15、少女の期待と裏切り
平安時代の中流貴族・下級貴族の生活について詳しくはありませんので、想像で書いているところがあります。ご了承ください。
また、いつもよりやや長めになっております。
「晴明様、何故ここに……。」
不思議だった。何故晴明様が私の家の前にいるのか。
今家で起こっていることは母を見てくれた陰陽師のみしか知らぬはず。
父は、周囲に漏れぬように気を使っていたはずだ。
父は世間体を気にしていたが、母のためにはよい陰陽師に祓ってもらうことが必要なのではないかと思っていた私は少し不服だった。
父が連れてきた陰陽師を疑うわけではない。しかし、晴明様なら。彼なら母を助けられるかもしれない。
そう思ったから、私は家を出た。
15、少女の期待と裏切り
「晴明様…。」
彼の名前を呼ぶと、なんだか気持ちがそわそわし始めた。
会いたかった。とても会いたかった。母のためでもあるが、自分のためにも。
「姫、屋敷の中に入れていただけますか?」
こくりと頷くと、市女笠が大きく揺れた。
私は晴明様に母の状態について話ながら奥へ進もうとした。上流階級の貴族の妻は、夫以外の男性と簡単に言葉を交わしたりすることはできない。しかし中流階級の我が家では、そうはいかない。使用人はそよのみであるし、上流階級のようなことを行っていては生活が成り立たない。そのため貴族とはいえども、下から数えたほうが早い貴族の女性は顔は隠すものの、生活は普通に行っている。
屋敷の中に入ると、晴明様は眉をひそめた。
一度瞳を閉じたと思うとすっと庭のほうへ向かう。
「晴明様、母は…晴明様?」
私が追いつくことができないまま、晴明様は庭まで来た。
そして庭につながる階段の下にいる猫を捕まえる。猫はいきなりのことでびっくりしたのだろう、わーっと暴れて逃げ惑う。晴明様がぶつぶつと呟く。すると、猫はとたんにおとなしくなり動きを止めた。
「晴明様…?」
「菅原家の皆さまに凶事が続いた原因はこやつでしょう。」
「それは、最近住み着いた猫にございます…。」
「猫の姿をしていますが、これは妖の類のものです。最近都によく住み着くようになりまして。この妖が住み着いた家は必ずといっていいほど凶事が重なるのですよ。」
「定。」
『はい。』
私の後ろから返事が聞こえる。
「これを。」
晴明様がすっと猫を前に差し出すと猫は晴明様の手から離れ、宙に浮いたまま離れていく。
「定さんも、いらっしゃったのですね。」
姿は見えないが、定が猫をこの家から出してくれようとしているのだろう。
猫が宙に浮き、そのまま離れていく姿はなかなか不思議だった。目を離せないでいると、ふっと晴明様が笑った。
「定はずっと姫と一緒にいましたよ。」
「えっ?」
晴明様を振り返ると、晴明様はほほ笑んでいた。
「定は先日私の家に来られた際、あなたとともに私のもとを離れたのです。」
声が聞こえるだけで気配なんてわからないし、ましてや声など聞こえもしない。
定がいることなんて、声が聞こえなければ気付くはずがないこと。
「それは…。」
何故と問う。
「先日いらしたときより、良くないものを背負われていた。それをむやみにお伝えしても怖がらせてしまう。そのためあえてお伝えしませんでした。しかし、気がかりでしたから定を。定が伝えてくれたのですよ、姫がお辛らそうだと。」
だから晴明様は私の家に来られていた。
「熱があられるとか。養生なさいませ。」
そう言って、晴明様は踵を返す。
「ありがとうございました!」
晴明様の背中に私は伝える。
そして、晴明様の不思議な行動全てがつながって、私は気付いてしまった。
「晴明様、一つお聞きしてよろしいですか?…先日、また訪ねて良いと言われたのは…もしや…。」
晴明様は振り向くと不思議そうに答えられた。
「姫に何かしら良くないことが起きるのは予感していましたから。そうするとまた近いうちに来られるだろうと思ったのです。姫は、訪ねては来られませんでしたが。」
そして、ゆっくり私にあいさつをすると今度こそ止まることなく屋敷を後にされた。




