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骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第四章 先達者は、若人の明日を願う②

「真意を聞かせてもらえないか。虎先生」


 圭吾は早速本題を切り出した。


「農業が可能な新たな拠点の確保。その重要性は分かるよ。あの場所がすべてにおいて理想的なのも。しかし、強奪となると戦力不足なのは明らかだ」


 問題点を口にする。


「あの規模の街だ。下手をすれば俺たちの数倍以上の戦力だって考えられるぞ」


「……まあ、座れや。圭吾」


 銀城は紫煙を吹かせつつ、空いたパイプ椅子を差し出した。

 圭吾は椅子を受け取ると、銀城の正面に腰を下ろした。


「お前さんの言うことはもっともだ」銀城は語る。


「俺たちはどうしても個の実力で劣るからな。完全化(・・・)できるお前さんや茉莉ならタイマンでも勝てるかもしんねえが、他の奴らには相当に厳しいだろう」


 一拍おいて、煙を吹かせた。


「昔から城を落とすには攻め入る方が遥かに戦力で上回らねえと話になんねえからな」


「それが分かっているのなら尚更だ」


 圭吾は眉をしかめた。


「個の実力でも数でも劣っているんだ。戦力がまるで足りないぞ。これじゃあ玉砕しろと言っているようなもんだ」


「流石にそんなことは言わねえよ」


 銀城は苦笑を浮かべた。煙草を灰皿に押し付けて、


「勝算はねえこともねえ。まず相手の戦力だが、あの規模の街だ。絶対数の少ねえ《覚醒者》どもだけで運用できるとは思えねえ。そのため用の一般人が多くいるはずだ」


「……街を運用するために一般人を奴隷として扱っているということか?」


 不快そうに圭吾が呟く。銀城は頷いた。


「可能性としてはな。《覚醒者》どもはあの街の支配者層ってことだ。だから、奴らの数がそこまでいるとは思えねえ。ただ奴隷ってのも特殊だよな。なにせ、あいつらは問答無用で俺らを虐殺する殺人鬼どもだ。この星に選ばれたって自称する《覚醒者》さまらしくねえ。案外トップが変わり種なのかもしんねえな。もしかしたら交渉できるかも知んねえぞ」


「……奴らと交渉か」圭吾は渋面を浮かべた。


「それはあまり想像できないな。それを試みて一体どれだけの人が殺されたか」


「まあ、これはあくまで希望的観測だ。現実的な話をすんぞ」


 銀城は話を続ける。


「戦力不足については確かにうちだけじゃ無理だ。だから連合を組むんだよ」


「連合? まさか他のチームとか?」


 圭吾は少し驚いた顔をする。


「確かに付近には無数のチームがある。最大勢力が《イーターズ》なのは最悪だが、あいつら以外を纏めあげられるのなら戦力的には――」


「そうさ。それがお前さんに課す四つの仕事(ミッション)の一つなんだよ」


 銀城は指を四本立てると、その内の一本を折った。


「そいつら相手にこそお前さんの交渉力を見せてくれや。そんで二つ目」


 二本目の指を折りつつ、銀城は少し心配げな様子で双眸を細めた。


「俺の孫娘を探して保護してくれ。写真は前に見せたよな?」


「ああ。崩壊当時は十四歳だった女の子だよな。今は十六歳の女の子として似た子を探すようにしているよ。虎先生は恩人だし、みんな真剣だ。けど、なんで念押しを?」


 眉根を寄せる圭吾に、


「俺にはもう時間がねえからだよ」


 銀城は空いた手の親指で自分の胸を突いてそう答えた。


「心臓がな。薬もとうに切れている。寧子(ねいこ)には俺の技術をすべて叩きこんである。あいつなら俺が死んだ後、お前さんたちの力になってくれるはずだ」


「……虎先生。そんな話はやめてくれ」


 圭吾はとても悲しそうな顔をした。


「あんたにはまだまだ教わりたいことがあるんだ。薬だって探している。きっと間に合うよ。お孫さんとだって再会させてみせる。だから、どうか長生きをしてくれ」


 銀城は「はは」と笑った。


「お前さんはいい奴だよ。圭吾。まあ、そんで三つ目だ。つうかこっからは俺の願望だな」


 銀城はニタニタとした笑みを見せて、


「志穂と早くガキを作れ。俺が生きてる間に次代を担う子の顔を見せてくれ」


「……虎先生」圭吾は少し視線を逸らした。


「すまない。俺としてはまだ志穂にそこまで無理はさせたくないんだ。正直、深く傷ついた過去からようやく立ち直ったあいつに手を出しておいて、今さら何を言ってやがんだって自分にもツッコミをいれたいんだが……」


「はは。こんな時代だ。明日があるとは限らない。そりゃあ愛だって爆発するわな」


 銀城は笑う。それから「そんじゃあ四つ目だ」と言って最後の指を折った。


「圭吾。早く茉莉も嫁にしてやんな」


「……は?」


 銀城の言葉に、圭吾は目を丸くした。


「あの子の気持ちにはお前さんももう気づいてんだろ。志穂同様にあの子のことも大切に想ってんなら早く応えてやんな」


「いや。いやいや、虎先生」圭吾はパタパタと片手を振った。


「確かに茉莉のことは大切だが、俺には志穂がいるんだぞ。なに当然のように浮気を勧めてきてんだよ。あんたは」


「おいおい。そこは柔軟にアップデートしようぜ」


 銀城は苦笑を浮かべて言う。


「お前さんこそ分かってんのか? 今は人類の存亡危機の時代なんだぞ。ガキは一人でも多く残さねえといけねえんだよ。こう言っちゃなんだが戦国時代よりも遥かにエグイ時代だ。純愛もいいが、愛する女は一人だけっていう価値観がいつまでも当たり前だと思うなよ」


