第1話 内定がなくなったら、異世界に呼ばれました
人生というものは、何が起こるか分からない。
少なくとも、大学四年生の僕――アカリは、今日までそう思っていた。
「……内定、なくなった?」
大学から帰ってきた僕の手元には、就職先から届いた一通の連絡。
そこに書かれていたのは、内定先の会社が倒産したという、あまりにも簡潔な内容だった。
「いやいや……そんなことある?」
思わず画面を見直す。
何度確認しても、書いてある内容は変わらない。
就職活動を終え、あとは卒業して働くだけ。
そう思っていたところに、まさかの会社倒産。
人生設計なんて大げさなものを考えていたわけではない。それでも、これからどうしようという不安くらいはある。
僕には、親もいない。
高校生のとき、両親は事故で亡くなった。
残された保険金を使って大学へ進学し、ここまで何とかやってきた。
「……また最初からかぁ」
思わずため息が出る。
そんな僕が、現実から逃げるように熱中していたものがある。
ゲームだ。
『ファイナルオンライン』
僕が大学生活のかなりの時間を費やしたオンラインゲームである。
レベル上げもした。
スキルも鍛えた。
イベントにも参加した。
ただ、僕が一番好きだったのは――鍛冶だった。
「新しい武器、作りたいなぁ……」
強い武器を作る。
素材を集める。
スキルを上げる。
失敗したら、また素材を集める。
効率を考えながらひたすら繰り返す。
戦闘職ではなかったが、鍛冶に関してはかなりやり込んでいた。
……まあ、ゲームの中だからできたことだ。
現実の僕には、そんな才能なんてない。
そう思っていた。
その瞬間だった。
「え?」
目の前が真っ白になった。
何が起こったのか分からない。
身体が浮いているような感覚。
そして、気がつくと僕は見知らぬ場所に立っていた。
目の前にいたのは、一人の女性。
神々しいという言葉が、そのまま形になったような存在だった。
「はじめまして、アカリ」
「……どちら様ですか?」
「私は女神アリステラ。この世界を管理する神です」
「……神様?」
思わず首を傾げる。
夢でも見ているのだろうか。
でも、妙に現実感がある。
頬をつねってみる。
「痛い」
「夢ではありませんよ」
「ですよね……」
即答されてしまった。
女神アリステラは、僕を異世界へ転生させたいのだという。
その世界の名前は――クラリアル。
そして僕に与えられた役目は、魔王を倒す勇者になること。
「魔王討伐……ですか」
「はい」
普通なら、ここで驚いたり、怖がったりするのだろう。
でも僕の頭に最初に浮かんだのは、別のことだった。
「……異世界ってことは、ファイナルオンラインみたいな感じですか?」
「『ファイナルオンライン』?」
「あれ?」
どうやら女神はゲームの名前を知らないらしい。
話を聞いてみると、どうもクラリアルという世界は、僕が遊んでいた『ファイナルオンライン』の世界観にかなり似ているらしい。
というより――
「実は、そのゲームはクラリアルを参考に作られたものなのです」
「……え?」
今度こそ、僕は固まった。
ゲームが異世界を参考にして作られていた。
そんなこと、ある?
いや、あるのかもしれない。
何しろ今、目の前に女神がいる。
「つまり……ゲームの攻略知識が使える?」
「ある程度は、そうかもしれません」
「それなら何とかなりそうですね」
「……随分と落ち着いていますね?」
女神が少し驚いた顔をする。
僕自身も不思議だった。
魔王討伐なんて、普通ならもっと大変なことだと思う。
でも、ゲームで似た世界を知っている。
それなら――。
「じゃあ、行きます」
僕はあっさりと答えた。
こうして僕は、異世界クラリアルへ行くことになった。
……このときの僕は、まだ知らなかった。
これから始まる異世界生活が、僕の知っているゲームとはまるで違うものになることを。
そして――
魔王討伐よりも、鍛冶に夢中になることになるとは。
このときの僕は、まだ知る由もなかった。




