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「ケインズに当家の騎士の中から専任の護衛をつけたいのだが、王城内ならば従者としてで良いが、任務にも同行するなら、同じく騎士でなければならないだろう。その辺りを、上の方と話したいのだが。」
キースカルク侯爵がそう言ってカルシファー隊長に目を向けた。
「それならば、現在ケインズが所属のトイトニー隊長か、確実に同じ隊にして貰うというなら、団長の許可も必要になるでしょうね。」
そう答えたカルシファー隊長だが、そんなことが可能だとは知らなかった。
「それに、その騎士殿が第二騎士団でやっていけることが最低条件にはなるだろうと思うので、資質などは見られるでしょう。そして一番の問題は、そこまで特別扱いされることを他の騎士達にケインズが納得させられるかですな。」
なるほど、それはその通りだろう。
「それは、サークマイトのことや王女殿下のことが周りに周知されている今、やってしまうべきことだということだな。」
キースカルク侯爵もこちらを見ながらそんな言葉を溢していて、これまた緊張して来る気がした。
「もう誰か候補は決まっているのですかな?」
カルシファー隊長の問いに、キースカルク侯爵は少し考えるような間を置いて、再びこちらを見た。
「まだ決定ではないが、考えている者はいる。ケインズも知っている・・・」
キースカルク侯爵がそこまで話したところで扉を叩く音に遮られた。
それから程なく入って来たのは団長殿下とレイカさんだ。
「クイズナーとはここで出来る話か?」
団長殿下の問いにレイカさんが難しい顔で少し躊躇ってから頷き返していた。
今日はまだ顔を合わせていなかったレイカさんだが、昨日王女宮を訪ねた時見た顔色よりは随分と良いような気がする。
難しい顔をしているが昨日程思い詰めたような雰囲気はない。
ラスファーン王子の容態が落ち着いて来たのだろうか?
「ええ・・・ただ、ケインズさんはともかく、人払いはして貰った方がいいかもしれません。」
そんなレイカさんの言葉が聞こえて、キースカルク侯爵がハッと息を呑んでそちらを振り返った。
「あ、キースカルク侯爵!」
レイカさんもキースカルク侯爵に気付いてこちらに足早にやって来る。
「王女殿下にご挨拶申し上げます。」
恭しく正式な礼を取るキースカルク侯爵は、今回の件でレイカさんへ本格的に敬意を払うことにしたようだ。
「キースカルク侯爵、公式な場以外では畏まらないで下さい。」
少し苦い口調でそう返すレイカさんは居心地が悪そうだ。
「そう仰らないで下さい。当家にとって殿下は幾重にも大きなご恩があるお方です。これよりは最大限の敬意をもってお仕え致します。この場を借りて、レイカルディナ王女殿下にキースカルク侯爵家当主として忠誠を誓います。」
続けて忠誠の言葉を述べたキースカルク侯爵に、レイカさんが戸惑ったような困ったような顔になっている。
「あの、キースカルク侯爵? 忠誠を誓うとか、大袈裟すぎます。それに、感謝の前に聞いて貰いたいこともありますし。」
そう言い訳のように口にするレイカさんに、キースカルク侯爵が目元を緩めて微笑み返している。
「レイカ殿下、こういう時は遠慮は要らないのです。細かな事情は置いておいて、一先ず忠誠をお受け取り頂きたい。」
「ええ?」
レイカさんがキースカルク侯爵の強気の要求に更に及び腰になっている。
「宜しいですか?レイカ殿下。キースカルク侯爵家はこれよりレイカ王女殿下の擁護派閥筆頭として正式に活動を開始致します。何卒、安心して背中をお預け下さいますようお願い申し上げます。」
丁寧な口調なのに、有無を言わさない言葉の中身と侯爵の強い視線に、レイカさんが完全にたじろいでいる。
その様子はちょっと微笑ましくて、つい口元が緩んでしまっていると、ふっとこちらに助けを求めるような目を向けて来たレイカさんがそれに気付いたのか、ムッとジト目に変わった。
「分かりました。キースカルク侯爵の忠誠を受け取ります。その上で、少し折り入って話したいことがあります。」
少し怒ったような口調で話し出したレイカさんだが、すぐに何か難しい顔になってキースカルク侯爵に強い視線を向けた。
その張り詰めたような視線の裏側で、何故かレイカさんが不意に泣き出しそうな気がした。
「承知致しました。場所を移されますか?」
