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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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1/6

1.護衛依頼

 指先の呪符(トゥル)が燃えた。すかさず次の呪符へ手をやり魔力を通す。

「ローレンさん、追加の呪符を出してもらえますか?」

 そう言って私は腰の鞄を彼の方に向けた。


「あ、ああ。カナン君は相変わらず、頼もしいね」

 ローレンの指先は震えている。


 扱える呪符は最大二つ。手の数だけだ。今同時にワラン商会の荷を守るため〈防護〉の呪符を展開している。一つ破れてももう一つの手にある呪符が〈防護〉は続ける。頼んで新しいものを五枚並べてもらったが、そろそろ呪符が心許なくなってきた。


「クロウ、あと何人?」

 耳につけた〈伝達〉の魔導具を使って尋ねると、私の相棒である彼は五人と答える。直接耳に響いてくる。


 その五人に、遠くから〈火球〉を放ってくるまじない師の数は入っていない。あくまで目視できる人数だ。

 外で戦っているのはクロウと、ワラン商会専属の剣士であるフルム、目的地の港町シウォールで増員された剣士のスルシュと弓師のハリルの四人。

 大丈夫だとは思うが、まじない師の攻撃がなかなかに苛烈で、荷を守るための〈防護〉に必死だ。まじない師の腕がいいのだ。一撃が重い。


「クロウ、まじない師を一人減らせない?」

「……こちらがもう一人減らないと難しい」


 盗賊が欲しいはワラン商会の荷だ。つまり私たちが乗っているこの部分に攻撃が向かうことはないだろう。彼らが狙っているのは荷を引く馬を潰し、荷馬車を置いたまま私たちがここから離れることだ。

 襲ってきている者たちも、馬が潰れた瞬間撤退する。そうして夜を待てばいいのだ。死んだ馬を狙って魔物がやってくる。私たちもいつまでも動かぬ荷馬車の側をうろうろしているわけにいかない。


 と、幌に包まれた荷馬車の後ろから盗賊が武器を片手に入り込もうとやってきた。

「まじない師めっ! 貴様さえやれば、」


 だが、男は最後まで言い切る前に血を吐いて前のめりに倒れる。


「あああ……」

 ローレンは後退り、私の後ろに隠れた。

 雇用者と被雇用者の関係なのでまあ、いい。だがあまりにも情けなくはないか? こうやって盗賊に襲われることは今まで何度もあったろうに。


「カナン、無事か?」

 胸を貫かれて死んだ男の後ろから現れたのは、長い黒髪を後ろでまとめた偉丈夫だ。アイスブルーの瞳が荷馬車の中をぐるりと見回し、私に異常がないと知るとすぐ振り返り戻っていく。


「こっちは残り三人になった。まじない師の場所を教えてくれ」

「東の方向に三十メレ」

「ああ、丘の向こう側か。了解した」

「呪符がキツい。急いで」

 わかったと言うなり駆け出す。私は〈防護〉の呪符に集中した。


「帰路がこんなに大変なことになるなんて」

 奥へ逃げ込んだまま震えているが、高価な買い付けをしたのはローレンだ。あちらでその情報が漏れて狙われているのだろう。


 というのが表向きの私の見解だ。


 まあ嘆きたくなるのはわかる。行きには一度魔物に遭遇した程度だ。根城としているクロツルバミの迷宮都市と、港町シウォールの間は比較的平地で待ち伏せされるような場所もない。ワラン商会の荷馬車の護衛は今回で五度目だが、こんなに頻繁に盗賊に狙われるようなことはなかった。

 かなり楽な護衛依頼なはずだった。


「余計なものを持ち帰ったんんじゃないの?」

 私の問いに少し不安な表情を見せたローレンだが、首を振る。


「少し高価だっただけだよ。とてつもなく希少なものでもない。ただ、迷宮都市では需要があるからね」

「護衛も増やしたし、って?」

 私の台詞に彼は口をつぐんだ。


 本来護衛は私とクロウ、そしてワラン商会専属であるフルムの三人だけだった。それが荷物が高価になったからと二人の冒険者を追加して雇い入れたのだ。

 弓師のハリルはまだいい。腕も判断力もなかなかだと思う。

 問題はもう一人の剣士、スルシュだ。

 今年で十六らしく、十三になったばかりの私の何が珍しいのか、道中ずっと飽きずに話しかけてきた。口はよく動くくせに戦闘のセンスはからっきし。まだカナンの方が動ける。筋肉はついているし、足も遅くない。体力もあるのだが、襲われたときの動き方がなっていない。


