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唐突に登っていた屋根の上から跳躍したと思ったら、通りを走って来る馬の集団の真上を飛び越して通りの向かいに飛び移るようです。
ふわりと浮き上がって途中からやってくる落下に備えていると、足下からキュウッとコルちゃんの啼き声が聞こえて目を凝らしました。
と、飛び越した通りを通過していく馬上からこちらを見上げるケインズさんの姿が見えた気がしました。
まさかと思いましたが、コルちゃんの啼き声とセットならケインズさんご本人の可能性大です。
何が起こっているのか気になりましたが、こちらにはこちらの急ぎの用があります。
全て綺麗に片付けて、後から必ずケインズさんを訪ねようと思います。
ところで、マティスリン子爵邸の場所は把握していないのですが、ジャックは迷う様子もなく一方向を目指して邁進していますね。
最早優秀すぎて怖いくらいです。
途中から王太子の護衛騎士達やカルシファー隊長の隊の人達、第三騎士団の騎士さん達を追い越していったり、その皆さんが追い掛けている様子の魔法使いも追い越して行ったので、方角的には間違いないのでしょう。
後は、間に合うのかです。
アルティミアさんがもう子爵邸に入っているのか、古代魔法陣はもう起動してしまっているのか。
不安要素は満載ですが、進行方向から無視出来ないような魔力が立ち昇っているのが感じられるようになりました。
焦燥で胸が焦げそうになります。
ラストスパートに入ったのか、ジャックの疾走速度が増します。
周りの景色が飛ぶように流れて行くのを横目に、時速何キロでどうやってその速度を出しているのだろうと現実逃避気味に考えてしまいました。
まあ、何か非常識な魔法が使われているのでしょうが、何となく真相は心臓に悪い気がするので追求するのはやめようと思います。
唐突にフワリと上空に飛び上がって、華麗に着地を決めた先は、何処かのお屋敷の庭先でした。
キョロキョロ周りを見渡してみて、ちょっと視線を上げたところで、ゾッとしてしまいました。
庭木の向こうに突き出ている蛇の尻尾のようなものが見えています。
「待って、前準備全くなしで魔物と戦闘とか、無理無理無理むり!」
ここで頼りのジャックに目をやると、縮んだジャックが右足にしがみ付いています。
駄目ですねこれは。
「いやいやいや、これはサイズ的にプチッとされる案件でしょ!」
ここは逃げるに限るってところなんでしょうが、木々の向こうからこちらに蛇の足が伸びて来てうねっている状態です。
豆粒過ぎてこちらのことには気付いていないと良いんですが。
「何を仰っておられるのだか、我が君良いんですか? ほらあの辺り。」
言われた先に目を凝らしてみると、こちらに伸びて来ているのとは別の尻尾に巻き付かれている人の姿がチラッと見えた気がします。
「お友達を見捨てるなんて。」
よよっと泣き崩れるふりをするノワの頭を取り敢えず小突いておきました。
「あれはまさかのアルティミアさんなの? てゆうか、あのバカでかい魔物何?」
「そうですねぇ。ほらあそこ、井戸から顔を出してる丸い頭の8本足。今晩は美味しい無限タ○パが開けますよ?」
そういう冗談は本気でやめて貰いたいです。
そっと木の後ろに隠れつつ井戸に近付いてみることにします。
近寄ると、一部の足がアルティミアさんが捕らわれている足の側をパシパシ叩いているのに気付きました。
「あれって、ヴァイレンさん?」
ラフィツリタでアルティミアさんと出会った時、アルティミアさんの護衛をしていた人ですね。
これで一人で向かって行かなくて良いっていうことで、心理的圧迫感は軽減されましたが。
「これどう見ても参加したところで私邪魔なだけだよね?」
「何を怖気付いているのやら、我が君、実は身体的に無敵ですし、魔法なら援護し放題でしょう?」
そうは言いますが、何回叩き付けられても締め上げられても平気ですって思い込むのは無理がありますよ?
