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エピローグ

数ある作品の中からちらりと覗いてくださりありがとうございます。


こちらで完結となります。


 ヴァレンタイン侯爵家の応接間での一件から数ヶ月が経った。



 二人の婚約は破棄されることなく、むしろ両家の親たちが呆れるほどの熱量で結び直され、今や社交界公認の「おしどり婚約者」として有名になっていた。

 

 アシュフォード商会の執務室には、今日も変わらず心地よいハーブティーの湯気が立ち上っている。


 だが、以前とは決定的に違う光景があった。

 


「……ねえ、エレノア。ちょっとこっち向いて?」


 ソファに並んで座り、帳簿を確認していたルシアンが、当然のような顔をしてエレノアの腰に腕を回し、自分のほうへと引き寄せた。


「なっ、ルシアン様……! まだ仕事の書類が残って――」


「いいから。はい、休憩」



 ルシアンはエレノアの反論を美しい微笑みで融解させると、彼女の細い肩にぽん、と顎を乗せた。そのまま、白く華奢な首筋にふわりと甘いリップ集を落とす。



「ひゃあっ……!?」


 エレノアは猫のように身体を強張らせ、一瞬で耳の裏まで真っ赤に染め上げた。



 ルシアンの好意は、婚約を結び直してからはさらに拍車がかかっている。それは隠すどころか溢れんばかりにエレノアに注がれており、少しでもエレノアに近づく男が現れようものなら嫉妬の牙をむき出しにする。隙さえあれば抱きしめられ、甘い言葉で翻弄される毎日に、エレノアの脳内計算機は今も毎日、嬉しい悲鳴を上げっぱなしだった。

 


 ルシアンは首筋やこめかみ、唇まで余さず味わい尽くし、彼女の愛らしい動揺をひとしきり堪能すると、ふと机の上に置かれた、来月のスケジュールが細かく書き込まれた予定表に目を留めた。



「そういえば、エレノア。この大口の商談の予定、どうして来月まで先送りに計画したんだい? 君のいつもの効率的な計算なら、今月中に詰め込んで利益を確定させるはずだろう?」


 ルシアンが不思議そうに瞳を瞬かせる。


 エレノアは、ルシアンの胸元を押し返し距離を取りつつ、赤くなった頬を隠すようにツンと視線をそらし、手元の羽ペンを弄んだ。

 

「……あなたが言ったんですよ。幸せは数字では計れないって」


「え?」


「商談の予定を無理に詰め込むと、今月行く予定だった……あなたとの、お出かけの予定が無くなってしまうでしょう」

 


 ぼそぼそと、けれど明確に告げられたその言葉に、今度はルシアンが大きく目を見開いた。

 

 エレノアにとって、かつて時間は「利益を生むための数字」でしかなかった。けれど今の彼女にとって最も優先すべき『正解』は、商会の純利益ではなく、ルシアンと隣り合って笑い合う、あの計算不能で愛おしい時間なのだ。

 

 ルシアンは一瞬ののち、胸を突かれたような顔をして、それからこれ以上ないほど甘く、眩しい笑顔を咲かせた。



「……参ったな。俺の婚約者が可愛すぎて、仕事にならなくなりそうだ」


「な、何を仰って――んむっ」

 


 抗議を紡ごうとしたエレノアの唇は、ルシアンの深く優しい口づけによって塞がれた。

 

 窓から差し込むうららかな陽光が、並んで睦み合う二人を優しく照らしている。




 数字では決して計ることのできない、無限の愛に満ちた二人の未来は、これからも甘やかなノイズを響かせながら、どこまでも幸せに続いていくのだった。


お読みいただきましてありがとうございました。


前作は盛り盛りに話が長くなってしまったので、今回のエレノアとルシアンのお話はサクッと読めることを心がけました。

今回も追いかけられるヒロイン×追いかける溺愛系ヒーローのお話です。自給自足できて楽しかったです。

同志の方いらっしゃいましたらまた覗いてくださいますと嬉しいです。

ありがとうございました!

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