第19話 また一緒に探索しよ
残響していた笑い声が消えたことにより、ようやく終わりを告げる。
シャーリーはそのことに安心したかのように、力が抜けて足から崩れ落ちてしまった。
「うぅっ」
安心したせいか、目から涙が溢れてしまう。
一気に堤防が決壊したかのように感情も押し寄せ、シャーリーは泣きたくて泣きたくて堪らなかった。
「泣き虫なところは変わらないな」
そんなシャーリーに、皮肉めいた言葉をマギアがかけた。
思わず睨みつけるとマギアは懐かしむような顔をして、優しく微笑んだ。
「そこは前と変わらないな。腕を一本失ったかいがある」
マギアはそう言って、抱えていたドリーの身体をシャーリーへ預ける。
思わずドリーが行きているかどうかと確認すると、小さな寝息が囁くように耳の中へ入ってきた。
シャーリーは心の中で胸を撫で下ろし、ドリーの身体を優しく抱き締める。
マギアはそれを見て、何も言わずに背を向けた。
「待って!」
そのまま去ろうとしていたマギアを、シャーリーは呼び止めた。
どんな言葉をかければいいかわからない。だけど、このまま別れたくなかった。
「なんだ?」
「えっと、その、腕だけど、勝手に使ってごめんなさい!」
「ふん、必要だったからやったんだろう。なら謝るな」
「でも――」
「お前は前から自分勝手だからな。今さら気にすることでもない」
シャーリーは申し訳なさでいっぱいになった。
そんなシャーリーを見て、マギアは大きくため息を吐く。
一度だけ振り返り、とても似合わない笑顔を浮かべた。
「オレはお前が嫌いだ。だからこそお前を信用している。お前がお前である限り、我が主を預けられるんだ。わかったか?」
どういう意味が含まれた言葉なのか、シャーリーはわからなかった。
だが、少なくとも褒められているということだけはわかった。
だからこそ、シャーリーは訊ねる。
「あなたの名前、教えて」
マギアは表情を変えない。ただシャーリーを見つめ、ハッキリと自身の名を告げた。
「マギアだ。忘れるなよ」
シャーリーはマギアの名を呼ぼうとした。
ありがとう、という感謝を添えて呼ぼうとした。
しかしその寸前、聞き覚えのある声が響き渡った。
『シャーリー!』
アルフレッドの心配する大きな声が耳に入る。
シャーリーが反射的に振り返ると、泣きながらアルフレッドが抱きしめてきた。
『大丈夫か、シャーリー!』
「はい。先生は、大丈夫でしたか?」
『当たり前だろ! それよりどうしたその姿は! なんでここまでボロボロなんだ!?』
「えっと、それは……」
思わずマギアのほうに顔を向けるが、そこにはもう姿はなかった。
アルフレッドは呆けているシャーリーをドリーごと抱き締める。
とにかく無事でよかった、という気持ちを込めて二人を優しく包み込んだ。
「おおっ、これは〈ヘブンズ・セブン!〉」
そんな中、グレアムが興奮気味の声を上げた。
顔を向けるとそこには倒れている虹色竜ヘブンズ・セブンがあった。
「お二人が倒されたのですか!? すごいですな!」
「えっと、その、それは――」
「たぶんそうだと思うよ。さすがだよ! 僕が見込んだだけはある!」
シャーリーが説明しようとした瞬間、スレインが割って入った。
思わず見つめると、スレインは自身の口に人差し指を当てて笑う。
何も言わないで、というメッセージだろうか。そう受け取ったシャーリーは、スレインの指示に従って黙り込んだ。
「もっと精進しなければ!」
「そうだねそうだね! あ、こんなところに〈七色ダイヤ〉が!」
「なんと! ついに手に入ったのですな!」
「でもこれ、一つしかないね。どうしよっかなぁー、これ?」
「私にください! スレイン殿、私それが欲しいです!」
「よし、じゃあ取引しようか。十ゴールドでどうだい?」
唐突に、スレインとグレアムがくだらないやり取りを始める。
グレアムが唸りながら値下げ交渉をする光景を、シャーリーが苦笑いしながら見つめていた。
そんな中、抱き締めていたドリーの身体が僅かに動く。
「んっ……」
「ドリーちゃん!」
寝ぼけた顔して、ドリーはシャーリーを見つめた。
シャーリーは優しく顔を綻ばせると、ドリーに「もう大丈夫だよ」と声をかける。
「シャーリー? あれ、私なんで……」
「大丈夫、大丈夫だから」
「……うん」
抱き締める力が、自然と強くなる。
ドリーはそれに嬉しさを覚えていた。
だけど、同時に一緒にいてはいけないとも思ってしまう。
なぜそんな想いを抱くのかわからず、ただただ抱き返していた。
「シャーリー。私ね、怖い夢を見たわ」
「怖い夢? どんなの?」
「シャーリーをひどく傷つける夢。嫌で嫌で堪らなかった」
シャーリーは一瞬、言葉に詰まる。だけどすぐに、「夢でよかったね」と言い放った。
うん、とドリーは頷く。だけどその顔は、どこか不安げだ。
「ドリーちゃん」
「何?」
「今回もいろんなことがあったね」
「うん……」
「次も大変かもしれない。それでも、また一緒に探索しよ」
シャーリーはそんなドリーに向けて、優しく言葉をかけた。
ドリーはその言葉を受けて顔を柔らかく崩し、ただただ安心してシャーリーの胸の中に顔を沈めた。
「うん――」
ドリーにどんなものがあるかは、シャーリーはわからない。
だけど、シャーリーにとってドリーはドリーだった。だからこそ約束する。
また一緒に探索しよう、と――
このエピソードで第三章は終了です。
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