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魔法使いの雑貨屋  作者: 狸寝入り
《第二章 王女様とレイビィトの霊薬》
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一旦の休息

 重々しい音と砂煙を巻き上げながら、アリヴィードの巨躯が大地に横たわる。

 その背後には剣を振り切った形のままにネイトが屈んでいた。

 ネイトは振った剣についた血を払い、流れるような動作で腰の鞘に収める。そして皆の方に振り返ろうと身体を横に向けた時に、背後から突然抱きつかれてふらついた。

 一体何事かと視線を下に向ければ、よく見知った黒い髪の少女の姿がある。


「ネイトっ。良かった…っ」

「皆で戦っていたんだ。そんなに心配することじゃない」


 心から心配していることが伝わってくる声を落ち着かせようとネイトが冷静を心がけて頭を撫でる。

 学園時代ではたまに組んで、探索や採集などに行ったこともあるため、いつもならそこまで心配するような事はない。

 だが、それは一緒に戦っていたからこそである。何かあれば自分がフォローにまわれるという保証があったので大丈夫だったのだ。

 しかし今回はフィリアは前線に出してもらえなかった。護衛対象であるためにそれは仕方がないことではあるが、ただ大事な人が危険な目にあっているのを見ているしかできないというのは存外きついものがある。

 もちろん決して他の騎士たちを信じていないというわけではないが、だからこそ見ているだけの辛さというのはどうしようもないものだった。


「フィリアさんっ。戦闘が終わったとはいえ、まだ油断してはいけません。ましてやひとりで飛び出していくなんて、万が一があったらどうするつもりですかっ」


 フィリアに多少遅れてレミアータも駆けつけてきたが、開口一番はお説教だ。

 戦闘が完全に終了したと判明する前にフィリアは飛び出したのだ。もし最後の力を振り絞って相手が死に際に何かを放っていたなら無事では済まない。


「護衛である私に貴方を護らせないつもりですか?」

「うっ…、その、ごめんなさい」


 にこりと顔は優しげに微笑んでいるのに発せられているのは背筋が凍るような怒気だ。そのあまりの様子にフィリアは内心で、鬼様だ…と呟いたが、自身が悪かったとも理解しているので素直に謝った。


「分かって下さればよろしいんです。今度からは気をつけて下さい」


 謝罪を受け入れて怒気を収めるレミアータにコクコクと首を縦に振ることで了解の意を示す。

 たぶん今のはまだ本気で怒っていないだろうから、レミアータを本当に怒らせるのはやめようとフィリアは誓うのだった。


「三人とも、少し休憩したら出発するからこっちに来て休んでくれ」


 隊の皆が少し離れた場所で集まっていて、腰を下ろしている。立っているのはカイオールだけで、彼もこちらに声をかけるために腰を下ろしていないだけのようだ。


「あ、はいっ今行きますー!」


 小走りでそこに近づくと、フィリアたちも座り込み、体力回復を図った。


 ◇


 座って休んでいる間にフィリアは先ほどの戦闘で気になったことをネイトに訊ねることにする。


「ところでさっきの縄なんだけど、捕縛の機能ついてたよね。巻き付き方が不自然だったし」


 アリヴィードを拘束したあの縄。普通の物とは比べ物にならないほどの耐久性を誇っていたが、それよりもあの巨体に勝手に絡みついていたように見えたことから、恐らくそうなのではとあたりをつけていた。

 それに対してネイトが頷いて肯定する。


「ああ、そうらしい。俺も使っているところを見て驚いたがな」

「ええ、といっても詳しい機能については私たちも知りませんでしたから、あれほどの物とは思っていませんでした」


 丈夫な縄だからと言って渡されたのだが、装備については詳しく説明してくれてもいいだろうとレミアータを含めて他の騎士たちが内心で思っていたが、誰ひとりとして口には出さない。カイオールのそういう性格は日頃から嫌というほど分かりきっているからだが。


「へ~。あれってお店で似たようなの出したりしたらまずいかなぁ?」


 耐久性の強化については厳しいだろうが、捕縛の機能だけならなんとかなるかもとフィリアは考えていた。

 正直先ほどの戦闘を見ていて、あの縄は販売したら需要がありそうだとは感じていたが、その便利な機能は一方で悪用された場合に大変な危険性を孕んでいるとも理解している。

 もしどこからか盗賊にでも流れれば、護衛の騎士や冒険者に今よりも多くの犠牲者が出るだろうし、商隊などにも少なくない被害が出るかもしれない。

 所詮道具は使う人間の使い方ひとつで良いか悪いか変わるとは言っても、その道具の危険性というのを初めから考慮に入れないのは販売者としても製作者としても失格だろう。


「そうだな…、販売はやめておいた方が良いだろう。売る人間を見極めれば良いとも思うが、それも初対面の相手には難しいだろうし、何より自分から厄介ごとの種を抱え込むこともないだろうしな」

「そっか、やっぱりそうだよね…。うんっ、作るのはやめておくー」


 にへへとふにゃけた笑みを浮かべて、フィリアはネイトの言うことに従うことにした。人から心配されるのは相手に悪いとは思いつつも、やはり嬉しいものである。

 話がひと段落したところでカイオールが腰を上げた。どうやらそろそろ移動するらしい。和やかに話していると信じられないようなことだが、今は少しでも時間が惜しい状況に変わりはないのだ。


「さて、そろそろ先へ行くぞ。このまま東方向から上り階段の方へと進んで探索する。スレイフォンレイブほどの聖獣となるとそっちにに向かったほうが遭遇確率が良さそうだ」


 魔物たちは次の階層への階段に近づくほど強い相手が多くなる。ならばスレイフォンレイブも同様だろうとカイオールは予測していた。


「あ、行くってー。準備しよっ」


 フィリアたちも騎士たちに習って立ち上がり、出発の準備を整える。

 全員が隊列を組み直すと、一行は再び歩き出した。

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