

 しかし、ジェイ自身はもうカオリたちに興味がなさそうだった。


「横やりが入ったな。木崎。まずはお前のいう擬態能力なんだが」


 ジェイはそう呟いて、あごを擦った。


「これは能力とか異能じゃねえ。ましてや術式でもねえよ。我霊(エゴス)なら誰でも出来る。ただの化け物への変貌だ。人間を喰らうだけの獣だった頃に身につけた特技だな」


「……はあ?」


 圭吾は眉根を寄せた。茉莉や銀城も同じように怪訝な顔をしている。

 一方、エルナたちは少し驚いた顔をしていた。

 ジェイは説明を続ける。


「俺らは死後、死体か生者に憑りつくんだが、その頃の俺らってマジで三大欲求しか頭になくてな。犯して喰って寝るだけの獣だ。まあ、犯して寝るのはともかく、人の姿のままじゃあ人間を喰うには不便だ。だから化け物に変わんだよ。憑りついた肉体との相性が良ければ、半日もあれば変貌完了だ。獣の百年を経てもその特技は残ってんだよ。憑りついてんのが本当の自分の体じゃなくても生前の姿になれんのはその特技のおかげだ」


「……お前、さっきから何を言っている?」


 圭吾が、ますます眉をひそめて問う。


「戯言を続ける気か? まともに話す気がないのなら――」


「いやいや。まあ聞けよ。今日の俺はガチで真実だけを話してんだぜ」


 ジェイは、パタパタと片手を振った。それから今にも飛び掛かってきそうな顔をしている茉莉の方にも目をやって、


「ごめんな、茉莉ちゃん。木崎。お前らとは長い付き合いだが、俺はずっと嘘をついていたんだよ。実は俺は《覚醒者(ネクスト)》なんかじゃねえんだ。我霊(エゴス)なんだよ」


「はあ? 何を言ってるの? あんたは」


 茉莉が険しい眼差しでジェイを睨みつける。


「エゴス? 何よそれ? 《覚醒者(ネクスト)》と何が違うのよ」


「いや。そもそもそっちの方がデタラメなんだよ。《覚醒者》なんぞどこにもいない。叔父貴のただの造語だ。名前があった方が役を演じやすいからな」


「――ま、待て!」


 その時、刀歌が手を突き出して叫んだ。


「お前、どういうつもりだ! 自分で自分たちの舞台を壊す気か!」


「おう。その通りさ」ジェイはニタリと嗤った。


「もちろん完全に壊す気はねえよ。折角の舞台だしな。けど、この場においてだけは、叔父貴はありのままの俺でいてもいいって許してくれたよ」


 そこでパチンと指を鳴らした。

 直後、ゲラゲラゲラッと死体たちが笑い始めた。橘花もだ。死者たちのその声は朽ちた体育館を揺らすほどに盛大なモノだった。

 圭吾たちやカオリたちは無論、エルナたちもギョッとした。

 そんな中、ジェイは恭しく一礼をし、


「我が名はジェイ。名付き我霊(ネームドエゴス)の一人。《死門(デモンゲート)》のジェイ」


 まるで初めて出会ったかのような眼差しで、圭吾と茉莉を見つめた。

 そして、


「偉大なる天の七座の第陸番。《恒河沙剣刃(ゴウガシャケンジン)餓者髑髏(ガシャドクロ)》の眷属の一人だ。以後、よろしくな。お二人さんよ」


 そう名乗るのであった。









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