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第24話 鋼鉄モグラは唐突に

「え、何? どうしたの?」


 スレインは戸惑っていた。

 シャーリーから向けられる期待に満ち溢れた目は、一体何を意味しているだろうか。

 わからないまま腕を引っ張られ、ロメオの雑貨店へ入った。


「お願いです、スレインさん! 私達を助けてください!」

「ちょっとちょっと、いきなりどうしたんだよ?」

「シャーリー、いくらなんでも省きすぎよ」


「でも、早くしないと先生が!」

「先生? アルフレッドさんがどうしたんだい?」

「その、その、先生が誘拐されちゃったんです!」


「なんだって!?」

「だから省きすぎだって。私から説明するわ」


 ドリーは大慌てするシャーリーを落ち着かせるためにも、情報整理を兼ねてスレインにことの経緯を話した。


 ロメオの雑貨店を救うためにシャーリーが立ち上がったこと。

 アイテムショップのオーナーであるアーニャと勝負すること。

 勝者の戦利品としてアルフレッドが誘拐されてしまったこと。


 その話を聞いたスレインは、冷静に乾燥を告げた。


「なんだか、バカらしいね」


 ドリーは思わず同調しそうになった。

 だがそれよりも早く、シャーリーが反発する。


「何がバカらしいんですか! 先生を助けなきゃいけないし、それにアーニャちゃんに勝たなきゃいけないし!」

「確かにそうなんだけどね。でも、なんでお題が〈かわいい爆弾〉なんだい? というか爆弾って、かわいいも何もないと思うんだけど?」

「そんなことないです! 爆弾がかわいかったらやる気が出ますもん!」


 そういう問題なのかな、とドリーは感じる。

 スレインも同じ気持ちなのか、よくわからないという顔をしてシャーリーを見つめていた。


「まあ、何にしても勝ちたいんだね」

「勝たなきゃ先生が助けられません!」

「よし、わかった。それで、僕に何をして欲しいんだい?」


 問いかけに対して、シャーリーはうーんと唸って頭を傾げた。

 いろいろとやって欲しいが、まず一番に何をして欲しいのかがわからない。

 そもそもこういった細かい指示はアルフレッドがやってくれていた。だから考える必要なんてなかったのだ。


「えっと、その、材料が足りないから欲しいかな……」

「物資の調達ね。なら、僕と君のコレクションを交換するってのでどうだい?」


「いいんですか!?」

「いいよ。といっても、もしかしたら結構なお宝と交換するかもしれないけど?」

「いいです! 先生を助けられるなら、どんなものとも交換します!」


 シャーリーは勇ましい顔つきでスレインの条件を飲んだ。

 それを見たスレインは満足そうに笑い、「よし、それじゃあ交換しよう」と告げる。


「そうだね、まず僕が欲しいのはありったけの〈磁鉄鉱〉だ。あとはそうだね、藍銅鉱もあったらいいかな」

「ありますあります! じゃあ私は〈弾ける岩石〉と〈ホウセンカ〉を持っているだけください!」

「お、なかなかにがっつくね。いいよ、じゃあ交換成立だ!」

「あ、ありがとうございます!」


 こうしてシャーリーはありったけの磁鉄鉱と藍銅鉱をスレインに渡した。スレインからもらった弾ける岩石とホウセンカを使い、シャーリーはボムっとん製作に勤しみ始める。

 だが、ドリーは気づいていた。こんなことでは勝ち目がないということを。

 だからこそスレインに問いかける。


「ねぇ、スレイン。アンタわかっているわよね? これぐらいじゃあ勝てないって」

