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SS 「腕輪の残骸、花壇の冠」
春の陽が射しこむ侯爵邸の庭。私は花壇の縁に腰かけ、蔓薔薇の間からのぞく鉄片を見つめていた。
それは、かつて私の手首を縛っていた拘束輪の残骸だった。火に焼かれ、曲がり、歪んだまま。それでも、陽を受けると柔らかく輝いて見えた。
「セレスティア様、それ……まだ捨てないんですね」
栗髪の少女がそっと問いかける。記録係として働くようになった彼女の手は、紙の匂いよりも土の温もりを帯びていた。
「ええ。悪徳令嬢の証拠だから」
私は微笑む。
「枷であっても、光を受ければ冠になる。だから薔薇と並べたの」
少女は一瞬考えてから、声を弾ませた。
「じゃあ、これは“悪徳の冠”ですね」
「そう。悪徳の冠。だからあなたが旗を掲げるとき、私はこれを土台にして支えるわ」
少女は照れたように頷き、薔薇の蕾を指差した。
「次に咲く花、冠みたいに見えるかもしれません」
私は空を仰ぎ、ゆっくり息を吐いた。
処刑台も、橋も、炎も、数字も、すべては通過点。
この庭で芽吹く薔薇のように、物語はまだ続いていく。
「ええ、冠は——いつだって咲くのだから」