67 放課後のお買い物
(略しすぎています)
教室で待ってもらっていたサリア、リナとシルフィアの3人と合流して、学園から近いショッピングモールへとやってきた。このショッピングモールはかなり広く様々なジャンルの店が数多く出店している。食料品から衣料品、雑貨にMSDまでなんでもあり、ここに来ればほしいものが置いているんじゃないかと思えてくるほどだ。
自分を含めたサリアたちの目的は魔物狩り演習でのお泊りセットを用意するための買い物をすることだ。なので、日用品や衣料品が並んでいる区画をメインに回っていた。今は、寝るときに使用する部屋着を求めて、女性用の部屋着専門店にいる。
サリアたちは店に入ると、素早く各々の服を求めて店の中で散り散りとなった。なんでも、魔物狩り演習の時に互いに新調した部屋着をサプライズで見せたいのだとか。分からなくもないが、こういうのってあれやこれやと言いながら選ぶものとばかり思っていたから少し驚いている。
だが、その様な驚きも吹き飛ばす光景が目の前に広がっている。女の子や女性が着る可愛らしい部屋着が所せましと並んでいるのだ。さらに、店に面する通路側のショーケースに展示されている衣服や店の内装はかわいさ重視の雰囲気を作っている。そんな光景は可愛さの暴力となってとてつもない攻撃力とともに自分を襲う。ここに居たら可愛さの暴力で消し炭になるんじゃないかと思うほどだ。
そのような感じなのでこの店に入ってくる男性は当然いるはずもなく、当然のごとく店舗の中には女性しかいない。それは当然なんだが、精神が幼女に染まり切っていない元男子高校生の自分としては精神的孤独と可愛さの暴力で精神HPの低下を感じている。
イベントスタッフのバイトに行ったとき、それが女性向けイベントでバイトスタッフが自分以外女性だった時並みに精神に来る。しかも、男装している女性スタッフ的な感じに受け取られていたからバイト終わるまでトイレに行こうにも行けなかった地獄...。あの時は本当にどうしようかと思ったなぁ(白目)。
だが、今は銀髪ロリエルフで12歳だ。前の世界の事はさておいて、部屋着や寝間着を選ぼう。能力お手製の白ワンピースもいいかもだけど、サリアたちとのお泊りだから何かしらの既製品を身につけておきたいところだ。自分のねらい目は家に来る配達員にも対応できるようなザ・無難。それほど派手ではないが、ほどほどの可愛さを感じられるような部屋着がいいだろう。
店の中をざっと見たところ、店に面する通路側には通常の衣服が置かれ店の奥に進むにつれてフリフリな感じの衣服が増えるような感じにレイアウトされているようだ。となれば、店に面する通路側の方面から選ぶとしよう。
可愛さの暴力に耐えつつも、あれこれと手に取って見ているとそれらしい衣服を見つけた。
「これはいいかも」
手に取ってみたのはオーバーサイズのプリントTシャツと緩めの単色スウェットパンツだ。tシャツの緩めにデフォルトされた猫が描かれているのと、ダボッとしているオーバーサイズが可愛さポイントだ?知らんけど。これならザ・部屋着と言ったところで問題ないだろう。
「自分はこれにするとして、サリアたちはどんなのを選んでるんだろうか」
自分の背と同じくらいの高さのハンガーラックが周りにあるため、背伸びをしてサリアたちがいないか見渡してみた。サリアたちは自分よりも背が高いのでハンガーラックから頭が飛び出て見えるはずだけど、それらしい姿は見えない。
「もしかしてこの店の奥の方かな?」
店の奥に進むとサリアたちの姿が見えた。1人ずつ様子を覗き見した感じ、黙々とどの部屋着を買うか選んでいた。何やら真剣な様子だったので声はかけなかったが、自分とは違って甘い感じの路線で行くらしい。部屋の外に出る気は皆無な感じだな。
「こんな感じが普通なのか...それともサリアたちが特殊なのか...」
女子お泊り会のドレスコードは闇の中で謎に包まれている...。と言うか、知っていたらそれはそれで何かのネジがぶっ飛んでいるような気がするので問題なのだが...。謎を明らかにしようにもクラスの他の女子たちに聞くのも何か違う気がするので迷宮入り確定だろう。
何はともあれ、自分は部屋着候補の1つが決まった。なので、サリアたちが来てもすぐに会計を済ませることができる。つまり今からはフリータイムだ。新たに候補を選んでもいいし、そのまま暇つぶしをしていてもいい時間。真剣に選んでいるサリアたちの様子からだと、まだまだ時間はかかりそうな気配がある。棒立ち虚無フェイスで店の中を突っ立っているのも店の邪魔になるし、この辺の商品でも見てみよう。おしゃれの勉強だ勉強。
そう決めて目の前にある衣服を見ていくことにする。これは部屋着...なのだろうか、寝間着のように思える衣服がハンガーラックに並べられている。そのどれもがフリルやレースがあしらわれており、ガーリーファッションとロリータファッションの中間的なところだろうか。何にせよ、甘さで例えるならば天元突破の胸やけレベルだ。
目についた一つを手に取ってじっくり観察してみることにする。