「当たり前じゃないか。ま、シャーリーちゃんの覚悟はわかったし、こっちもちゃんと勝てるように手を打ってあげるよ」

「手を打つって。勝てる方法があるの!?」

「さあ? それはシャーリーちゃんの頑張り次第かな。でもそうだね、いい機会は作ってあげるよ」


 スレインは怪しく笑った。

 一体何を企んでいるのかドリーは気になったが、それを聞く前にスレインはどこかへと去ってしまった。

 決戦までどうなるのか。

 不安を抱きながらも、全てはスレインに任せてドリーはシャーリーの手伝いをするのだった。



◆◆◆◆◆



「あら、よく逃げなかったわねシャーリーちゃん」

「絶対に勝って先生を返してもらうんだから! 勝負だよ、アーニャちゃん!」


 弾ける花火。ユルディア全体が豪華に飾り付けされており、それは祭りかと思ってしまうような賑やかさになっていた。

 なぜこんなにも多くの人々から注目を集めているのか。それはアーニャの宣伝による効果だった。


「ふふふ、感謝しなさい! あなたが赤っ恥をかけるように人を集めておいたわ!」

「恥なんてかかないもん! そっちこそ覚悟して!」


 圧倒的な知名度。

 圧倒的な財源。

 集客力も想像以上で、全員がこのお祭り騒ぎを楽しんでいる。


 まさに敵は強大な存在だ。普通に戦えば勝てる要素など全くない。

 ドリーはとても大きな不安に襲われる。いくらなんでも相手が悪すぎだ。


「ねぇ、スレイン。ホントに大丈夫なの?」

「予想外っちゃ予想外だけど、まあいいかな。これだけ多ければ結構なことになりそうだし」

「結構なこと?」

「気になる? ま、そうだよね。でも教えない。それはもう少ししたからのお楽しみさ」


 スレインが何を企んでいるのかとても気になった。

 だが、スレインはただ楽しげに笑うだけで何も答えてくれない。

 違う意味で不安が募る中、開会宣言が始まった。


『お集まりの皆様、ありがとうございます! これより、我がアイテムショップオーナーのアーニャとちんちくりんなシャーリーとの戦いを始めたいと思います!』

「誰がちんちくりんですか!」

「もっと言ってあげてよ。オーッホッホッホッ!」


『ルールは簡単! 火花を散らす両者が販売する爆弾をより多く数を売ったほうが勝ち! 史上最カワな〈水玉ザラシ〉を買ってもよし、小汚い〈ボムっとん〉を買ってもよしだぁぁ!』

「汚くないもん! ボムっとんはキレイでかわいいもん!」

「それは勝ってから言いなさい。水玉ザラシは絶対に負けないけどね!」


『とにかく、お好みのほうを買ってくれ! なお、この戦いの勝者には二つの戦利品がある。一つは約二百五十ゴールドという大金、もう一つは世にも珍しい喋る本〈アルフレッド〉だぁぁ!』

「せんせーい!」

「ああ、アルフレッド様。早く一緒に生活しましょう!」

『ふぐっ、むぐぐっ、むぐぅっ!』


『泣いても笑っても勝負は一回きり! さあ始めようぜ、商売を!――最初で最後のお祭りの始まりだぁぁ!』


 わぁー、と見ていた人々が盛り上がると同時に戦いが始まった。

 まず幸先いいスタートを切ったのが、アーニャ陣営である。宣伝に宣伝を重ね、さらに販売スタッフがイケメンということもあり多くの女性が殺到している状態だった。


「こっち見て!」

「はーい」

「きゃあー! 笑ったぁー!」


 多くの女性がイケメン店員に釘付けとなっている中、水玉ザラシが売れていく。

 一方シャーリー陣営は、ちょびっとだけ子供が集まっていた。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。このブタって何?」

