1話 駆けよ竜よ
これは。竜を育てる牧場と、竜にまたがり天を舞う少年たちの物語。
――皇帝陛下の御前で輝かしい栄光を手にするのは、いったい誰なのか! さあ、早速登場してきましたのは……!
「次、あなたのところのでしょう。一番手とは、なかなか目立つ枠をお取りになりましたなぁ」
汗をタオルでぬぐいながらかけられた声に、私は曖昧に「ああ」とだけ返す。
――さあ、トップバッターを飾るのは、あの、ウァロース牧場の英雄だ!
地響きのような歓声が会場を揺らし、期待に満ちた観客たちの視線を一身に受けながら、一頭の竜が姿を現した。
双眼鏡のレンズ越しに光沢のある鱗はまばゆく輝き、青い体はまるで空そのもの。職人が丁寧に作ったように左右に伸びた角が風を切って進んでいく。
機嫌がよさそうに顔を上げて咆哮するその背には、小さな影がまたがっている。ここ、遠く離れた地上からでは顔までは見えない。しかし、その雄大な翼がいったん風をつかめば、空はもう彼らの独壇場だ。
「美しいですな。やはり、君のところは。」
「何をおっしゃるか。今日の一番の敵は貴方のところだと思っていますよ。」
「いやはや、お戯れを。英雄に勝とうなんぞうちの未熟者には荷が重かろうて」
好々爺然とした白いひげを揺らして豪快に笑う。全く、つかみどころのないお方だ。
「しかし、私はまたこんなに賑わいが戻るなんて思いもしませんでした」
「そうでしょうよ。でもこれが一番良いのです。子供たちも竜も。私たちも。こうあるべきなのです。
私たちはこのために、毎日手塩にかけて竜たちを世話して、子竜の誕生を祝うのですから。」
――ここで、急上昇していく。なんという速度でしょう
実況が興奮気味にまくし立てる。
並んで立てられている賑やかな旗が風にあおられて揺れている。
「皇帝陛下にこれを最初に見てしまわれたら、うちはもう敵いませんな」
「いえいえ。これからですよ。ここはまだ、始まりですから」
空中で優雅に尾羽を翻し、一回転してみせると、観客席から大きな声援が上がる。
「ねえ、ちょっと。今までで一番きれいじゃない」
元気なお下げが興奮して揺れている。
「ああ、そうだね。」
「頑張っているわね。」
私は飛び跳ねる彼女の隣で願わずにはいられなかった。
「行け。どうか、無事に。大空のどこまでも駆けて行け……月竜よ」
視界を覆ったのが感動の涙なのか、緊張の汗なのか、自分でも分からなかった。
言葉にしてしまったらもったいないような気がして、何も言うことはできずにただ青い空を見上げていた。
見ていただいてありがとうございました。
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