第35話 自己嫌悪
シェイラが去り、クララとリリは震えあがっている。
ジョナルド卿は、茫然としていた。
「何やっているんですか、ジョナルド卿」
ドアの向こうにいたジェーンが、中に入ってきてジョナルド卿に言った。
「やはり、シェイラは強い女性だ…」
ジョナルド卿が、感心したように言った。
「だから、何やってるんですかと言っているのです」
ジェーンが、溜息をついて言った。
「どういう事だ?」
ジョナルド卿は、目を丸くする。
「あれは、相当凹んでいますね。すぐに行って下さい。お嬢様は、あんな事を続けて言えるほど冷たいわけでも心が強い人間でもありません。むしろ弱いから怒りを暴走させてしまったんです。そして、自分のやった事に耐えられなくなってしまうんです」
ジェーンが説明する。
「分かった、ありがとう」
ジョナルド卿は、一瞬考え、そしてシェイラの元に向かった。
「シェイラ!…さん」
寝室で、ベッドに顔を突っ伏して泣く私の元に、ジョナルド様がやってきた。
「シェイラさんって何よ!私の事、嫌いなの!?」
私は、そう言って泣いた。
「いや、君が、さんを付けろって」
旦那様が、口ごもる。
「そんなの、場の勢いよ。本気にしないでぇ」
私は、涙が止まらない。
「どうせ、あなたも私の事が嫌いになったんでしょう?私は、メイドの二人に冷たい事を言った。実の父にも、ひどい言い方を…。それを見て幻滅したんでしょう?でも、仕方ないじゃない。メイドの二人は、あなたの妾候補として送り込まれた!実の父は長い間、母を傷つけたのよ!!」
私は、感情を爆発させた。
「君は何も悪くない。そう思って当然だ。全て悪いのは私だ。君を悲しませてしまった」
旦那様は、私をしっかり抱きしめた。
「私、こんな女でいたくない。行き場のないメイド達には優しくしたいし、実の父も家族としては無理だけど仕事上は上手くやりたい…」
私は、旦那様の胸の中で呟いた。
「ああ、君なら出来るよ」
旦那様が、私の耳元で言った。
しばらくして、私はジョナルド様の腕に抱きついたまま、二人の新しいメイドとジェーンのところに戻った。
クララとリリは、私達の様子を見て、何かを察して残念そうな顔をした。
「これは、あれしたわね」
「ジョナルド様、私、悲しいです…」
クララとリリが、そう呟く。
「クララ、リリ、さきほどは、ごめんなさい。旦那様に手を出しさえしなければ、何も言わないわ。これからは、仲良くしてくださる?」
シェイラは、二人に言った。
「もちろんで、ございます」
クララが頭を下げて言った。
「よろしくお願いします」
リリも、頭を下げる。
「ジェーン、二人の事は、あなたに任せます。色々教えてやって」
私は、ジェーンに言う。
「はい、かしこまりました」
ジェーンは珍しく、にっこり笑って言った。
その後、ジョナルド様が、元気の無いジャックを連れてきた。
「先ほども言いましたが、馴れ馴れしくするのは駄目ですよ」
ジョナルド様が、ジャックに言う。
「あ、ああ、大丈夫だ」
ジャックが背筋を伸ばして答える。
「私事では色々あるが、仕事では上官として、よろしく頼む」
ジャックが、そう私に言った。
「はい、分かりました」
私は、そうとだけ答えた。
「私、頑張ったかな?」
その夜、私は寝室のベッドの上、ジョナルド様の胸の中で、そう言った。
「ああ、君は、素敵な大人の女性だ。そんな君を傷つける様な状況から守れなくて、申し訳なかった。これからも色々あるだろうが、出来るだけ私が君を守ろう」
旦那様の、たくましい腕が私を、ギュッと抱きしめた。
「ごめんね。私も、すぐに興奮するのを我慢出来る様に努力するわ」
私は、言う。
「君の心は、傷つきすぎているだけだ。何も悪い事はしていない。安心しなさい。一緒に乗り越えよう」
旦那様が、そう答える。
「…」
私は、そっと旦那様にキスをした。
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