MIA (Missing In Action) 作戦行動中行方不明
遠い戦争、朝鮮戦争はそういわれた。
アメリカでは、何の関心もなかった。
「老兵は死なず、単に消え去るのみ」(Old soldiers never die, they simply fade away)という言葉で原爆の使用を促したマッカーサーは、更迭された。
仮に、原爆の使用を容認していたら、第3次世界大戦が勃発していた。
原爆投下の許可をしたトルーマンだからこそ、使用しないことの大切さを理解したのだろう。
「ARAYA phone call」
と下宿の女将さんが呼んでいた。
新谷は、またCharlotteからの電話かと思いながら階段を降りて受話器を握ると、一言二言話して、受話器を置いた。
女将さんが心配そうに、新谷に声をかけていたが、新谷はあるゆる情報を遮断するかのようにアパートの自分の部屋に戻って、椅子に座るとウイスキーの瓶を出してショットグラスに注ぐとグイっと飲んだ。
何杯も何杯も・・・
うつろな瞳に涙が滲んでいた。
いくつもの涙が頬を伝っていた。
どれくらいの時間そうしていたのだろう。
すっかりと暗くなった部屋に新谷はただ椅子に座っていた。
ドアをノックする音がしたが、返事すらする気がなかった。
ドアがゆっくりと開いた。
廊下の電気に照らされたシルエットがあったが、新谷は言葉を発せずにただその方向に顔を向けた。
「Why light isn't turned on.」(電気も付けないで)
と心配そうなCharlotteの声が響いた。
「Don't turn the light on.」(つけないで)
と新谷は言い、ショットグラスをあおった。
Charlotteは、新谷の前に立ち新谷の顔を覗き込んだ。
窓から月の光がかすかに届き新谷の顔を照らしていた。
「Was there something?」(何かあったの)
新谷は答えずに、ウイスキーをあおった。
Charlotteは新谷の後ろに回って両手を広げて新谷を抱きしめた。
新谷は、Charlotteの手に自分手を重ねた。
Charlotteは新谷の頬ずりをした。
香水のかすかな匂いがした。
「何があったの?」
とCharlotteは新谷に優しく尋ねた。
「Rechardが行方不明だ MIA (Missing In Action) 作戦行動中行方不明だ」
といって、グラスにウイスキーを注いだ。
Charlotteは、そのグラスを新谷の手から外すと、グイっと飲んで見せた。
「何度もこんな夜があった。そして、泣いた。独りで、だから一緒に飲んであげる、そして泣いてあげる。あなたの気が落ち着くまで」
新谷は、頷いてCharlotteの腕の中で泣いていた。
新谷の中では、戦争はもう終わっていた。
脚が地上を離れたときに感じる達観した感情と脚が地に着いた時の安ど感に揺れることはもうないと思っていた。
躊躇わずに、引く機銃の発射ボタンや照準器の中で逃げ惑う機体が飛散していく姿をもう見ることはないと思っていた。
だが、Rechardはその戦いの中にいた。
考える暇もないほどの短い時間の中で戦っていた。
竹部と同じように新谷を理解してくれた戦友だった。
「My important person always dies first.」(大切な人から先に死んでしまう)
新谷は、つぶやいた。
「You don't die.」(あなたは死なない)
とCharlotteは両手で新谷の顔を挟んで言い聞かせた。
「You can't be let die. I'm always necessary for the side.」(あなたを死なせたりしない、私がいつでもそばにいる)
Charlotteは新谷の額にキスをした。
そして、新谷の頭を胸に掻き抱くと低い声で歌いだした。
You Are My Sunshine
My only sunshine.
You make me happy
When skies are grey.
You'll never know, dear,
How much I love you.
Please don't take my sunshine away
The other nite, dear,
As I lay sleeping
I dreamed I held you in my arms.
When I awoke, dear,
I was mistaken
And I hung my head and cried.
You are my sunshine,
My only sunshine.
You make me happy
When skies are grey.
You'll never know, dear,
How much I love you.
Please don't take my sunshine away.
Please don't take my sunshine away.
Please don't take my sunshine away.
新谷は、Charlotteのあやされる子供のように、歌を聞いていた。
そして、深い深い眠りに落ちていった。
Charlotteは、何度も同じ歌を歌っていた。
途切れることがないように、子守歌のように、自分に言い聞かせるように