「ボムっとんだよ。爆弾なんだけどかわいいでしょ?」

「うえっ、爆弾なの!? 危ないもんを売ってんな」

「おい、あっち行こうぜ。なんだか楽しそうだし」


「あ、待って! ボムっとんを買ってぇー!」


 シャーリーは叫んだ。しかし子供達は次第に離れていき、どんどん客足が遠のいていく。

 ガックシと肩を落とし、シャーリーは落ち込んだ。今にも泣きそうなシャーリーを見て、さすがのドリーも何も言えなかった。


「スレイン! このままじゃあ完全敗北しちゃうわよ!」

「うーん、そうだね。でもまだちょっと早いし……」

「早くしないと完敗だって言っているでしょ! ほら、向こうはまた売れたし!」


 ドリーに急かされるスレインは、渋々といった顔をしてあるものを取り出した。

 それはシャーリーからもらった磁鉄鉱だ。


「ねぇ、それどうするのよ?」

「ドリーちゃん、モンスターの生態に詳しいかい?」

「そんなには……」

「そうかい。じゃあモンスターが何を好物にしているのかも、あんまりわからなそうだね」


 スレインはそう言って、磁鉄鉱を転がした。

 一体何が起きるのか。そう考えて見つめているとスレインはさらに語り始める。


「知人に協力してもらってあるモンスターを近くにおびき出したんだ。なかなかに苦労したけど、いいパフォーマンスになると思うよ」

「モンスターをおびき出したぁ!? ちょっ、アンタそれはダメでしょ!」

「大丈夫大丈夫。ここは迷宮探索者(ラビリンスチェイサー)が集まる都市だし、どうにかなるよ」


 嫌な予感がしてならない。

 ドリーが不安で不安でたまらなくなっていると、大きな地鳴りが響き渡った。

 同時に地面が揺れ、賑わいを見せていた人々も静まり返る。


「な、何?」


 アーニャが思わず周囲を見渡す。

 それを見たスレインは、怪しく口元を緩めた。


「グゴォォォォォッ!」


 転がっていた磁鉄鉱を丸呑みするかのように大きく口を広げ、巨大な何かが地面から飛び出してきた。

 美しい光沢を持つその身体はまさに硬そうであり、爪はスコップのように鋭くも土を掻き出しやすそうな構造をしている。

 特徴的な突き出した長い鼻と、ギラギラした目は歓喜に満ち溢れていた。


「な、何これぇー!」


 ドリーは思わず叫んだ。

 それを見ていたスレインは、楽しげに笑いながら説明を始める。


「鋼鉄モグラさ。ここから南西に生息しているモンスターだよ」

「ハァ? もしかして連れてきたの!?」

「その通り。ちなみに好物は磁鉄鉱なんだ。だから連れ出すのには苦労しなかったよ」

「バッカじゃない!? このためだけに連れてきただなんて……」


「あ、一応言っておくけど普通の攻撃も黒魔術もあんまり効かないからね」

「ちょ、ちょっと、じゃあどうするのよ!?」


「そうだね、とっても強力な攻撃をぶつけるしかないね。例えば、爆弾とかそういうものとかでね」


 スレインはニヤァッと笑う。

 ドリーは気づいた。どうして鋼鉄モグラをここに連れてきたのか。

 何もかも負けているシャーリーが、唯一勝てる要素がある。

 それはボムっとんのかわいさではない。ボムっとん自体の性能だ。


「まさか、アンタ――」


 身体も、手も、声も震える。

 スレインは唯一シャーリーが誇れるものを活かし、この戦いに勝とうとしているということを知って震えてしまった。


「いいかい、祭りってものは盛大に盛り上がるもんだよ」


 全員が釘付けになっている中、スレインが前に出る。そして、一つの宣言をした。


「さあさあ、皆さん! せっかくの買った爆弾だ。その性能をこいつにぶつけて試してみてはどうかな? 何、いい爆弾ならこんなモンスター簡単に倒せちゃうよ! それに自信がない訳はないだろっ?」


 アーニャの顔が引きつる。シャーリーはというと、勇ましい顔つきで頷いた。

 スレインは怪しく笑いながら仕切る。この戦いの主導権を握ったと宣言して。


「ショータイムの始まりだ! 爆弾を投げまくれ!」


 こうして、双方の予想もしない展開が訪れるのだった。



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