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The war which is again (再びの戦火)

Rechardと再会してから、度々一緒に行動することが多かった。

Rechardは、国では英雄であり、よき広告塔でもあった。

だから、大概のことは、出来た。

新谷は、有難迷惑でもあったが、Rechardのされるままになっていた。

Rechardの傍には、必ず静子がいた。


 静子は、生活のために占領軍の相手をするような人間ではなかった。

気高くそして、芯が強い女性だった。

育ちといってもいいくらいだった。

それでいて、自分の立ち位置をしっかりと認識していた。

敵国の女性を正式に妻にできるわけでもないとわかっていた。

ましては、国の英雄である。

新谷は、ふとSaraのことを思いていた。

女性はいつでも、強いとおもった。

人を愛するということは、こうも、人の心を強くするものだと感じた。

新谷は、いつもながら、静子のきれいな英国式の発音に聞きほれていた。


 「静子さんの発音は、英国式なのですね」


 と新谷が訪ねると


 「父が、ヨーロッパで大使をしていて、戦争が始まる前まで、ヨーロッパ諸国を転々としていましたの」


 と静子は答えた。


 「そうですか、私は外国に行ったことがないので、発音は自己流です。もっとも比島や台湾にはいまたけれども、殆ど使うことはありませんでした。」


 「新谷さんは、比島にもいたのですか」


 と静子は目を伏せた。

 どこか、触れてはならない話をはたように感じた。


 「たくさんの人が、亡くなりました。比島は一番多くの人が亡くなったと言われてますね」


 静子は、他の仲間と楽し気にビールを飲んでいるRechardに目を向けた。

新谷の脳裏に、比島戦線での思いが込み上げてきた。

台湾沖航空戦での虚偽の報告がなければ、もう少し少ない犠牲で済んだのかもしれない。

そして、菊水作戦がなければ、特攻という戦術も生まれなかったのかもしれない。


 「ええ、たくさんの命が散りました。それでも、生きていることが今の戦いです。」


と新谷は言った。

今の日本は何もかも失ったのかもしれない。

それでも、生きている。

竹部はいった。

"生きて次の日本を作れと"

新谷は、その言葉だけで生きている。

不思議な縁の取り持つ中で、生きている。

敵として戦ったものとも、こうして理解しあえる。

知らないことが、恐怖ならば、知ろうとする努力が必要だと理解している。


 「今の、日本をどう見ていらっしゃるの」


 と唐突に静子が新谷に問いかけた。


 「子供のようだと思います。世間知らずの子供が世間の荒波を知ってそれと戦っている。何が過ちで何が正しいのか、多くの犠牲の上に学んだと思います。」


 「私の婚約者は、比島で死んだの、神風特別攻撃隊として」


新谷は、声を失った。


 「最後の手紙に、"君を守るために行く"と書いていわ、私は守られたくはなかった。帰ってきてほしかった。どんな姿でも、例え、国に背いてでも。帰ってほしかった。新谷さんは、誰かのために死ぬのことができたの」


 静子は泣いていた。

おそらく、新谷が神風攻撃隊の生き残りだと知ったから、こんな問いを投げているだと察した。


 「静子さん、誰かのために死ぬというのは詭弁なのかもしれない。死ぬのは怖いんです。死ぬの恐れない人間などいない。本能的に人は生きようとする。だから、呼吸をして心臓を動かし続ける。死という概念が何なのか定義はできないけれども、あえて言うならば、未来に希望をつなぐこと諦めることだと思います。どんなに努力しても過去は変えられない。私が戦闘機乗りで、敵を何機も撃墜したことは事実です。現にRechardも撃墜している。たまたま運が良かったからRechardは死ななかっただけです。私は、多くの人から生かされています。そうした思いが、未来を創ると思います。」


