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第四十八話


「ば、馬鹿な……! なんなのだあの空中要塞は!? あのような超兵器が存在するなど、聞いたことも……っ!」


 その出現に驚愕したのはバロアだけではない。

 突然の襲撃によって逃げ惑う人々も、レースを一目見ようとレジェールを訪れた大勢の観光者達も。

 

 空を引き裂いて現れた巨大な浮遊要塞の圧倒的な姿に、恐怖と絶望とで言葉を失い、がっくりとその場に膝を突く。そして――。


『――聞こえるか。世界の真実から目を背け、邪悪に加担するレジェールの愚民どもよ。我らの名は〝虚空の騎士団(ヴォイドオーダー)〟今こそ、我らが掲げる真の正義によって裁きを受ける時が来た。惰弱な主君と共に、この世から消え去るがいい!』


「虚空の騎士団だと……ッ!? いったい、何が目的でレジェールを……!!」


 現れた要塞から響く身勝手な名乗りに、バロアは憤怒の形相で拳を握り締める。

 だがその声がはるか上空の要塞に届くはずはない。

 虚空の騎士団は、無慈悲に要塞の下部に備わる射出口を開放。

 そこから次々と純白のフェザーシップと、繋がれた人型機械を射出する。


『抗うな。滅びを受け入れろ。なにも出来ぬままこの空に還れ。それこそ、我らが主が愚かな貴様達に望む唯一の願いよ!』


「へーそーですか! だったら、その主さんにはこう言っておいて下さい!!」


「二度と私達のレジェールに!!」


「手を出すんじゃねぇってなああッ!!」


 だがその時。


 浮遊要塞から発進した騎士団側フェザーシップが、横合いからの機銃斉射で一斉に爆散。

 輸送中の人型機械も誘爆し、次々と内部からパイロットらしき甲冑姿の者達が脱出。

 一拍遅れ、レジェール上空に無数の爆炎の華を咲かせた。


「あれはレディスカーレット……! ひ、姫様ぁっ!!」


「よし! よくぞ戻ってきた、リゼット!!」


『ほう……レースなどという下らぬ遊戯にかまけていたハエ共が、まさか本気で我が要塞に挑むつもりか?』


 現れたのは、リゼットの乗るレディスカーレットを先頭にしたレース参加者達のフェザーシップ部隊。

 総計200機にも達しようかという空の大編隊が、レジェールに迫る危機を救うべく帰還した。


「もちろんそのつもりです! そっちこそ、余裕ぶっこいてられるのも今のうちですよっ!!」


「途中の補給地点で換装もしてきたから、ちょっと遅くなっちゃったわね。けど……その分徹底的に暴れさせてもらうわよ!!」


「それにな……てめぇらを許せねえのは俺達だけじゃねぇ。年に一度の晴れ舞台を潰された、世界中のエースがぶちギレてんだよッ!!」


「そ、そうですっ! ぼ、ぼぼ……僕だって怒ってるんですからねっ!!」


 レジェールを救うべく現れた、個性豊かなフェザーシップ編隊。

 そこにはリゼットやココノ、ユウキやフェリックスのチームドラゴンのメンバーを初め、チームハッピーフェザーといった名のあるエース達が一機も欠けることなく集結。


 事前の打ち合わせもなにもないにも関わらず、エース達は次々と息の合った機動で細かな小隊に分散。

 市街地に降下して街を襲う機械兵を颯爽と狙撃し、襲いかかる騎士団機を手玉にとって撃破する。


『フン……どうやらただの雑魚とは違うらしい。だがそれも所詮、フェザーシップなどというガラクタ同士の戦いに限ったこと。我ら騎士団の力は、貴様らの想像など及ばぬ領域にあると知るがいい!!』


