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 呼びに来た団長殿下と共にレイカさんが帰っていくのと入れ替わりに、クイズナー隊長が残ってコルちゃんとメルの様子を見に来た。


 部屋には、自分とクイズナー隊長と残って欲しいと頼まれていた父マーシーズの3人だけになった。


 クイズナー隊長が父を留めた理由は分からなかったが、何か特別な話があるのだろう。


 大人しく側にいるコルちゃんと共にクイズナー隊長に従ってメルの檻の側で見守っていると、クイズナー隊長がこちらを向いた。


「レイカ殿下は何か言っておられたか?」


「はい。魔力回路のことを少し。ただ、コルステアくんと相談してから公表したいというようなことを言っておられました。」


 少し濁した言い方をすると、何か気付いたのかクイズナー隊長がジッとこちらを窺い見ていたように感じた。


「またあの方は、何か見付けて君に口止めまでした訳だね。」


 呆れ混じりに言ったクイズナー隊長には全てお見通しのようだ。


「済みません。レイカ殿下には何かお考えがあるようだったので。」


 言い訳してみると、クイズナー隊長にはふうと溜息を吐かれて、それから改まった顔で真っ直ぐこっちに視線を向けられた。


「ケインズくん、そしてマーシーズ副隊長、いやケインズくんのお父上と呼ぶべきですな。お二人に折り入ってお話があります。」


 少し厳しいような真面目な表情に、緊張して来るような気がした。


「お座りになりますか?」


 この部屋には最低限食事が出来る程度の小さなテーブルと簡易な椅子が3脚ある。


 最近は時折来客があるので、第三騎士団の人に借りて普段は部屋の隅に重ねて置いている。


「そうだね。少し長くなるかもしれない。」


 そう言ったクイズナー隊長は、何かを憂えるような表情だ。


 それを横目に、テーブルを囲むように椅子を用意する。


 適当な配置でそれぞれ座ったところで、クイズナー隊長が少し苦い表情で話し始めた。


「今日ここでお二人に話をすることになったのはシルヴェイン王子殿下からのご命令で、ケインズくんがレイカ殿下とのことを何処まで具体的に考えているのか、そしてお父上のマーシーズ殿がそれをどう思っておられるのかお伺いする為でした。」


 何故クイズナー隊長がと疑問が浮かんだが、そういえば前回の旅の途中でレイカさんが、クイズナー隊長は団長殿下の魔法の先生だったこともあって、私的な面が強い部下なのだと話していたのを思い出した。


「ですがその前に少し、個人的に聞いて貰いたい話があります。」


 そんな前置きを始めたクイズナー隊長に、父と二人真っ直ぐ視線を向けつつ頷き返した。


「ケインズくんは知っていますが、私は長命種です。10歳頃から身体の成長が緩やかになり、歳を重ねてもいつまでも子供の身体のままで、成人と見て貰える外見になるまで、50年程掛かりました。私の両親や兄弟は普通の人達でしたから、年齢的に成人を迎える頃には私のことを持て余すようになりました。」


 何故そんな話を始めたのだろうと首を傾げてしまうが、クイズナー隊長はほろ苦い顔のまま話し続ける。


「幼い頃から魔力量だけは多かった私ですが、実は成人を迎えた頃にはまだ魔法を上手く使い熟せていませんでした。その頃、父の兄弟の子供に同じように身体の成長が遅かった子供がいたと話しているのを耳にしました。私はその従兄弟の大魔法使いタイナーに会いに行き、そして同じく長命種と分かったタイナーから多くの事を学ぶことが出来ました。」


 それなりに重めのその身の上話を、何故今ここで?とやはり疑問符が浮かんだ。


「私とタイナーの両親はどちらも普通の人達で、ただ、共通する父方の先祖にやはり長命の者が居たらしいとタイナーが教えてくれました。つまり、長命種は血筋に受け継がれて時折現れる呪いか祝福なのではないかと思って来ました。」


 成程という話だったが、すっとこちらに視線を向けて来たクイズナー隊長に瞬きを返した。


「レイカ殿下がエダンミールから戻られる際、タイナーを迎えにラフィツリタに寄ったことは知っているね? それは、守護の要修復の為に改めてタイナーの協力を求めてレイカ殿下が自ら説得に行ったのだと。それは、確かに目的の一つだったようなのだが、先日タイナーと会った時にもう一つ妙な話を聞いたんですよ。」