 静子はハンカチで涙を拭きながら


 「新谷さんは、死線をくぐってきたのですね。私は死ねなかった。あの人の傍に行きたかった。」


 静子が言うと、その後ろ姿をRechardが抱きしめた。


 「Please don't blame yourself.(自分責めるな)」

とRechardは、静子の額に優しく口づけをした。


 Rechardは、静子を促すと、クラブの外にあるジープに乗せた。


 「新谷、一緒に乗れよ」


 といった。

新谷は、後部座席に乗った。


Rechardは、ジープを暫く走らせると白い洋館の前で止めた。

Rechardの宿舎らしかった。

静子の肩を抱いて、家に入ると、新谷にもついてくるように顎をしゃくった。

疲れたのか、静子はシャワーを浴びると、ガウンに着替えてベッドルームに消えた。


Rechardは、難しい顔をしていた。


「静子と何を話していだんだ」


と新谷に尋ねた。

新谷は、静子とのかいわの内容をかいつまんで説明した。


Rechardは、グラスにウイスキーを注ぐとグイと一気に飲んだ。


「死んだ人間には、勝てないな」


とRechardは、つぶやいた。


 「静子さんの相手のことを知っているのか」

と新谷はRechardに尋ねた。


 「ああ、カミカゼだ。1944年の11月にセブ島から出撃している。静子は終戦後に聞いたらしい。」


 新谷は、マバラカットや台湾、鹿屋ならば大抵の人間は知っていたが、セブ基地の人間は知らなかった。


 「しかも、補給艦へのカミカゼらしかった。」


 新谷は顔を暗くした。

マバラカットでも、桟橋に特攻をかけさせられていた。

レイテ湾に突入予定の大和でも護衛空母をやっとのことで撃沈したくらいだ。

零戦単機で、護衛空母くらいなら当たり所では撃沈が可能だ。


 「静子は、自暴自棄になって、ある日、俺のジープの前に飛び出してきた。ズタボロの姿でな、なにがあったかはすぐにわかる。俺は、どうしようもなかったが、とにかく死にたがった彼女を助けたかった。」


 新谷もウイスキーをぐっと飲んだ。


 「傷が癒えたころになると、俺も情が湧いちまったし、何よりも静子は美しいと思った。俺の国の女にはない、美しさがある。だから、俺は静子と暮らしている。だが、静子は体は許しても心は決して許さない。たぶん、死んだ男への誓いなのだろう」


 Rechardは、ラッキーストライクに火をつけて深く吸い込んだ。


 「Rechard、静子さんはお前を愛してると思う。ただ、割り切れないだけだ。自分のために死ぬといった男を裏切ることができないでいる。呪いなのかもしれない。相手を縛る。だから、お前といるのが辛くなる。今、大切なことが何なのか知ってしまったから。特攻は、「統率の外道」だ。自分にそう言い聞かせてなければ、死ぬ意味が見つけられない。俺もそうだった。飛行機乗りになってから、死ぬことは当たり前だと思っていた。Rechard、お前だってそれは分かっているはずだ。」


Rechardは、深く頷いた。


 「新谷、俺はもうすぐ本国に帰還する。でも静子を連れてはいけない。どうすればいいんだ」


 「静子さんは、それは分かっている。でも、お前を待ち続けると思うよ。永遠に」


 と新谷は、うなだれて涙ぐむRechardの肩を叩いた。


 「新谷、そうじゃないんだ。また、空に上がるんだ。また、人を殺す戦いをするんだ。」


 新谷は頷いた。


 新聞でもこのところ、アメリカとソ連の覇権争いが激化していた。

原子爆弾の実用化と運用でソ連を出し抜いた形だが、いずれそれも追いつかれると推測していた。

世界は、アジアを中心に、資本主義と社会主義のイデオロギーによる戦局を迎えることになる。


 「いつだって、正しい戦争はない。もう十分に学んだはずなのに、人は、また同じことを繰り返すんだな。それでも、Rechard、生きるための戦いはあると思う。それは、もうわかるよな。同じ気持ちなんだろう。」


 「ああ、静子を守る戦いをするだけだ。未来に向けて生きるための」


 と言って、Rechardと新谷はグラスをカチンと合わせて一気にウイスキーを飲んだ。


 

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