9話 ミレアの食卓
「なかなか戻ってこないわね。」
外で雨が強く降っていたので皆濡れてしまったのではないか。
かまどに火をつける。こういう時、魔法を少しだけかじっておいて良かったと思うのだ。
火が簡単につけられるというのは料理で重宝する。本当に料理くらいにしか使うことのできない大きさだけれど。
帝都や王国のようには手に入らないものもあるけれど、逆にここにしか無いキノコや山菜がある。それらをふんだんに使った料理はミレアの得意料理だ。
トントンと包丁の軽快なリズム、新鮮な野菜のシャキシャキとした音。ふわっと広がる香り。この瞬間がたまらなく好きだった。
「まだ戻ってきていなかったのか。」
背中越しに扉の開く音がして夫が入ってきた。
「いい匂いだな。」
「ええ。今日は新入りちゃんもいるんですもの。ちょっと豪華な食事にしようと思って。」
貴方の好きなクレミのパンも作ったわよ、と言うとふっと頬を緩ませる。作るのは少々面倒ではあるものの、食感が好きらしく、作ると喜んでくれるのでついつい作ってしまう。
「これ、机に運んでおいてくれる?」
「ああ、勿論さ。いつも感謝しているよ、ミレア。」
「まあ、貴方ったら。そんなこと言っていても何もありませんよ?」
少しからかってみる。困ったように眉をたらす姿が愛おしい。
「あの子も、ここを家だと思ってくれたらいいんだけど。」
「大丈夫だろう。なんたって君がこんなに美味しい料理を作ってくれるからかな」
味見用にすくって渡した小皿のスープをおいしそうに飲んで言った。
全くこの人は。照れくさい事を平気でいうのだから。すこし悔しいが、そんなところに惚れたのだ。
木戸のきしむ音がして賑やかな話し声が聞こえる。全く、いつの間に仲良くなったのだか。
正直、うまくやっていけるのか心配していたのだが、それはどうやら必要が無さそうだ。
「おかえりなさい!夕食もうできているわよ」
ただいま、と口々に言う。
ミレアは今日も。