 彼のせいで高い〈治癒〉の呪符を二つとも使う羽目になった。

 使い物にならない冒険者は置いていけばいい。まあ荷台に載せて迷宮都市まで運んでやるのはいい。なぜ私とクロウのために作った緊急用の〈治癒〉の呪符を使ってやらなければならないのか。


 ローレンが、可哀想だ、それも護衛任務中の経費として構わないと言い、ハリルに懇願され、フルムにも頼まれ……クロウが負けた。根が優しい。私だけだったら〈治癒〉の呪符があるということすら言っていない。


 まじない師は呪符がすべてだ。呪符のないまじない師は、ただのでくの坊だ。

 石橋を叩いて叩いてたたき割る寸前まで慎重にしていたいカナンにとって、〈治癒〉の呪符がなくなってしまったことはかなりの不安材料だ。

 早く迷宮都市に帰りたい。


 そう思っていたのにまた盗賊に襲われたのだ。


 ため息を吐いて腕に嵌めた〈探知〉の魔導具に魔力を込める。先ほどから〈火球〉の攻撃が止んでいる。クロウがあちらに到達したのだろう。あれだけ遠くから攻撃していたまじない師だ。近接に強いならばそばに来て目標をしっかり捕らえて呪符を使う。実際私ならそうする。攻撃の呪符は魔力を継続して流し込む必要はないのだから。


 荷馬車近くの残りの敵が三人になり、丘の向こうに二人、だったはずだ。丘の向こうには二人。そのうちの一つはクロウだとわかる。すでに一人始末したのだろう。これは私が長く一緒に行動しているから、一人がクロウだとわかるだけ。


 問題はこちらだ。

 なぜか六人いる。

 クロウは三人に減ったからと駆けていった。

 一人が一人と対面していたら、確かに六人。だが、フルムは強い。これだけの時間で一対一で倒しきっていないのか? となると、相手がとことん強いか。


 馬への脅威は去ったと見て、私は発動中の呪符を握りしめて荷台から飛び降りた。〈防護〉は留まって使うタイプの呪符だが、動いたからといって守りがゼロになるわけではなかった。


 そして、現れた光景に全身の血が沸き立つ。

 フルムが相手している男は片手に呪符を握っている。多分あれは〈身体強化〉だ。それではいくら強くてもフルムもかかりきりになる。〈身体強化〉の呪符が使える剣士はまれだ。反動はキツイし、普段から慣れていないといけない。そして、無駄に慣れさせることができるほど、呪符は安くない。

 弓師ではあるが剣も使うハリルが一人を相手し、スルシュが残りの一人に追い詰められていた。


 握りしめていた〈防護〉の呪符を捨て腰の剣を抜き、尻餅をついているスルシュと敵の間に割って入る。

 剣と剣が噛み合う。


「スルシュ、立て!」

 相手は体つきのいい男だ。私では力押しで負ける。


「スルシュっ!」

 立って加勢しろ。動け! せめて移動してくれ。

 後ろにいてはこの受け止めた剣を流していなすこともできない。邪魔だ。


 そんな苛立ちを込めて呼びかける。


『ぜーんぶ始末しちまえばいいのに』

 突然耳元で若い、変声期前の男の子の声が響いた。


『できるだろう? 一瞬だ』

『うるさい、黙ってて』

 心の中で返事をすると、それはヒヒヒと笑った。


『こいつら全部始末して、記憶を消しちまえばいいんだ』

『うるさい! 集中できない。黙れ』

 手がしびれている。

 大の男の腕力に敵うはずがないのだ。


『遠慮するなよ、カナン。俺に記憶を渡せば全部始末してやるよ。記憶を燃やそう、カナン』

『そんなことをしたらまた移動だ。せっかく落ち着いてきたのに、また逃げ出さなくちゃいけなくなる!』

 黙れと命じ、私の中から追い出す。


「スルシュっ!」

 切羽詰まった私の呼びかけに、彼は慌てて横へ転がり立ち上がる。

 そのとき、左足に痛みが走った。

 何が起こったのか一瞬わからなかった。


 まさか、まさか仲間の剣で切られるなんて思ってもみなかった。


「ああっ!」

 後ろでスルシュの口から悲鳴が漏れる。

 ギリギリで耐えていた相手の剣が滑るように眼前に迫った。足を踏みしめていられず身体が傾ぐ。


 だが、血反吐を吐いたのは目の前の男だった。もつれ込むように倒れ、男の身体が私に覆い被さる。なんとか相手の剣だけは避けて、それでも重くて足が痛んで目尻に涙が溜まる。


