裏話 1 ~ウィルズの回想~
タイトルの通り閑話です。
読み飛ばしても大丈夫ですが、ウィルズが結婚式の日にリミューアのことをどう思っていたかが綴られてあります。
初めてリミューアを見たとき、今ほど魅力的だとは思わなかった。
別に生理的に受け付けないとか、そういうのではない。
ある程度背も高く丸みを帯びた肢体に、ぱっちりとした双眸と淡いピンク色の唇。
いくら政略結婚だったとはいえ、式でウェディングドレス姿の彼女を見て息を呑んだのは事実だ。
その姿はあまりに可憐で美しかった。
心にときめくものがあったことは認めざるを得ない。
でも、そうは思っていても心を揺り動かされるほど魅力を感じはしなかった。
その理由は一つ。
――お互いに愛し合ったわけではないからだ。
今までにも腐るほどお見合いとやらを繰り返した。
少しでも多く側妃を持たせようとする父の勧めにより、これまでに数十回にわたり令嬢らと話し合った。
もちろんお見合いなので当たり外れが大きかったが、中にはリミューアに引けを取らない美貌の持ち主もいた。
それに王室へ輿入れするには身分も十分で、教養も礼儀作法も全く問題ない。
でも結局は誰とも結ばれなかった。
いや、結ぼうとしなかった。
自分が欲しかったのは恋人?愛人?色女?
――違う。
僕を一番よく理解してくれる人だ。
見た目なんて気にしてはいなかった。
どれほど見目が悪かろうが礼儀がなってなかろうが、本当に心を許せる人物なら奴隷民でも構わなかった。
しかし自分のところに集まって来るのは、王室に嫁ぐことで絶対的権威を得ようとする女ばかり。
ある者は豊満な身体を以って気を引こうとし、またある者は己の身分を利して自分の家系を優遇するよう言い寄る。
最初から権威目的の彼女らに僕は辟易していた。
そんな中やって来たのがリミューアだった。
当初は、どうせこの女も権威が目的だろうと高を括っていたが、彼女は今まで接してきた女とは大きく違った。
――こちらに近寄ろうとはせず、逆に距離を置いたのだ。
試しに声をかけてみたが、やはり素っ気のない返事ばかりが返ってきた。
近付こうとしても蝶のように逃げてしまう。
また、彼女はしゃべりかけられた時以外は決して笑わず、常に寂しそうな表情を浮かべていた。
お互い似た者同士だったからかもしれない。
――僕はいつしかその表情に惹かれていた。
どうにかして彼女を振り向かせたいと思った。
なんとしてでも手に入れたいと思った。
一度でいいから笑顔を見てみたいと思った。
高嶺に咲く一輪の花の如く、触れると折れてしまいそうな繊細さと言葉にならない美麗な容姿。
その姿があまりに愛おしく、脳裏に焼き付いて片時も離れようとはしない。
もしもリミューアの笑顔が見れるなら、今の地位も名誉も財産も全てドブに捨ててもいい。明日から奴隷になれ、と言うのならばその通りにしたっていい。
それほどまでに心から愛している。
気付いた頃には、僕は彼女の虜になっていた。