 だがその時、レジェールの空を塞ぐ空中要塞が変形。

 要塞本体と繋がっていた外周部分が、突如として細かい正方形の金属片に分裂し、翼を伸ばして飛行を開始。


 それまでのフェザーシップとは比べものにならない驚異的な飛行性能で、エース達の機体に襲いかかる。


「なかなか速い……! でも――!!」


 迫る異形の飛行兵器。


 しかしリゼットは恐れず突撃。


 前後左右から迫る騎士団機を上下に大きく振り回して軌道を乱し、さらには覚醒した空の道で運動エネルギーを掌握。

 見ている敵も味方も何故そうなったのかもわからないままに敵機の背後を取り、一瞬にして3機を叩き落とす。


「どうですっ! 性能差だけで落とされるほど、私は甘くないですよ!!」


 そう言い放ち、リゼット率いるチームドラゴンはなおも優勢。

 しかし周囲の空を見回せば、現れた正方形の異形兵器に味方エース達は苦戦を強いられ、黒煙を上げて撃墜される機体も出始めていた。


「まずいわリゼット! こいつら、私達は何とかできても――!」


「そ、それに数も多くてっ! ぼ、僕……こんな大空戦初めてで――っ!」


「たしかに、このままじゃじり貧ですね……なら、先に本体を叩いちゃいましょう!」


「異議なしだ! そうと決まれば、さっさとぶちかましてやろうぜ!」 


 数、性能ともに自軍を上回る騎士団の戦力に対し、リゼットは市街地の掃討があらかた完了したのを見届けると同時に作戦を変更。

 

 チームドラゴンのメンバーと編隊を組んで、市街地上空をぐるりと旋回。

 加速上昇して空中要塞の上部――いくつもの尖塔と高射砲が並ぶ城塞部分へと接近戦をしかける。


「先頭は私が! みんな、私の道から絶対に外れないで!!」


「あれは……? チームドラゴンの奴ら、仕掛けるつもりだな!」


「だったら後ろは俺達に任せておけ! 誰が相手だろうと、お前達の背後を取らせたりはしない!」


 要塞上空に飛翔したチームドラゴンを見て、チームハッピーフェザーの面々もすぐさま後方支援に回る。

 背後を気にしなくてよくなったリゼット達は、ただ前だけを見て加速。


 行く手を阻む敵機を邪魔だとばかり撃ち抜き爆散させながら、一気に要塞上部の施設地帯に接近。


 同時に空中要塞から凄まじい数の高射砲が放たれるが、リゼットはすでに空の道を発動している。

 高射砲の銃口が補正される際の気流の乱れすらすべて視認し、迫り来る弾丸を全て――しかも後続のココノ達の安全まで確保して軌道を読み切る。そして――。


「見つけた――!」


 凄まじい速度で景色が後方に流れていく。

 しかし空の道を発動したリゼットには、灰色の世界と風しか見えていない。


 そしてその灰色の視界の先。

 

 リゼットの瞳は、要塞の奥にある金属製の建物――大量の大気を要塞内部に取り込む〝巨大な吸気口〟を発見する。


「これでとどめです! ロケット弾、発射――!」


 リゼットの狙いは正しい。

 たとえこの空中要塞が、未知の技術を用いていたとしても。

 フェザーシップを運用している時点で、技術全てがリゼット達と異なっているわけではない。


 そしてそうであれば、その動力には必ず浮遊石を反応させるための大気が必要となる。

 

 そう読んだリゼットは、初めからこの大気吸入口を潰すために突撃をしかけていた。だが――。


『ククッ……馬鹿め、まんまと我らの策に嵌まりおって。そのまま我が手中に墜ちるがよい!!』


「直撃っ……!? 私が――!?」


「リゼット!?」


 だがしかし。

 レディスカーレットのロケット弾が発射されることはなかった。


 リゼットにだけ見える空の道。

 その灰色の視界の外から、閃光と共に放たれた〝黒い雷撃〟。


 それはレディスカーレットの尾翼部分を一撃で吹き飛ばし、制御を失った機体はそのままきりもみとなって落下。

 

 主であるリゼットを乗せたまま、黒煙の尾を引いて広大な要塞内部へと消えていった――。


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