↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/144

四章 絡み合う出会い 五話










5、海翁好鴎








冬星州で、黒灰は連翹の実力を認めてくれていた。


だから、『闇星』の『黒花』である椿よりも早く、連翹は黒灰に招かれて軍の訓練に参加していた。




風蘭を襲った私軍とも何度となく刄を交えた。


訓練中は真剣に組み合い、訓練が終われば軽口を叩き合い、少しずつ連翹は私軍の面々と打ち解け合っていた。


だからまさか、あんな事態になるとは。




連翹は油断していた自分自身を呪った。


国の歪みは人を歪ませる。昨日の味方が今日の敵になることだってあるのだ。




まして、冬星州にはあの北山羊一族がいる。


26代国王時代の恨みはまだ、彼らにとって冷めやらぬものだろう。


27代国王芙蓉の時代もまた、彼らを苦しめたのだから。








風蘭が、ここで反逆の意を示すかどうかは連翹にとっては賭けだった。


風蘭は桔梗の影響もあって、自身が王になることに頓着はない。だが、この国を変えるには彼が王になるしかないのだ。


そして、桔梗もそれを望んでいたように思う。


だからこそ、風蘭が決断したときは、心が震えた。大きな流れの変化が見えた気がした。


そして、長い間の連翹の想いも、叶う日が近づいてきている気がした。








「わたしたち3人だけで、ですか?」


夏星州に向かうことに決まってから、連翹たちは何度も今後の対策を打合せていた。


いつまでもぐすぐずと冬星州に停滞していては、いつか風蘭の反逆が蘇芳の耳に届く。そうすれば、彼は国軍『輝星』を出軍させることすら躊躇わないだろう。


時間の問題だが、それでも早く冬星州を発つ方がいいに決まっている。




そこで、その日も夏星州に向かうための打ち合せをしていた。


黒灰が告げたのは、風蘭、連翹、そして椿の3人だけで夏星州に向かうことだった。


「3人・・・では、さすがに危険では?!」


「人数が多ければ多いほど危険、ということもある。仮にも椿は『黒花』。足手纏いにはならぬと思うが」


「ですが・・・・・・」


「なによぉ、連翹!!あたしの実力を疑うの?!」




言い募る連翹に、椿が不満気に抗議してくる。さらに、逸初が冷ややかに言い加えてきた。


「椿はいずれ『闇星』を束ねる立場になる者。無事に風蘭公子を夏星州にお届けし、『黒花』の遺骨を納めてこない限りは、私は認めるわけにはいかないですね」




逸初の中では、『黒花』はまだ石榴だ。椿はまだ、『闇星』で石榴に次いで権力のあった逸初に、次期『黒花』と認められてはいない。その逸初にそう言われ、椿ははりきって頷いた。


「もちろん、この任務は果たしてみせるわ。・・・ほら、風蘭!!旅立ちの支度するわよ!!」


「へ?あぁ、俺も?!」


「あたりまえでしょ!!しっかりしなさいよ、旅支度まで連翹にさせる気?!」


「な、違う!!」


「情けないわね~星華国の王になろうって人が旅支度までできない『坊っちゃん』なんて」


「違うって言ってるだろ?!」






ぎゃぁぎゃぁと椿と風蘭はわめきながらその場を離れてしまう。残されたのは、連翹と黒灰、柘植、逸初と皐月だった。


「まぁ、先ほどの話は表向きで」


風蘭たちの姿が見えなくなると、唐突に黒灰は口を開いた。


「風蘭公子はもちろん、椿も次期『黒花』として大事な存在。連翹ひとりにその重責を負わせる気はない」


「ただ椿ちゃんにはある程度の危機感を持ってもらいたいから、あえてそれを言うつもりはなかったの」


皐月が黒灰の言葉を継いで言う。




連翹は小さく頷いて、黒灰に問い掛けた。


「それで、護衛はまた瓶雪さまの私軍ですか?」


警戒する物言いに、黒灰は首を横に振る。答えたのは、冬星州州主である柘植だった。


「黒灰の私軍からまた裏切りがあったら、今度こそ収拾がつかない。しかも、あの軍は朝廷にまで知れている公の存在。それを動かしたとなれば、当然朝廷は怪しむでしょう。無論、冬星軍などもっての他」