「魔法は、大業だとアルティミアさん巻き込むでしょあれじゃ。」
この状況では本当に無能かもしれません。
「それにほら、足は切っても直ぐに再生されてるじゃない。」
「うーん。再生される度井戸の周りの魔法陣が光ってるので、魔法陣にそういう効果が付与されてるんでしょうね。」
それは、無敵ってことじゃないでしょうか。
「そんな魔物をどうやって倒せと?」
「魔法陣に良く目を凝らして見て下さい。あれは、大元の魔法陣の一部が欠損していたのを、無理矢理復元して復元部分に再生の魔法が付与されたようですよ?」
確かにそんな状態になっているようです。
「それじゃ、復元部分を破壊すれば無敵性は失われると?」
「その可能性が高いのでは? その上、大元の魔法陣を復元すれば、最早魔物は敵ではありませんよ?」
軽くそんなことを言って乗せてくるノワですが、その魔法陣までの道のりですよ。
「で? ノワせんせー、魔法陣まで敵に気付かれずにどうやって近付けと?」
「ほら、我が君には木登り得意で跳躍力のある頼もしい僕がいるではありませんか?」
ウチの魔人様、やはり一度深海に沈めてきてあげた方がいいんじゃないでしょうか?
まあ、こちらに来てから海は見た事ないんですけども。
「いくら死なないと言っても、敵の真上から飛び降りてあのタコ足に引っ叩かれない自信はないんですけど。」
「上空から我が君の魔力を魔法陣に向けて降り注ぐプラス還元魔法で元の魔法陣を修復。これで完璧では?」
簡単に言って下さいますが、魔法陣を復元するのに魔力が足りる保証ってあるんでしょうか?
「却下。ジャックの隠密スキルで木の上にこっそり登る。上から魔法陣の継ぎ足し箇所を確認して投擲系魔法を狙って放つ。これで破壊は可能?」
「投擲物に我が君の魔力が乗っていれば、可能でしょうが、投擲物が魔法で生成されたものの場合は魔力が残留し難いかもしれませんね。」
となると、炎や氷で作った槍とかは不向きということでしょう。
それなら武器に魔力付与した状態で飛ばせばいけるということですね。
「ただし、投擲魔法を放った時点で、こちらの位置は敵にバレるでしょうねぇ。」
確かに。
そもそも戦闘センスとか無に等しいこちらにハードル高過ぎる作戦ですよね?
援軍が来たとしても、このままでは無限再生される足に翻弄される羽目になるはずで、アルティミアさんという人質付きで攻撃魔法も放ち難いですしね。
そんなことをボソボソと相談している内に、タコの口、あれ本当は鼻なんでしたっけ? が屋敷の方に向けられて、墨が吐かれるかと思えば、マグマのような燃え上がる液体が吐き出されました。
途端に屋敷がかなりの勢いで延焼し始めます。
「えっと、あれは先に消火活動すべき?」
「いいえ、この隙に木登りしてしまいましょう!」
何を根拠にと思いましたが、ジャックに抱き付いてするすると登って貰った木の上から、屋敷の敷地内に入って来る魔法使いとそれを追って来た騎士さん達が交戦し始めたのが見えました。
そしてその集団から魔法使い達を躱してこちらに駆け寄って来るのは、バンフィードさんとリーベンさんですね。
いや待って、木登りは控えて貰わないと敵にバレますけど?
「ああもう良いです。木の枝折ってそれに強化魔法コーティングして、風魔法でジャックに飛ばして貰う。」
「・・・ノーコンだからですか?」
本当失礼ですね。
「な、何言ってるの? よりコントロールが良い子に任せるでしょ。適材適所って大事。」
少しだけ目を逸らしつつ手近な枝をポキリと折ります。
「物理強化魔力コーティング」
適当な魔法詠唱をして、ジャックに渡します。
それをシュッと魔法陣の継ぎ足し部分に向けて投げてくれたジャックですが、目を凝らして見ていると、途中でタコ足を貫通しつつ、目的の魔法陣継ぎ足し部分にしっかりグッサリと刺さりました。
そこからピシッという音をさせて継ぎ足し部分の魔法陣が砕けて、魔法陣が放っていた光が消えます。
早速、ヴァイレンさんがタコ足攻撃を避けながら落とした足が再生されないことが確認出来ました。
「ヨシ! やったね!」
ジャックと手を叩いて健闘を称え合ったところで、ギョロリと光るタコの目玉がこちらを捉えました。