「カナン!」

 真剣な表情のクロウに、私の罵声が飛んだ。


「クッッソ野郎めっ!」

 男の下敷きになったまま周囲に目を走らせるとハリルとフルムもこちらへ駆けてきていた。それぞれ相手は始末したようだ。とりあえず目の前の脅威は去った。


 身体の力が抜けていくと同時に痛みと重みに苦しむ。


「助けてクロウ」

「……俺はクソ野郎か」

「はっ!? 違う、クロウのことじゃない! いいから、早く、このおっさん重い」

 身体が大きく鍛えている男はとにかく重量がある。筋肉分が加算されるし、十三才で成長期な私は完全に潰されているのだ。後ろからクロウの剣に貫かれて絶命して、血がたくさん流れている。お願いだから早く助けてくれ。


 落ち込みながらもクロウは男に手をかけ、私の上から移動させた。手を差し伸べて立たせようとしてくれるが、無理だった。


「立てない」

 そう、クソ野郎はスルシュだ。後ろから移動するとき、手に持っていた剣で私の足をえぐった。


 その有様にクロウが目を見開いて荷馬車へ駆ける。

 〈治癒〉の呪符があれば治るのに、こんなときのための私の〈治癒〉の呪符だったのに。

 苛立ちを顔に出さずにはいられなかった。

 水袋を持ったクロウが私の前にひざまずき、容赦なくズボンを破いて傷口を露わにする。


「かなりひどいな」

「痛み止め、先にくれ」

 叫び、暴れたいほど痛い。ここに水を掛けられるのが本当に嫌だが、早く手当をしなければ傷口が化膿する。


 自分の鞄から取り出してもいいが、景気よく心臓を貫き、抜いたせいで私は血まみれだった。手も真っ赤に染まっている。これで鞄の中まで汚したくない。何も触りたくない。

 両手を上に向けている私の意図はわかったのだろう。クロウが自分の鞄から丸薬をとりだし、私の口元に持ってくる。それを噛みつくようにもらってまた口を開けたところに水袋から水が注がれた。


 薬が効くまで待っているわけもなく、そのまま水が傷口に注がれる。必死で耐えるが、うめき声が漏れた。


「カナンはどうだ? ……深いな」

 横から覗き込んできたフルムが言うと、クロウは頷いて傷口の上に血止めの薬をべったりと塗り込む。それがまたしみて拳で地面を殴る。


 〈治癒〉さえあれば。


 言ってやりたいが、それを出してしまえばあとは暴言しか吐かなくなるとわかっているのでただひたすら口を閉じて耐える。左足の太ももまでしびれがくるほど痛い。

 慣れた手つきで布を巻いて、とりあえずの手当を終える。そのままクロウが私を抱きかかえた。


「荷台で座っていろ。眠るか?」

 さらに薬を追加するかと聞かれるが首を振った。


「定期的に〈探知〉をかけないといけないし、いい。もう少ししたら薬が効く」

「この有様だ。無理やりでも今日中に門をくぐろう。首級を取ったら急いで出発するぞ」

 フルムの台詞にクロウは頷き、私は荷馬車の後ろに放り込まれた。


 目の端にチラチラと映るスルシュの罪悪感にまみれた顔を見ないようにと、私は荷の隙間で身体を丸めた。

ということで、ハイファンタジー帰ってまいりました。

また書きたいことをたらたらと好きなように書こうと思います。

ただ今回はチャレンジします。

章を!!! 作るっ!!


各章のボリュームがまちまちになる恥ずかしい事態になるか、上手いこと同じくらいの文字数話数でまとめられるか、こうご期待。多分無理ぃ!!


今回は章を丸々書き終わったら次の章を公開するとうやり方でやっていこうと思います。

クロツルバミの章は終わっております。次も書き始めたところです。

毎日更新になると思います。たぶん。気が変わらなければ!

まったりのんびりお付き合いいただけると嬉しいです。


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