そう問い返したキースカルク侯爵も、レイカさんの微妙に頑なな様子に何かを察したのかもしれない。
そこで室内を見渡したレイカさんは、在室の者達に聞かせて良いか考えたのだろう。
「では、私はここで失礼させて頂きます。」
いち早くカルシファー隊長が言って退室して行く。
今会議室内には王城魔法使いはおらず、キースカルク侯爵とティスティミンくん、カルシファー隊長は去って行ったので、団長殿下とレイカさんに護衛騎士と補佐官コルドール殿だ。
考えが纏まった様子のレイカさんが団長殿下に目を向ける。
「シル兄様も、聞きますか?」
その躊躇いがちな問い掛けは、聞いて貰うべきか迷ったということだろう。
「聞いておこう。それから誰に話すかは私が決めて良いな?」
「・・・まあ、はい。」
歯切れ悪く答えたレイカさんとしては、誰にも漏らして欲しくない話なのかもしれない。
「レイカ・・・頼むから一人で抱え込まないでくれ。何を聞いても悪いようにしないから、少しで良いから私のことを信じてほしい。」
そう眉下がりに言葉にした団長殿下は、恐らくレイカさんとの婚約話が流れてから二人の間に出来た溝を、埋めたいのかもしれない。
「・・・信用していないとか、そんなことは思ってないですよ? そうじゃなくて、当事者でもその家族でもないのに無関係のことに巻き込むのは、気が引けるじゃないですか。世の中、知らない方が良いことなんて幾らでもあるわけだし。」
そんな言葉を返したレイカさんは、自分が団長殿下の妹になった意識がないのだろう。
だから当事者家族でもないなどと言ったのではないかと思うが、案の定団長殿下が微妙な顔になっている。
いつかコルステアくんが王族は親兄弟でも家族の意識が薄いと言っていたが、それでも団長殿下はレイカさんを身の内に入れた家族として扱おうとしているのではないかと思う。
「レイカ、私はお前が関わることに知らなければ良かったと思うことなどない。どれ程何に巻き込まれようとも、仮に不本意な何かを受け入れることになったとしても、兄としてお前を守りたいと思っている。」
団長殿下の心からの真摯な訴えに、レイカさんが戸惑ったように目を泳がせている。
「ならば、こう考えてくれたら良い。レイカが王女としてカダルシウス王家に迎えられることになったのは私の所為だ。だから私には、レイカに降り掛かる災難があれば助けになる義務がある。と、周りを納得させられる。だから、遠慮はするな。」
不思議な話しの流れに目を瞬かせていると、レイカさんが溜息を吐いた。
「周りを納得させられるって、例えばシル兄様の支持派閥の人達をってことですか?」
「そうだ。私の本音を言っただけではレイカはその辺りを心配して遠慮するだろう?」
なるほどという先回りした言葉だったようだ。
が、レイカさんはそれで納得した風ではなかった。
「・・・分かりました。それじゃ、今回は同席して聞いていて下さい。」
それに団長殿下が小さな溜息と共に苦い顔になった。
「これでもダメか。」
ポツリと呟いた言葉はレイカさんにも届いていた筈だが、聞こえなかったふりをしたようだ。
レイカさんはそのまま補佐官とリーベン殿以外の護衛に部屋から出ているように指示していた。
そして、キースカルク侯爵にこっそりと何か相談したようで、侯爵がティスティミンくんも部屋を出ているように言っていた。
そんな厳重な人払いをしてから移動した会議テーブルの周りに防音結界を張り始めたレイカさんにキースカルク侯爵も団長殿下も顔色を変えていた。
それ程、何かとんでもない話題が飛び出して来るようだ。
「魔石なしで、ここまで張れますか。」
キースカルク侯爵が若干引き気味にそう感想を述べていて、それにレイカさんは何でもないように首を傾げていた。
「一時間やそこら、何ともないですよ? 元からこのテーブルには離れる程音が届きにくくなる魔法が仕込まれているので、そこにちょっと強化を掛けただけですから。」
そのさも簡単と言わんばかりの説明に、団長殿下が遠い目になっている。
因みに、何をどうしたのかは自分にも全く分からない。
自分も団長殿下に似た顔をしていたのだろう、何か困ったものでも見るような目をキースカルク侯爵に向けられつつ、侯爵は咳払いをしたようだ。
「さて、そこまで秘匿性の高い本題にお入り頂いても構いませんか?」
無言で頷きつつ賛同する団長殿下に自分も倣っておいた。




