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第23話 巻き込まれた収集家

◆◆◆◆◆



「ほぉー、それは大変だノォ」


 雑貨店に戻りロメオに報告すると開口一番、そんなことを言われてしまった。

 疲れたように大きくため息を吐き出すドリーは、隣で「あーじゃない、こーじゃない」と思案しているシャーリーを見てガックリと項垂れていた。

 アルフレッドはアルフレッドで花が咲いたかのようににやけた笑顔を浮かべており、もはや目の前のことなど見ていない様子だ。


「ねぇ、シャーリー。本気で勝てると思っているの?」

「勝つ負けるじゃないよ! ぎゃふんと言わせるんだもん!」

「あー、わかった。もうわかったから一回整理しようね」


 ぷんぷんとするシャーリーを落ち着かせるためにも、ドリーは現状を教えることにする。

 本来ならば同じ立場にアルフレッドがいるはずだが、今は全く役に立たない。にやけてにやけて、とても気持ち悪いため放っておくことにした。


「そうねシャーリー。まずアーニャに負けない点はある?」

「錬金術。あとボムっとん!」

「それ以外は?」


「……錬金術とボムっとんがあるからいいもんっ」

「そうよね、錬金術ぐらいしか勝てそうな要素はないよね」


 ドリーはちょっと意地悪な顔をしてシャーリーを追い詰める。

 負けを認めたくないシャーリーは、ドリーに対して大いに反発した。


「錬金術は勝つもん! だからアーニャちゃんよりすっごくかわいい爆弾を作れるもん!」

「ふーん。でもこの勝負って、作った爆弾の売上を競うんだったわよね?」


「うっ……」

「相手はお金があるし、宣伝とかにも力を入れられるし、そもそもこっちよりも有名人だし、それでもって商売上手。果たして錬金術しか取り柄がないシャーリーちゃんは、この勝負に勝てるのでしょうか?」


