それでオレの、何が必要なの?
「それで、ラピスたちはオレの、何が必要なの?」
わざわざオークションで競り落としたうえ、この好待遇だ。なんのメリットもなく、こんなことをするはずがない。
ヴェールに覆われた顔を、じっと見上げる。相変わらず顔は見えないが、その向こうからの視線が、浅緋を貫くのを感じる。
「知識だ」
「知識?」
「ああ。先程の痣の件でもわかるだろう。我々は異世界人について何も知らない。異世界人が何を知っていて、どんな能力を持っているのか」
「確かに……」
痣を見た途端に死ぬのかと心配されたことを思い出して、頷く。マーシュ人は想像以上に、浅緋の常識が通用しないようだった。
「でもオレ、別に勇者の人のことを知ってるわけじゃないよ?」
「構わん。そもそも、勇者以外の異世界人と接触できただけでも大きな成果だ」
「ならいいけど……」
別に断る理由もない。大人しく引き受けようかと思ったが、ふと気になったことがあった。
「……ちなみに、これさ、もし断ったらどうなるの?」
「この国で保護することはできなくなるが、安全に配慮して国外に逃がすと約束しよう」
思ったより穏当な答えに安堵したのもつかの間、ラピスが「ただ」と続ける。
「国外に出たあとのことは保証出来ない。まあ、野生動物か野盗はうろついているだろうが」
「……それってもう、脅しじゃない?」
「む……それもそうか?」
自分で言っておきながら、ラピスが首を傾げる。どうやら本当に脅しのつもりがなかったらしいその様子に、思わず笑いが漏れる。
この人は多分、まっすぐな人なんだ。常識はちょっと……いや、だいぶ通じないけど。
「わかった、オレで良ければ協力するよ」
頷いて、右手を差し出す。ラピスは不思議そうに浅緋の手を見下ろしていた。
「あれ? ごめん、握手の文化とかないのかな」
不安になってラピスの顔を見上げると、ラピスは我に返ったように「あ、ああ……」と声を上げた。
「いや、文化としてはある。悪かった。誰かと握手するなど、経験がなくてな」
ラピスがおずおずと浅緋の右手に触れる。その手をぎゅっと握ると、ラピスがそっと握り返してくる。
角張った、大きな手だ。そして、あたたかい、確かに生きている人間の手だった。
「改めて、よろしく。ラピス」
「ああ。よろしく、浅緋」
やっぱり、と浅緋は思う。
やっぱり、もしもオレが勇者なら、ラピスを殺すことなんて、絶対にできない。