全体を見た感じは薄いピンクでゆったりの長袖ロングワンピースだ。襟元には大きなフリルがあり、胸元には大きなリボンがついておりシンプルなものではなく装飾性に富むものだ。この時点で相当な甘さがある。さらに、このロングワンピースは生地が2重になっており、ベースとなる生地の上からシースルーの白い生地があしらわれ、袖もと、裾はレースが施されている。端的に換言するならば、お姫様が着ている寝間着と言う感じである。見たことないけど、そんな感じの雰囲気だ。
これでもかと言うほどの甘さに、口の中まで甘くなりそうだ。とは言え、素人目線ではあるけれど完成されたデザインのように感じる程デザイン的に破綻は無い。いい部屋着?寝間着のように思う。シルフィアのような温和な子が着るととても似合う気がする。うん。似合いそうだ。
観察し終わった衣服をハンガーラックへと戻していると、どこからかサリアたちではない視線が飛んできたような気がした。だが、店の中だし誰かしら見ている事だからと気にすることはせず衣服の観察を続行した。その後、2、3着程度ざっくりと観察すると満足したので、店の通路側に戻ってザ・無難な部屋着を探しに戻るのであった。
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暇つぶし的にいい感じの部屋着を探しているとサリアが自分の元へとやってきて声をかけてきた。
「カオリちゃんはもう決まったの?」
サリアの手に持っている買い物かごの中にはタグが付いた衣服が収められており、購入するものが決まっているようだ。
「一応決まったよ。サリアたちが決まるのを待っていようと他の候補も見ていたとこ。」
「そうなんだ。カオリちゃんがまだ探しているようなら、似合いそうなのを見つけたからどうかなって思ったんだけど、大丈夫そうだね」
サリアが見つけたものとはどんなものだろうか?少し気になるな。普段からおしゃれに気を遣っているサリアの事だから、いい感じの塩梅のものを選んでいそうだ。自分が偶然手にとったフリルレースマシ、サイドウスメ、デザイン激アマチョモランマなものは選んでこないだろう。多分そう。
「せっかくだし、見てみようかな」
「やった!それじゃこっちにきて~」
「ちょ、ちょっ」
サリアはその言葉を待っていましたと言わんばかりに、自分の手を取って店舗の奥にある更衣室の前まで来た。
「何で更衣室前?」
ん?いったい何が始まるんです?
「それは私たちが色々用意しているからだよ!リナちゃん、シルフィアちゃんいいよ~」
サリアの声と共に数多くの服が入っている買い物かごを持って、上機嫌なリナとシルフィアがやってきた。そんな何かを画策している3人は自分を囲むように並んで、リナとシルフィアは持っていた買い物かごを置いた。
も、もしかして?もしかしなくとも!昼ごろにわしわし手を動かしながら迫ってきたことが始まる!心の中の男子高校生は今すぐ逃げろと叫んでいる!この先は死ぞ!何か考えて逃げなければ!
「あ、あの~」
お花摘みにと言おうとしたところに、サリアたち3人は一歩踏み出して圧をかけてくる。そして、食い気味にサリア、シルフィア、リナの順で声がかかる。
「ん~?どうしたの~?カオリちゃ~ん?」
「どうしたんですか?」
「何かあった?」
しかも、サリアたちの表情からは、本当はお花摘みなんて嘘なんでしょ?ということが伝わってくる。さらに、サリアたちには一切隙が無く逃してくれそうにもない。これは万事休すだ。R.I.P、未来の自分...。
そんな時、偶然店員さんが通りかってこちらを見てきた。ヨシ!これだ!そう思って、店員さん助けて~~!と助けを求める視線を送る。すると、店員さんはサリアたちと同じ表情をして、私も気になるので頑張ってください!と言わんばかりに小さくガッツポーズで鼓舞してきた。店員さんまでもサリアたちの手に落ちているとは...くっ、ここに味方はいないのか...。
そんな状況もあり、サリアたちの圧に屈して言葉を発する。
「な、何でもないです...」
その言葉を聞くや否や、サリアたちはねっとりとした声を発しながら、全員で手をわしわししながら近づいてくる。
「それじゃ」
「これから」
「お着換え」
「「「しましょうね~~~」」」
「だから、手をわしわししながら迫ってくるのやめて~~!」
あまりの怖さに両腕で自分の体を抱きしめながら声を上げてしまうのであった。
その後、着せ替え人形となったのは言うまでもない。さらに途中から店員さんが参加して、あれやこれやと言いながら選び始めたものだから全てにおいて逃げ場はなかったのであった。
色々盛り上がった結果サリアたちは自分に似合う1着を決めたようだが、教えてはくれなかった。それは当日のお楽しみらしい。ぜひともザ・無難なものであってほしい。本当に頼むよ?途中で自分が偶然手に取って観察していた服も混じっていたけど、そういうものではないと信じたいものだ。
結局、自分が選んでいたザ・無難なものも買った。その時に会計対応をしてくれた店員さんは、自分に似合う服No.1決定戦に参加してくれていた人だった。自分としては何とも気まずいものだったが、「それの服もいいですね!」と鼻を抑えながらサムズアップしてくれていたのでチョイスは悪くないのだろう。