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H.O.P.E.  作者: 杜崎ハルト
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異変

静かに眠りから覚めた綾人の耳に入ってきたのは、近くで新聞屋のカブがローギアのままエンジンを唸らせる音、そして鳥の鳴き声だった。空はまだ薄暗く、下がりきった気温はそのまま微かな風となってアパートの部屋に流れ込む。窓を閉め忘れていたことに気付き、意識の覚醒を待たずして綾人は上半身を起こした。

「……今までとは違った夢だったな。それにしても今朝は寒すぎる……」

ブツブツと独り言を呟いたり、体を伸ばしたり、耳でだけカブが遠ざかるのを見送ったりしているうちに徐々に思考が鮮明になってくる。と同時に、綾人は少々おかしなことに気付く。

それは先ほど感じた寒さについて、だ。

いくら春先の東北とはいえ天気予報通りに最低気温は徐々に上がってきているし、壁に掛けたデジタル温度計もそれが間違っていないことを無言で主張している。窓は少し開いていたもののきちんと着こんで寝ていたし、毛布もまだ使っている――とその毛布を確認しようと目線を落とした綾人は絶句する。

「なんだこれ……」

そこには、無残に破れた毛布やブランケットだったものが散らばっていた。正確に言うなら破れたというよりも、強引に引き千切られたというほうが正しい。並大抵の力ではここまで酷い有様にはならないだろう。

綾人は咄嗟に、何者かが部屋に侵入した可能性を鑑み玄関を確認する。毎日きちんと施錠していたわけではないが、この日は鍵に加え内掛けのチェーンまでしっかりとされていた。閉め忘れた窓というのもベランダ側ではなく壁沿いのものである。この部屋は2階の角部屋だ。

冷ややかな微風が綾人の頬を撫でると同時に、過去何回か目覚まし時計を破壊していたことが頭によぎる。よく考えてみればどれも落ちただけにしては壊れ方がおかしかった。ベッド横の壁の凹みを見る。いくら建物が古くても寝相程度でこうはならないのが普通だ。何の気なしにスチール缶を潰していたとき楪に驚かれた。先週割ってしまった皿はヒビが入ってたからではないのかもしれない。

小さな情報の一つ一つが絡み合い、当初思いもしなかった、いや思いたくなかったある予測に辿り着く。

――まさか、……これをやったのは俺なのか?

背筋が凍りつくような気がした。目の前の異常な光景が、今まであえて考えないようにしていた数々の出来事に対する真実を突き付けているようで、綾人は自分という存在が恐ろしく思えた。千切れた布片が悲痛な叫びをあげている錯覚を覚える。

朝日が昇り空が明るくなり始めても綾人はただただ立ち尽くすほかなかった。

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