ある程度、手を抜くことは大事です
魔物との遭遇を上手いこと回避したふたりは、ようやっと遺跡内の採掘ポイントに着いた。
別の誰かが最近掘った跡が残っていることから、もしかしたらどこかで会うこともあるかもしれない。
「やっとですね」
「ええ、ようやっとです」
ふたりは感慨深げに採掘予定の壁を眺める。
「さてっと、ちゃちゃっと掘っちゃいましょー」
「それはいいですが、どのように進めるのですか? 私は騎士ですがあくまで女です。短時間でしたらなんとかなりますが、それ以上となると純粋に力が足りなすぎますよ」
レミアータの懸念は当たり前だ。
採掘というものは相当な体力と筋力を使う。
彼女自身は騎士であり、どちらもそれなりの自信はあったが、それをフィリアに期待するわけにもいかない。フィリアは魔法使いであるが、それ以外は多少冒険の心得がある少女というだけなのだから。
「それは大丈夫っ、です!」
自信満々に慎ましやかな胸を反らす。そうして腰のベルトから杖を取り出すと、フィリアは集中状態に入った。
「イルヤル セグロ クレース アルゥ。幻の守護壁よ、囲め」
発動した魔法は少々特殊な魔法。
増幅の呪紋を加えられた幻惑結界がフィリアを中心として採掘ポイント周辺を包み込む。
「これは?」
「攪乱用の幻惑結界です。外からは誰もいないように見えますし、音も漏れにくくなってます。それと生気も魔力も感知しにくいようにしてあるんですよ」
「便利な魔法ですね……」
「う~ん、そうでもないんですけどね。これ、相手に見つかる前に使ってないと効果ないですし、固定型の結界しか出せないので移動もできないんです」
それを差し引いても便利な魔法だとは思うけれど、とレミアータは言葉を飲み込んだ。
「それで、次はどうするのですか? 結界を張った理由は魔力を感知されにくくするためでしょう?」
単純に掘るための結界ならば、音を漏れにくくすることと見えなくすることだけでも十分だ。
その場合、無生物系の魔物に関しては見つかってしまう可能性があるが、その種の魔物は基本的に場所を移動しない。
ならば付加効果を入れた結界を張った目的は、その付けられた効果にあるのだろう。
「あはは、バレてます? 実はちょっと裏技使おうかなぁって思ってまして」
「裏技、ですか。 採掘に裏技なんてものがあるのですか?」
「そこはほらっ! わたし、魔法使いですからそれを活用しますよっ」
フィリアは片手の杖をもう一度掲げると、詠唱を開始する。
「サティーオ フォーヴ クレース アルゥ。波よ、伝わり、探れ」
《サティーオ》 司る力は探知。《フォーヴ》 司る力は波。
ふたつの力が合わさり、波が採掘予定の壁に走る。そうしてその波が地盤内部の様子をフィリアに伝えてきた。
「―――見つけた!」
楽しげに笑みを浮かべるフィリア。続いてアイテムポシェットからピッケルを数本取り出す。
今度は杖をピッケルに向けながら呪紋を唱える。
「シーリ アルゥ。衝撃よ、宿れっ!」
《シーリ》 司る力は衝撃。
「これで…」
フィリアは魔法をかけたピッケルを手に握ると先ほど探査の波を送った壁に近づく。
「フィリアさん…? 何をするつもりですか?」
「まぁちょっと見ててください」
不審げなレミアータに笑顔で返すと、フィリアは手のピッケルを振りかざして壁に叩きつけた。
そのあとの変化は劇的だ。
ただ一度、ピッケルを当てただけの地面、その周辺が一瞬で崩れ落ちた。そうして崩れた地面をよく見ると、いくつか傷も受けていない石が転がっている。
「もしやこれは」
「はいっ。鉱石ですよ」
なんでも無いようなフィリアの答えにレミアータは思わず頬が引きつった気がした。
「なんと言いますか……。もう便利云々を通り越して、いっそ無茶苦茶ですね」
「まぁ、魔法使いですから」
「いえ、それで済ましてはいけないような気もしますが、今はいいです。これを使えばいいのですね」
追求してもきっと意味はないだろうと判断したレミアータは地面に置いてあるピッケルの1本を手に取る。
「あ、はいっ。えとですね、そことあそこあたりをお願いしてもいいです?」
ピッケルを握ったレミアータに頷くと、フィリアは波で反応があった場所を指差して指示を出す。
それにレミアータは頷くと、そのポイントまで近づいて同じようにピッケルを振るう。
そうしてしばらくの間、ピッケルを振り下ろす音と地面が崩れる音が結界内に響いていた。
昨日の1話について感想でご指摘、ご意見を頂きましたので、近いうちにそのあたりの補完を取り入れたいと思います。