事はなるべく隠密に。


連翹も柘植の言いたいことはわかったので、すぐに納得した。


「では、護衛はどのように?」


「『闇星』が陰ながら護衛をするわ」


逸初がきっぱりと言い切った。


先程椿に言ったこととは異なる態度に、困惑しているのは連翹だけのようだった。


黒灰も柘植もすでに逸初から聞いていたのか、表情は動かない。






だが、『闇星』は長い間瓶雪一族と共に、冬星州を守っていた存在。やはり連翹は戸惑った。


「え?!それでは冬星州は・・・」


「『闇星』は別に冬星州にいなくちゃいけないわけじゃない。先代の『黒花』が冬星州を拠点にしていただけ。もともとあちこちを転々としているし、何人かの『闇星』の仲間は諜報員として各州にいますし。椿がどこまでやれるか、この目で見てもおきたいですしね」


逸初の厳しい瞳がその本気を示す。皐月も真剣な面持ちで頷いて言った。


「これは『闇星』のみんなで決めたこと。『黒花』になる椿ちゃんを見守ることと同時に、星華国の王になると宣言された風蘭公子を見極めさせていただくためでもある。『仕えるに足る王』であるかどうか、ね」


「わたしたちは、試されるのですね」


「命の保障だけはするわ」




連翹が苦笑して言えば、逸初から自信のある頼りがいのある言葉が返ってきた。


「どんなことがあってもあのふたりは守るわ」


皐月も、逸初に同調する。黒灰と柘植も、それを後押しするように黙って頷いた。






それが、冬星州を旅立つ、前日の話だった。






そしてその言葉どおり、道中何回か殺気を感じることがあったが、一晩でそれが一掃されることが続いた。


彼女達は約束どおり、風蘭たちを守ってくれているようだった。




ところが、あと少しで秋星州に辿り着くと思われた森の中で、連翹は複数の殺気を察知した。


いつもよりも数が多い。『闇星』の彼女達も取り逃がしてしまったらしい。


「どうやら囲まれたようですよ、風蘭さま」


とりあえず風蘭と椿を先に秋星州にやれれば、北山羊一族も冬星州にいるときほど手出しはできない。


もしくは、私軍の襲撃かもしれないが、どちらにしても同じ事。




「先に秋星州へ行ってください」


連翹の進言に、椿は渋々ながらも頷いた。ちゃんと自らの力量を計れる、賢い選択だ。


ただ、風蘭は最後まで抵抗した。


風蘭の脳裏によぎっているのは、おそらく石榴の死。


彼を守って死んだ彼女と、ふたりを逃がしてひとりで戦おうとする連翹が重なってしまうのだろう。




「大丈夫ですよ、またお会いできますから」


こんなところで死ぬわけにはいかない。連翹は風蘭を安心させるように穏やかにそう約束した。


とうとう決断した風蘭は、別れ際に連翹に言った。




「命令だ!!絶対生き延びろ!!」






心が、打たれた。


ずっと一緒にいて、初めて放たれた、『命令』。


主君たる人物ととうの昔に決めた、大事な彼が。






「御意のままに、我が君」


自然と言葉が出た。


名残惜しそうな風蘭の背中を見送って、連翹は表情を引き締めた。


「さぁ、始めましょうか」








実際、連翹ひとりが戦っている時間はごくわずかだった。


程なくして『闇星』が彼に追い付き、共に敵を一掃してくれたからだ。その中にはもちろん、皐月や逸初もいた。


「私たちの不手際で申し訳ない」


ある程度片付いたところで、逸初が悔しそうに連翹に詫びた。


「いいえ、あなたがたのお陰で想像以上に順調にここまで来れたのですから感謝していますよ」


剣を鞘におさめながら連翹は微笑んで答えた。






連翹と『闇星』が力を合わせれば、彼らを囲んでいたはずの敵たちはあっというまに蹴散らかされた。


今は敵を捕らえることを目的としていない。敵を捕らえ詰問することは、黒灰と柘植がやってくれるだろう。


今の連翹たちがすべきは、風蘭と椿を夏星州に無事に届けることだ。おそらく、ふたりは冬星州を出たところだろう。




明けていく空をぼんやりと見上げながら連翹がそんなことを思っていると、にこにこと皐月が彼に近づいてきた。


