腹が減ってはなんとやら
フィリアたちの前には鉱石がちょっとした小山を作っていた。
並の冒険者ならばこれだけで数日分の稼ぎになってもおかしくはない量だ。
「結構採れましたねー」
「ええ、ですがこれ以上採ると後々問題となるでしょう。このあたりでもうやめておいた方が良いかもしれません」
「そうですねぇ。わたしも同業の方々に恨まれたいわけじゃないですから、今回はここまでってことで」
「はい。ここでひとまず食事にしましょう。集中していたので気付きませんでしたが、昼時を少し過ぎていたようです」
「食事は大事ですからねー。言われてお腹が空いたのを実感しちゃいました」
採掘が思うように進みすぎて熱中したふたりは食事の時間の頃合を少々逃していた。
話しながらもふたりは小山化した鉱石を手早くポシェットの中に詰めていく。
「どこで食べます? さすがにここで食べるのはちょっとって気がしますし」
「それならば良い場所があります。冒険者の方々が時間をかけて組み上げた比較的安全な場所です」
レミアータに案内されて到着したのは採掘ポイント周辺から10巡ほど歩いた場所だった。
そこは半径20メートル以内に遺跡の建物のひとつしか物が存在せず、それを基本として周りに石の防壁が組み上げられている。
余程の跳躍力のある魔物か、力で壁を壊せる相手くらいしか防壁の中に入るのは難しいだろう。
壁の一箇所に鉄製の扉があったので、ふたりは協力して扉を開けると中に入った。
「ここは確かに比較的安全かもしれないですけど、万が一魔物に入られたら袋の鼠じゃないです?」
建物の中に入ってから気になったことをフィリアは口に出す。安全性という面ではそのあたりをきちんとしておかなければ危険だ。
「それも問題ありません。この建物は地下に道があって、その道は建物の外に繋がっているのです。もちろん道の先の入り口は中からしか開けることができない構造になっています」
「……なんというかすごく手間がかかりすぎなような気もしますね」
「それだけ安全地帯というのは重要だということですよ」
呆れたような顔になるフィリアに対してレミアータは苦笑しながら肩をすくめる。
ふたりは先客がいないことを確認すると、部屋の真ん中に腰を下ろす。
壁際に座らないのは、万が一に何かあった場合に備えて動きを取りやすくするためだ。
「さっ、ご飯ですっ!」
「ええ、食事にしましょう」
機嫌良くパチパチと拍手をしてフィリアは、ポシェットから大きめの保管器を取り出す。
「レミさんがお昼作ってきてくれるとは思ってなかったですっ」
「保管器はこういうときに役立ちますから、使わない手はないでしょう。幸い、荷物自体はフィリアさんのポシェットにしまえますから」
昼食は王都を出る前にレミアータが用意してくれていた弁当だ。
本来、この暑いとも言えるような気温になってきた季節に、丸1日以上持って歩いた食べ物を食べるのは自殺行為である。しかし、保管器を活用すれば丸2日は保つようになる。
レミアータもそれを考えに含めたうえで、大きめの保管器に弁当を詰めてきた。
「それじゃ、ご開帳~」
「それは少し違う気がします」
調子良く保管器の蓋を開けると、その中には色彩豊かな食事がたくさん詰められていた。
揚げ物を中心として緑野菜の和え物など、その他にも多くの並んでいる。
「……こ、これは…っ!」
その中に(フィリアにとって)一際輝く存在が目に入った。
「ふふ、フィリアさんがお好きだとお聞きしたので用意してみました」
悪戯っぽく微笑むレミアータ。もともと美人だが、笑った彼女は美人度が増している気がするのはフィリアの気のせいではないだろう。
だが、フィリアにとって今はそれよりも目の前の白い食べ物だ。
「オ、オニギリ……っ!!」
まるで信じられない物に出会ったかのような大げさな表現。
しかし、ここに来てまさかそれが出てくるとは思っていなかったのも事実。
オニギリはフィリアの好物だが、依頼に出る前に買うのを忘れてしまっていたために今回は持ってくることができなかったのだ。
それを作ってきてくれる人がいるとは、とフィリアは感激していた。
「はぁ~」
目を輝かせて、これ食べていい? 食べていい? と言葉もなしに伝えてくる彼女にレミアータは苦笑を漏らす。
「手を拭いてから食べましょう」
「はーいっ」
持ってきた布巾で手を拭うとフィリアはオニギリへと突撃を開始する。
「慌てないで食べてくださいね」
リスのようにオニギリを頬張るフィリアの様子にレミアータは嗜めるようにそう言った。




