第三十七話
『うほん、おほん……よーし、それでは只今よりレジェールチャンピオンシップを開幕する! 空を愛する全ての者に、幸運と栄光があらんことを!!』
まだ子供と言える年頃より空を駆け巡り、当時の世界地図を大いに塗り替えた冒険王、ガイガレオン・エアハート・レジェール。
偉大なる国王の挨拶を合図に、レジェールの青空にいくつもの空砲の音が響く。
編隊を組んだフェザーシップが空を横切り、虹色の尾を引いて空を駆ける。
そしてそれを見た人々は一斉に大歓声を上げ、ついに迎えた世界最大規模のエアレース――〝レジェールチャンピオンシップ〟の開幕を、大小様々な旗や花飾りを振って喜んだ。
「うおー! ついにこの日が来たぞアズレル! これまで俺達は一度も参加出来なかったが、今年はなぜか出てもいいらしい! しかも出場の許可を出してくれたのは、〝あの宰相殿〟だというではないか! ありがとう宰相殿!」
そしてその会場の外れ。
大勢の参加者が愛機と共に集まる広大な待機場で、ルカはやる気満々といった様子でその拳をぎりぎりと握り締めていた。
「そうなんですよねぇ……けど、この前のクリムゾンフリートとの戦いから一ヶ月しか経ってないのに、あのバロアがいきなりルカを認めたりするなんて……そんなことあるんでしょうか?」
「もし優勝したら、おいしいお肉をお腹いっぱい食べられるんだよねー!? だったらボクもやる気出しちゃうかもー!」
「うむ! リゼットの心配ももっともだが、今回ばかりは俺とアズレルのここ最近の頑張りを認めてくれたのだと思いたいな!」
今、リゼットの愛機レディスカーレットの整備用テントの下には、アズレル用の水桶とエサ桶も並べられている。
ルカの言うとおり、これまでこのレジェールチャンピオンシップに竜騎士は参加出来なかった。
先代であるルミナですらそうだったレースの参加条件を、今大会ではなぜかドラゴン嫌いのバロアが率先して改訂。
飛行士も竜騎士も共に空を愛する者であるという理由で、初めて竜騎士にも参加が認められた。そして――。
「やる気があるのはいいけど、頑張りすぎて悪目立ちしないように気をつけなさいよ? レースでいい成績を残すことはもちろん大事だけど、あんた達の場合はそれ以上に安全! 安心! ドラゴンは友達! って、ちゃんとみんなに分かって貰うのが大切なの。そのための作戦は私とリゼットで考えてきたから、後はあんた達の頑張り次第よ!」
「むふふ……ルカがレースに出るって聞いて、ココノも私と一緒にたくさん準備してくれたんですよ。私はもっとレース重視でもいいかなって思ってたんですけど、ココノがそれじゃだめって言ってくれたんですっ」
「つまり〝竜騎士のイメージ戦略〟というわけだな。なんというか、ココノには出会ってからずっと助けられてばかりな気がするな……いつもありがとう、ココノ」
「うぐ……っ! べ、別に……こんなの誰でも気がつくことでしょ!? それと、ルカはなんかムカつくから爽やかにありがとって言うの禁止!!」
「なぜだ!?」
「あ、ルカさーん! お待たせしました!」
「おう、やっぱこの会場にアズレルが居座ってるとインパクトがエグいな。今日はよろしく頼むぜ」
すでにリゼットのテントに集まっていたココノに続き、フェリックスとユウキもルカの元にやってくる。
そして彼らがたった今かわたした挨拶はレースを競い合うライバルとしての挨拶でもあり、同じ〝チームメンバーとして共に戦う仲間〟としての挨拶でもあった。
「ではでは! 皆さんも来たことですし、〝今回の三つのレース〟について再確認しましょうか!」
「えー? 三つもあるのー? ボクそんなのきいてなーい!」
「昨日も話したし今朝も話したのだが!? まさか一つも聞いてなかったのか!?」
「ま、まあそうね……じゃあ今から説明するから、アズレルさんも覚えておいて。まず、今日開催されるのは三つの種目のうちの二つ……飛行技術の美しさと正確さを競うエアロダンスと、それぞれがチームに分かれて特殊な模擬戦を行う、チームフラッグスよ」
「エアロダンスは個人戦ですけど、チームフラッグスは私達みんなで出るんです。なのでこうして、フェリックスさんやユウキさんにも来て貰ったってわけですね」
「リゼットさんやユウキさんと同じチームに、僕なんかが入っていいのかなって少し悩んだんですけど……ルカさんと一緒に飛べるなら、精一杯頑張りますっ!」
「姫様だのココノだのがいて、しかも今回はルカまで同じチームなんだろ? 対戦相手に同情したくなるぜ」
「子供の頃から憧れていたチャンピオンシップの晴れ舞台……! 俺もそれに出場できると思うと、どきどきわくわくが止まらん! ありがとう、みんな!!」
初出場となるレースの高揚感に打ち震えながら、ルカは集まってくれた仲間達の姿に感謝の涙をだばだばと零した――。
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「――で、どうして閣下自らレジェールに来たんです。突然こんなことをして……今頃連合は大騒ぎになっているのでは?」
「へーき。追いかけてきたら全員粛正って手紙に書いておいたから」
「しゅ、粛正……」
「それに理由ならもう話したよ。竜騎士に会って、レジェールのエースに会って、レースに出るんだ」
ここは、レジェール王城からほど近い宰相バロアの邸宅。
その邸宅の広々とした廊下を並んで歩くのは、古物商のフィンを名乗る連合の最高技術責任者フィンケルと、漆黒のフェザーシップのパイロット、ゼファーだ。
「念のためもう一度確認しておきますが……レジェールの宰相は、閣下のお顔を知らないのですね?」
「たぶん……っていうか、〝連合のみんなだって知らない〟よ」
「では宰相には、閣下は私が招いた連合のトップエースだと紹介します。宰相側は今回のレースで〝竜騎士の評判失墜〟を、そして我々は、対竜騎士用決戦兵器であるレヴナントの性能テストを……双方の利害の一致が、今回の作戦が実行に移された背景に――」
「へー……」
「ま、まあ後は適当にお願いします……(全然興味なさそう……)」
今にもばったりと倒れて床で眠り始めそうなゼファーに首を振りつつ、フィンは目の前に現れた立派な扉を三度ノックする。
「どうぞ、開いている! 気兼ねなく入ってくれたまえ!」
「連合のフィンケルです。失礼しますよ」
「おお、貴方が連合のフィンケル博士ですか! 初めまして、私がレジェール王国の宰相バロア・オクムスタンです。憎き竜騎士打倒のため、連合と手を携えられることを光栄に思いますよ!」
「ええ、ええ。こちらこそ、今回はよろしくお願いします。フフ……」
ゆっくりと扉を開いて室内へ入ったフィンは、そこで笑みを浮かべて立ち上がった部屋の主、宰相バロアに向かって貼り付けたような胡散臭い笑みを浮かべた――。
Eighth flight
――
レジェールチャンピオンシップ