「うぅっ……」


 シャーリーの顔が一気に曇る。

 確かにお店を経営し、しかも短期間で大きくしたアーニャの手腕は認めざるを得なかった。

 しかもボムっとんと同等、いやそれ以上かもしれない水玉ザラシが出品されるのだ。普通に真正面から挑んでも、ボロ負けするのは目に見えている。


「でも、でも……! ボムっとんをもっとかわいく改良すれば――」

「シャーリー、商売ってのは商品がいいだけじゃダメなの。いかに宣伝して、みんなに興味を持ってもらうかが勝負なのよ?」


「でも、ボムっとんはかわいいし……」

「じゃあ聞くけど、シャーリーはボムっとんの魅力を伝えることができる? 興味を持ってもらって、手に取ってもらって、そして最終的には買ってもらうことできる?」


「うううっ!」


 シャーリーは膝をついた。商売とはどれほど難しいのか、ということを知って項垂れる。

 ドリーはやっと状況を理解してくれたシャーリーに、ホッと息を吐く。正直、ここまで言って理解してくれなかったらどうしようかと考えていた。

 何にしても、このままではシャーリーには勝ち目はない。だからこそ腑抜けているアルフレッドをシャキッとさせて策を考えさせなければならなかった。


「おや、これはなんだノォ?」


 ロメオの声が聞こえて、シャーリー達は顔を向けた。

 そこにあったのは爆弾だ。導火線にはすでに火が灯されており、パチパチと火花を散らしていた。


「きゃあ!」

「ふえー!」

「ノォッ!」


 あっという間に爆弾は爆発し、雑貨店は黒い煙に包まれてしまった。

 シャーリー達はゲホゲホと咳き込みながら外へと逃げ出していく。


「もぉー、何なのよ!」


 深呼吸をし、ようやく落ち着いたドリーは叫んだ。

 シャーリーをやっと理解させた途端に起きたトラブルに、苛つかない訳がなかった。

 ひとまず全員いるか確認する。隣には一生懸命に深呼吸をするシャーリー、すぐ近くにはロメオとその奥さんもいる。

 だが、一緒に逃げたはずのアルフレッドの姿がなかった。


「あれ? アルフレッドがいない!」


 まさか、と思い黒煙が溢れる店の中に目を向ける。

 その瞬間、「わーはっはっはっ」とどこかで聞いたことがある声が響いた。


「お探しものあったかな?」


 それは、とても奇妙な姿をした男だった。

 全身を包む黄色のタイツにウサギのお面で顔を隠した赤いマフラーをなびかせ、雑貨店の上から見下ろしている男だ。

 ドリーは声を聞き、すぐにアイテムショップでアーニャの右腕として活躍しているイケメン店員さんだと気づく。

 しかし、一緒に偵察をしたはずのシャーリーからトンチンカンな言葉が放たれた。


「だ、誰っ!?」


 ドリーは心の中で、気づけよと反射的にツッコミを入れた。

 そんなドリーの気持ちを知らないまま、シャーリーはとても真剣な顔をして化けたイケメン店員を見つめていた。


「フフッ、答えてあげよう! 私の名前は〈ラビット〉! 人呼んで、怪盗王だ!」

「な、なんだってぇー!」

「何驚いてるよ? さっき会った店員さんでしょ?」

「え? そうなの!?」


「違う! 断じて違う!」

「違うって言っているけど?」

「鵜呑みにすんなっ! というかわからないの、アンタは!」


 なぜか否定するイケメン店員に、その言葉を鵜呑みにして信じるシャーリーにドリーは頭を抱えてしまう。

 ひとまずシャーリーのことは置いておいて、ドリーはラビットと名乗ったイケメン店員を睨みつけた。


「にしても、なかなかのことをするじゃない。そっちが圧倒的有利でしょ?」

「ああ、そうとも。普通にやってもこちらが勝つさ。だが、我々は欲張りでね。確実に勝利するためには貪欲なんだよ」


 そう言ってラビットは、あるものを見せつける。

 それは鎖でグルグル巻にされたアルフレッドの姿だった。


『むぐぅっ』

「せんせーい!」

「ちょっと、アルフレッドをどうするつもりよ!」


「アーニャ様が言ってただろ? 勝利すればこの御方と一緒に暮らすと。つまりこの御方は勝者のみが手にできる戦利品。ゆえに、こちらで預からせてもらう!」


「なっ! 待ちなさいよ! アルフレッドは私達の仲間よ!」

「そんなの許されないよ!」

「返して欲しければ勝負に勝つんだな。わーはっはっはっ!」


 ラビットは高笑いをしながら、再びけむり玉を爆発させた。

 広がる黒煙にシャーリー達は咳き込んでしまう。


「くそっ、逃げられた!」


 ようやく煙が晴れ、ドリーはラビットの姿を探した。しかし、どんなに目を凝らして探してもその姿はない。


「これは、本当に大変なことになったノォ」


 ロメオが目を丸くして言葉を言い放った。

 シャーリーはシャーリーで、せんせーいと叫んでアルフレッドを探すが返事はない。


「ホント、参ったわね」


 アルフレッドを失ったのは大きな痛手だった。

 シャーリーにとってアルフレッドは、いわば司令塔だ。シャーリーでは思いつかない策を考えてくれる頭でもあり、できないことを補ってくれる身体の部位でもある。

 だが、敵の策略によりアルフレッドを失ってしまった。これではシャーリーが勝てる見込みはほぼないに等しい。


「ど、どうしよう……。先生がっ」

「アルフレッドはたぶん、丁重に扱われるわ。問題はこっちよ。このままじゃあ勝ち目はないわよ?」

「で、でも、先生を取り返すには勝つしかないし……」


 いつになく弱気なシャーリーだった。ドリーも同じように大きな不安に襲われている。

 だが、アルフレッドを取り返すにはやるしかない。やるしかないのだが、正直シャーリーとドリーだけでは勝ち筋というものも見えなかった。


「ちょっとちょっと、どうしたんだい?」


 そんな時だった。その軽薄な声がシャーリー達の耳に入ったのは。


「なんだか大騒ぎしてるけど、一体何が起きたんだよ?」


 それは、一筋の光だった。

 シャーリーにもドリーにもない頭脳を持ち合わせた収集家。

 どこかひねくれており、素直でもなく、時には狡猾に物事を運ぶ男。

 そう、アルフレッドの代わりとなる代役がシャーリー達の目の前に立っていた。


「スレインさん!」


 いつものようにロメオの雑貨店に訪れたスレインは、目を煌めかせるシャーリーにポカンとした表情を浮かべたのだった。


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