鬼の休息
三鬼は馴染みのBARでウイスキーを飲み、大きくため息をついた。
新しく同じ区の担当となった天部。
前任者とはまた別の意味で三鬼を疲れさせる存在だった。
ようやく仕事から解放されたこの時間の酒が、余計に旨く感じる。
天部になったくらいなのだから善人であることは確かだ。
しかし、天音光とはまた違った意味で手がかかる。
——ガタン。
すぐ近くで音がした。席に余裕があるにもかかわらず、すぐ隣に座ってくるやつがいる。
三鬼は相手を確認し、またため息をついた。腐れ縁の霊媒師の宮部だった。
宮部はマスターに酒を注文すると、意味ありげに三鬼を見つめる。
「どうしたの? なんか疲れてるね。 新しい天部くんの教育で忙しい?」
三鬼はジロッと宮部を睨んだ。
「アイツらは別部署の存在だ。教育なんてしてやる義理はない」
「その割に、前のカワイコちゃんには手取り足取り教えてたのに?」
宮部はニヤニヤと、人の悪い笑みを浮かべる。
「アイツが仕事しなかったから、注意していただけだ」
宮部は肩をすくめる。
「俺としては、その方がメシの種が残って助かってたんだけどね〜。
だったら今回の子にも注意してやってくれない?
仕事はほどほどに、頑張りすぎないようにって」
三鬼は大きくため息をついた。
今回の天部は仕事熱心すぎる。
それ自体は好ましいのだが、なぜか異常に三鬼に懐いてしまった。
仕事の相談、業務連絡を逐一してくる。
担当地区が同じとはいえ、業務内容も違うのだから、天部と鬼が頻繁に関わる必要はない。
それなのに、街で見かけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
バッタリ会わなくても、食事に誘ってくる。
前任者とはまた別の意味で、面倒くさい。
「平和でいいだろ。お前の仕事がない方が」
三鬼はグラスを揺らしながら言った。
「投資でも頑張って、穏やかに過ごせ」
チラリと隣を見ると、不満そうな顔をしている。
宮部は霊媒師をしており勘が鋭い。
それもあって、投資でもかなり儲けているらしい。
三鬼としては、人間にはなるべく”そういうもの”とは関わらずに生きてほしいのだが。
「え〜、つまらないよ〜!
あっちの仕事してる時の、あのゾクゾクする感覚がたまらないんだよね。
だから新任くんには、週休三日くらいで頑張ってって言っといて」
「お前、そんなことしてると、碌な死に方しないぞ」
三鬼はウイスキーを一口飲みながら言った。
「お前のためにも、この仕事には休みなんてない! より一層頑張れって言っとくよ」
天部が頑張れば、宮部の仕事も減る。それはそれで平和なことだ。
面倒くさがらずに、もう少し新任を労わってやるか。
ブツブツと不満を漏らす宮部を横目に、三鬼はそう思った。
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コチラの物語は、【君の世界が青いから……】のオマケとして、あとがきに掲載していたものです。
【君の世界が青いから……】の少し後の内容です。
物語の中には三鬼と宮部、コチラで名前だけでた天音光はと登場しておりますが、新人天部は全く登場しません。
宮部もいわゆる見える人で、少しだけ神通力的なものを持っているので霊媒師をしています。
鬼と言っても、ダークサイドという訳ではなく、神と協力して人間の魂を護る仕事をしています。
天部は救済、鬼は裁きが基本的な仕事ですが、現世の鬼は人間に悪い影響を与える、強い思いを抱き死の国へ旅たたず残ってしまった魂の処理を行なっています。
【ソウルトランジットシリーズ】は、2024年8月に「夏のホラー2024」参加作品として第一作がスタートしました。
【開いているドアは見過ごしなさい】
複雑な家庭環境で育つヒロシ。
彼の住む街を走る路線では、投身自殺が相次いでいました。
ある日、その自殺未遂を起こしたのが、同じ学校に通う友人・ジンだと知り――。
シリーズの原点となる作品であり、最も謎と不穏さに満ちた物語です。
【君の世界が青いから……】
人の感情が色として見えてしまう特殊な力を持つジン。
彼が一番気になっているのは、親友ヒロシがいつも哀しみの青に染まっていること。
大好きなヒロシに笑顔になってほしい。
そんな想いで彼を支えようと奮闘するが……。
『開いているドアは見過ごしなさい』をジン視点から描いた作品ですが、前作とはまったく違う雰囲気の、友情と青春を描いた物語になっています。
【奥野、細道へ】
大学進学を機に、海沿いの街・仮存街へと引っ越してきた奥野。
おしゃれなアパートに立派な大学。
理想の新生活が始まったかに思えたが、この街では不思議な出来事が次々と起こる。
シリーズ第三作となる、ヒューマンファンタジー作品です。
【ソウルトランジットの休憩室】
人知れず人間のために働く「天部」と「鬼」。
これは、そんな彼らの日常を描いた番外編集です。
シリーズの中では最も明るく、肩の力を抜いて楽しめる一作。
やりがい搾取気味で、少しブラックな職場環境の中でも懸命に働く彼らの姿を、コミカルに描いています。