「風蘭公子たちが心配ですか?『闇星』の数人をあのふたりにつけたので安心してください」


「ありがとうございます」


礼儀正しく、連翹は頭を下げる。


「一休みして、私たちも秋星州に向かいますか?」


逸初が連翹に尋ね、彼もそれに頷いた。




「おそらく、風蘭さまたちは秋星州の愁紅へ向かわれたのではないかと思います。万が一、怪我を負っていたとしても、愁紅なら名医がそろっているので、大丈夫でしょう」


「なぜ、愁紅に名医がいると?」


「医官の一族、長秤一族が治める土地だからですよ。彼らが怪我人を放っておくとは思えない」


「ずいぶんとお詳しいのですね?」


感心するというよりは、訝しむように逸初は彼に言った。彼は少し悲しそうに笑んだだけだった。


「以前、少しだけこの国について調べたことがあったので」






桔梗に拾われる前に少し調べ、拾われてからは史書をあさるように読んだ。


だが、それは国のためではなく、自分自身のため。


まだ幼かった連翹にできたのはそれくらいだったから。






「・・・まただわ」


ふっと逸初が眉間に皺を寄せて構える。今、敵を追い払ったというのに、また新たな気配がこちらに向かっているのだ。


「でも殺気がないわ」


皐月も構えるが、納得がいかない様子で首をかしげる。






北山羊一族の襲撃と、私軍の反乱、交互に襲ってくるにしても明け方というのはおかしい。




しかし、どんなに不思議に思っても、確実に一集団がこちらに向かってくる気配は変わらないのだ。


連翹も黙って剣を構えた。森の中をゆったりと馬が走る音がする。


同時に聞こえるのは・・・・・・。




「馬車?!」


馬車の車輪の音が聞こえるのだ。襲撃するのにわざわざ馬車でくる者などさすがにいないだろう。


ただの通りすがりだろうか。


こんな時間に?






戸惑う連翹たちに容赦なく、その馬と馬車の音は近づいてくる。


その人影が見えてくるようになると、逸初や皐月たち『闇星』たちは武器を隠した。そして、連翹の表情が強ばる。




向かってくる集団はみな、官服を着ていたのだ。




その存在を官吏たちにまだ知られるわけにはいかない『闇星』たちは、武器を隠し、気配を消し、できる限りさっと姿を消す。


その場には逸初、皐月、連翹だけが残った。連翹はまだ、剣を抜いたまま立ち尽くしている。






やがて、官服を着た集団が、その表情まで見える距離まで近づくと、馬に乗っていたひとりが降りて連翹に近づいた。他の馬からも何人か体格のいい男たちが降りて連翹に近寄る。


「蜂豆 連翹だな」


最初に歩み寄ってきた男が言った。連翹は軽くうなずくだけで答える。


「あなたがたは?」


そう尋ねたのは逸初。男は逸初を一瞥すると、硬い表情を崩さずに告げた。






「わたしたちは刑部官吏。執政官の命により、ここに来た」


「執政官?刑部長官ではなく?」


彼ら刑部の官吏の直属の上司は刑部長官である。




そして、刑部の長官は双一族の者。


だから、連翹は『見逃された』のだ。




しかし、刑部長官よりも権力のある執政官からの命令では、彼らも従わざるをえないのだろう。






「双刑部長官はご存じのことか?」


連翹が問えば、男は黙って首を横に振る。




ならば、蘇芳の独断で彼らはここに来たのか。


連翹を迎えに。






「蜂豆 連翹。おまえの身柄を蠍隼執政官の命により、拘束させてもらう。おとなしく水陽まで来てもらおうか」




「なぜ?!」


当人ではなく、皐月が叫ぶ。そうしている間にも、男たちは連翹の両手を縄で縛り付けている。




連翹も剣を手放し、抵抗はしない。彼は、抵抗したところで無駄なことを知っている。






刑部の官吏は、連翹が馬車に乗り込むのを確認したあと、ゆっくりと振り向いて、皐月たちに言った。








「民部長官殺害の嫌疑があるからだ」









そんなわけで、秋星州編は、どちらかといえば、朝廷側の不穏な動きにご注目!

まずは、連翹が連行されちゃいます~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。