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政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第6章:最終章
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第57話 反省と戸惑い



 夜も更けた頃。

ウィルズは昼食も夕食も摂らないまま一人で静かに仕事をこなしていた。


給仕の女官からも食事を摂るよう勧められたが、全て断った。

仕事に邁進(まいしん)することでリミューアとの言い争いを忘れたかった。

世間ではこれを昇華というのだろうか。


頭を冷やしてからもう一度考えてみて、自分も少し言い過ぎたと感じている。

たしかに不倫を認められたことは何にも耐えがたいショックだった。

だが無罪確定後もリミューアを犯人扱いした自分にも非はある。

あれほど薄暗くて不衛生な場に閉じ込められていたのだ。

心にもないことを言ってしまった。


そう謝ろうにも、もうリミューアは城を出た。

考え直すのがあと3時間早ければ間に合ったかもしれない。



――自分だって本当は誰が犯人か、大体の察しはついている。



彼女には本当に悪いことをした。



コンコン、


急に扉が鳴って、ウィルズはそこで我に返ることができた。


「誰だ」

『ロッカスにございます』

「入ってくれ」


一瞬、リミューアかと期待してしまった自分が愚かしい。

ウィルズはゆったりとした歩調で入ってきた側近に向かい、嘆息に似た声を漏らす。


「一体なんだ」


するとロッカスは人差し指を口の前で立て、「静かに!」と合図を送ってきた。

もう長らく彼とは付き合いがあるが、こんなことをされたのは初めてだ。


「何のつもりだい?今夜の舞踏会には出ないと父上にも伝えたはずだよ」

「いえ、そのことではございません」


いつになく真剣な顔を見てウィルズは眉をしかめる。


「先日のアーシェ王女さまの件で少し」

「進展があったのか」

「はい。一旦はリミューア正妃殿下に嫌疑がかけられた事件ですが、2審の取り調べの最中、女官の一人が妙なことを明かしまして」

「妙?」


ロッカスは懐から折り畳まれた一枚のメモ用紙を取り出し、開いてからウィルズの執務机に差し出す。

書面の文字は走り書きしたような粗雑なものでスラスラ読めるものではなかったが、ウィルズは差し出された文面を見て目を丸くした。


「これは……」


走り書きされていたのは、女官の一人から聞きだした会話録の一部だった。

元より嫌な予感はしていたが、『フォルニクス公爵』、『買収』、『教唆』という三語によりその懸念は確信へと変わった。


(やはり――か)


だが一つ疑問なのは、この情報を一体どうやって手に入れたのかだ。

司法の独立を保障しているこの国では、たとえ王が如何なる権力を行使したところで事件の取り調べ調書を見ることはできない。

警察が調べ上げた内容が検察以外に渡るということは無いはず。


「どうやってこれを?」

「僭越ながら、こう見えても各省庁とは繋がりを持っておりまして。取り調べの最中、極秘裏に当事者と面会し、事件に関して口述筆記させていただいた次第にございます」


同時に人差し指を口前で立てられ、ウィルズは苦笑する。

要は『内密に』という意味である。


「そうか。大義であったな」

「恐縮にございます」


ロッカスは丁寧に一礼し、「失礼します」と言って部屋を出た。


残されたウィルズは窓の外に重いため息をつき視線をメモ用紙に落とした。


(教唆犯か)


会話録には確かにその旨が記載されていた。

にわかに信じがたい事実ではあるが、リミューアとメリッサの不仲の噂は女官の間でも有名だ。

それにリミューアの無罪確定後、事態は一転して今度はメリッサが重要参考人として司法から拘束を受けている。

逮捕までには至っていないが、今日だって任意で事情聴取が行われた。


となれば、彼女が法廷に立たされるのも時間の問題。


「僕はこれからどうすればいい」


鳥かごのケツァールに問いかけるも、鳥は首を傾げるだけで答えが返ってくることはない。


ウィルズは机を拳で叩きたくなる衝動を抑え、メモ用紙を鷲掴みにしてズボンのポケットに押し込んだ。






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