 一拍おいて、


「とはいえ無責任に抱くなよ。相手の尊厳を踏みにじんのもアウトだ。時代がどうであれ合意は大前提だ。その上なら愛する女は多くてもいい。お前さんがその全員と生涯を共にする覚悟をしたんならな」


「い、いや、先生……」


 流石に圭吾が困惑した様子を見せると、銀城は「ははは」と陽気に笑った。


「お前さんはいい奴だから勧めてんだよ。きっと志穂も茉莉も幸せにする。つうか何なら寧子もくれてやってもいいぞ。ちょいと不愛想だが、極上の美少女だからな」


 そんなことを言う。圭吾は何とも言えない表情をするのであった。


「ともあれだ」


 銀城は指を全部折って拳となった手を、圭吾の胸板に強く押し付けた。


「頼むぜ、リーダー。老い先短いジジイに幸せな未来を見せてくれ」


 ニカっと笑う銀城だった。



       ◆



 そうして三日後の夜。

 場所は同じくタワーマンション。十五階研究室にて。

 黙々と銀城は一人、AI搭載ドローンの映像を回収していた。

 通信回線が使えないため、USBを使用してドローンからノートPCへと映像をコピーする手作業だ。黙々と十数機から回収する。その作業を十数分ほど繰り返してから、銀城はパイプ椅子に座り、ノートPCの前で煙草に火を点ける。紫煙を吐いて一服した。

 紫煙で作ったわっかを見上げつつ、


(さて、と。これで俺に後押しできることは全部したか)


 おもむろに、銀城は苦笑を浮かべた。


(まあ、圭吾の奴なら大丈夫だな。まだ若けえのにしっかりしてる。あいつが一緒なら志穂も茉莉も大丈夫だ。気になんのはジェイとかいう糞野郎のことだが……)


 憎しみは冷静さを奪い去る。茉莉が時折暴走するように。

 ただ、それでも圭吾ならその感情も律することが出来るだろう。


(俺の知識はこのPCに詰め込むだけ詰め込んだ。農業に必要な人工日照システムは実際に組み上げてみんねえと厳しいところだが、小型なら成功している。何とかなんだろ)


 終活の締めとしては充分だ。しかし、一つだけ心残りがある。

 銀城は白衣の中から写真を取り出した。

 自分と共に映る孫娘の写真だ。不愛想なジト目にへの字口。紺色のショートヘアはボサボサで奇妙なことにネコの耳のように見える。これは銀城の隔世遺伝かも知れない。オーバーオールを着た姿は少年のように見えるが、顔立ちは妻や娘に似て充分に整っている。ジジ馬鹿としては文句なしの美少女だった。


(……寧子)


 銀城は双眸を細めた。

 二年前に行方不明になった孫娘。娘夫婦が早くに亡くなったため、銀城が娘たちの代わりに手塩にかけて育ててきた、たった一人だけの大切な家族だ。

 こんな過酷で非情な世界だ。

 もはや生存は絶望的かもしれないが、それでも生きていると信じたい。


(圭吾たちに期待するしかねえか。圭吾、見つけたらマジで嫁にしてもいいぞ)


 自嘲じみた笑みを零しつつ、銀城はノートPCのモニターに視線を移した。

 映像を開く。あの謎の都市の映像だ。

 しかし、映像は外縁部までで新たな情報は得られなかった。


(流石にあの中央の屋敷までは近づけねえしな)


 銀城は渋面を浮かべた。AIもリスクを避けているということだ。

 しかし、この程度の情報量では、次の会議で大した議論は出来なさそうだ。

 と、その時だった。


「―――な、に」


 銀城は目を見開いた。

 映像の一つに外縁部の屋根の上に立つ人影を見つけたのだ。

 年齢は二十代半ばから後半ぐらいか。灰色の紳士服を着た黒髪の男だった。

 精悍な横顔が印象的であり、どこか王者のような風格さえも感じた。

 明らかに只者ではない。映像越しでもそう感じた。


 しかし、銀城はその人物以上に、別のところに注目していた。

 映像を停止させてマウスを使い、可能な限り拡大する。

 紳士服姿の男の腕の中。そこに一人の少女が収まっていたのだ。

 汚れやほつれの目立つオーバーオールを着た少女だ。

 気絶しているのか、彼女に動く気配はない。


(……おい、待て)


 銀城は愕然とした。

 身長は二年前とさほど変わっていないように見える。同世代よりもかなり小柄なままだが、体つき自体は驚くほどに女性的に成長していた。顔立ちには面影がある。何より紺色のショートボブには、特徴的なネコ耳のような癖毛があった。


 ガタンっとパイプ椅子を倒して、銀城は立ち上がった。

 震える手で映像を再び動かすと、男は凄まじい跳躍を見せた。人間では考えられない跳躍だった。見る限り機甲脚装(メタルブーツ)も装着していない。《覚醒者(ネクスト)》であることは間違いなかった。

 男は気絶している少女を連れて、街の中へと消えていった。

 部屋に沈黙が降りる。とても重く長い沈黙だった。

 そして、


「……くそったれが」


 ややあって、銀城は忌々し気にこう吐き捨てた。


「俺は終活中なんだぞ。今更とんでもねえ未練が出来ちまったじゃねえか」









読者の皆さま。いつも読んでいただき、ありがとうございます!

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異形変身×退魔家系×ダブルヒロインの作品になります。

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何卒、よろしくお願いいたします!m(__)m

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