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「お早うございます!」
元気よく挨拶して入った事務室の奥には、隊長さん方が数人座っているようです。
今日のお手伝いはどなたのでしょうか。
という訳で、ヒヨコちゃんとコルちゃんを連れて、遠慮なく奥に向かう事にします。
と、奥の机に座っている隊長さん達の中から、クイズナー隊長がにっこり笑顔で立ち上がりました。
「やあ、レイカくん。今日は宜しくね。」
ほんわかした口調で挨拶してくれたクイズナー隊長が立った机には、様々な花や緑を茂らせた鉢植えが囲むように置かれていて、癒し空間を体現しているようです。
書きものスペースをかなり圧迫しているように見えますが、クイズナー隊長らしい机空間ですね。
「クイズナー隊長お早うございます! 今日は隊長のお手伝いですか?」
こちらもにこりと答えると、こくこくと頷き返されました。
「今日はね、レイカくんに備品整理手伝って貰おうと思ってるんだ。」
「はい! 頑張りますね。」
レイナードに成り代わってから、何となく所属して言われるまま訓練だの勤務だのをこなしていた訳ですが、第二騎士団の事はほとんど知らないと言ってもいいくらいです。
隊長達のお手伝いをしながら、色んな事を知っていけたらレイカとして出来る事にも気付けるかもしれません。
とにかく、今日も一日頑張ってみようと思います!
という訳で入って行った備品倉庫ですが、物置き部屋に無秩序に所狭しと積み上げられたよくわからないガラクタの山、というのが実情のようです。
「うーん。思ったよりも酷くなってるね〜。去年の大掃除の時に整理させた筈なのにね〜。」
乾いた笑いを浮かべるクイズナー隊長ですが、チラッと覗き見た倉庫内のこれが一年経ってないとは絶対に思えない有様です。
去年の大掃除係は、倉庫を開けてみて即時静かに閉め直したってオチでしょうね。
「まあ、あれだね。倉庫から出しておくようにって指示が忘れられがちだったり、命じても中々帰って来ないのは、このせいだったんだね〜。」
にっこり笑顔で言われましたが、そんな憶測全く嬉しくありません。
「これ、本気でやるとして、何日掛けて終わらせれば良いですか?」
この確認には、クイズナー隊長も困った顔になりました。
「流石にこれは、レイカくん1人には任せられないね。」
「まあそれはそれとして、まずはどう整理するのか決めましょうか。隊長さん達の中で、備品管理の担当の方とか決まってらっしゃるんですか?」
「いや、特には。足りないものがあるって報告があれば、予算を見ながら購入する感じかな。」
「・・・成る程。」
一旦言葉を切ってから考えますよ。
「ええとですね。まず、この倉庫に揃えておきたい備品一覧作りましょうか。あって欲しくてある筈のもの数量も含めて。」
そう言ってみると、クイズナー隊長ちょっと困ったように首を傾げてこちらを見ましたよ。
「うーん、確かにこれをレイカくんに任せようとしたのは悪かったけど。その、いつかは必要な作業だから、現実逃避せずに手伝って欲しいんだけどな。」
そう言い出したクイズナー隊長に、苦笑を返しておきますよ?
「いえ、あのですね。現実逃避じゃなくて、まずはあるべき倉庫の備品を書き出してレイアウト決めます。それから倉庫の中身を引っ張り出して、レイアウト通りに配置します。それからあぶれたものは、本来倉庫にはない筈のものなんですよ。でも、必要で倉庫に入れたいならレイアウトに追加して一覧に書き加えます。そうすると、それ以外は捨てていい物ってことになりませんか? そもそもこの倉庫の中身、壊れて使えないものがそのまま放り込まれていたり、取り敢えず入れされたものがはいってたり、本来必要な備品以外のものがあるからこんな状態になってるんですよ。」
「・・・まあそうだね。つまり、捨てるの勿体無いものが出て来たら、備品一覧に書き加えて収納するってことだね? それでも入り切らなかったら?」
「それは、別の保管場所が必要になるってことです。」
胸を張って言い切ってみせると、クイズナー隊長はふっと微笑みました。
「成る程、レイカくんは面白い子だね。それ、やってみようか?」
分かってもらえて何よりってことで、頷き返しました。
事務室へ戻る道々、相談は続きます。
「ちょっと壊れてるだけで捨てるの勿体無いから、後で直して使おうってものも結構あると思うんだよね。それはどうしようか?」
「あ、それ、私が修復魔法使って直してみましょうか? まだ無機物の修復、多分範囲限定の還元魔法が良いと思うんですけど、やってみた事がないから、丁度いい練習になるし。」
にっこり笑顔で言って見せると、途端にクイズナー隊長の顔が引きつりました。
「ええと。殿下に許可貰っとこうか? 個人的にはレイカくんがその魔法使うところには是非立ち会いたいけどね。」
聖なる魔法は使い惜しみしないと決めたので、特に構造の分かる無機物なら還元魔法も消費は少なくて失敗もないと思うのです。
ですが、シルヴェイン王子には一応報告しておくべきなんでしょうね。
そう話しが決まったところで、事務室に帰り着きました。
と、奥のクイズナー隊長の机に向かおうとしたところ、その席にカルシファー隊長が座っています。
「あれ? カルシファー隊長、癒し空間を求めて他人の席に座ってるんですか?」
ついそう口にしてしまうと、カルシファー隊長が顰めっ面になりました。
「はあ? ここは私の席だが?」
あれ?と思って隣を振り返ると、クイズナー隊長が悪戯っ子のような顔になっていました。
「あはは。時々癒しが欲しくなるとあそこにこっそり座るんだよね。」
「え? 人様の席に?」
あの机がカルシファー隊長のだったことはちょっと驚きでしたが、クイズナー隊長、やはりかなりの曲者じゃないでしょうか。
「レイカくん、こっちね。」
そして、何事もなかったかのように何かよく分からない装置やら書物やらが所狭しと並んでいる机に腰掛けています。
確かに、あの机に住んでると、偶にはカルシファー隊長の机で癒されたくなるかもしれません。
「倉庫終わったら、この机整理しましょうね、クイズナー隊長。」
半眼で強目に言い切って見せると、クイズナー隊長は困った顔になりました。