 これには更に目を瞬かせてしまった。


「タイナーによると、それは聞き辛そうに、長命種と普通の寿命の者の恋愛について聞いて来たのだと。つまり、タイナーと彼が内縁の妻と言い張っているエイミアさんのことを、当事者二人に何故か聞き取り調査していたそうだ。それから、タイナーが長命種として生きて来た生い立ちも聞きたがったと。」


 更に訳が分からなくなって首を傾げていると、気付いたクイズナー隊長が苦笑を返して来た。


「それを話してくれたついでに、タイナーがポツリと漏らしたのが、神々の寵児の一部は神殿に入って長い命を過ごす事があると。」


 それにはドキリとしてしまった。


 レイカさんが不在中に、そんな話をフォーラス神官とテンフラム王子がしていたことを思い出した。


「レイカ殿下は、長命だということですか?」


「・・・分からない。タイナーも一時期長命種は神々の寵児に繋がるのではないかと、法則を探そうとしたようだが、寵児も必ずしも長命ではないと分かっただけで。それにどういう訳かそういった寵児や長命種の記録や資料は探しても中々見付からなかったようだ。これは意図的に隠されているのではないかと、タイナーも結局諦めるしかなかったと。」


 これには、何となく生唾を飲み込んでしまった。


「クイズナー隊長の予想は?」


「分からないが、長命種は長命の寵児の子孫に時々現れる特性なのではないかと。ただ、それが何をどう表すのかは全く分からないが。」


 フォーラスさんとテンフラム王子は、レイカさんが長命の可能性があるとは話していたが、長命種の話までは繋げられていなかった。


 正直どう取って良いのか分からない話だった。


「これはあくまで私やタイナーの予測でしかない。ただ、もしもレイカ殿下とのことを本気で考えているなら、頭に入れておいて欲しい。」


 切実な響きの込もったクイズナー隊長の言葉は、彼が苦労した過去を振り返ってのものだろうと思った。


「それは、レイカ殿下が畏れ多くもウチのケインズともし仮に結ばれることになったとして、レイカ殿下と同し早さで歳を重なる事は出来ないかもしれないということと、二人の間に出来る子供もしくは子孫に、長命種が生まれるかもしれないと、そういうことですね?」


 何とも言えずにいる内に、父がそう話を纏めてくれた。


 クイズナー隊長は、複雑そうな顔で頷き返して来た。


「この話は、この場限りのこととして胸に収めて頂けますか? 私もまだシルヴェイン王子殿下にも報告出来ておりませんので。」


 クイズナー隊長が父に向かってそんな口止めをしているのを、何処か現実味がなく聞いていた。


「レイカ殿下が、まだ返事が出来ない、待っていて欲しいという理由は、その辺りにあるんでしょうね。」


「そうなのかもしれないが、それでも上の方々はレイカ殿下の縁談を急いでいる節がある。レイカ殿下は実質婚姻は成立しそうにないラスファーン王子を連れ帰って婚約予定として引き延ばすつもりでいるのだろうが、水面下で間違いなくラスファーン王子を避けた形で婚約者選びは進んでいく筈だ。」


 それもそうだろうと納得出来てしまう。


「今この話を聞かせたばかりで君に決断を促すのは酷だと分かっているが。シルヴェイン殿下としては、もしも本気ならば今から動かなければ間に合わないから、マーシーズ殿も含めて意思確認をと促されたのだと思う。」


 それでも、これまで散々迷って来た自分の気持ちはもう決まっていると言ったら、父はどう言うだろうか。


 チラッと父に目を向けると、難しい顔付きながらも強い目を向けて来た。


「父さんごめん。俺、家を出ようと思います。レイカさんと俺達の未来を守る為に、一番手堅い手段を探そうと思います。」


「分かった。精一杯やれ。家のことは気にしなくて良いが、もしも許されるなら、偶には殿下と一緒に家に寄ってやって欲しい。」


 即行で返って来た父の返事に驚いてしまった。


「今までで一番良い顔をしているお前を止められないだろう? それに、レイカ殿下は様々な意味で得難いお方だ。お前を選んで頂けるなら、お前の父としてこれ程誇らしいことはない。母さんも同じ気持ちだから心配するな。」


 父はもうとっくにこの言葉を用意してくれていたのだと気付いて、目元が潤みそうになった。

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